公共部門の民営化や労働条件調整をめぐる労政対立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年4月

2002年の賃上げ及び労働協約改定交渉が本格化するのを前に、早くも公共部門で政府の予算編成指針や民営化案などをめぐる労政対立が再燃している。特に労働界は、労働時間の短縮のほかに、非正規労働者の保護立法、公務員・大学教員労組の合法化、必須公益事業所に対する職権仲裁制度の廃止など、労働法改正をめぐって政府に対する圧力を強めるため、再びナショナルセンターレベルでの政治闘争と事業所レベルでの賃上げ闘争との連携を軸に、対政府闘争体制を強化していく構えをみせている。以下、2月下旬現在までの公共部門における労政対立や労働界の対政府闘争の動きを追ってみよう。

ソウル市傘下公企業における労使紛争

まず、ソウル市傘下公企業6社では、賃上げ及び労働協約改定交渉の際に、政府の地方公企業向け予算編成指針が最大の争点となり、労組側は1月28日、「2月4日から連帯ストライキに突入する」と宣言した。そのなかで、市民生活への影響が大きいうえ、1999年以降ノー・ストの方針を貫いてきたソウル地下鉄公社労組(地下鉄14号線)と都市鉄道公社労組(地下鉄58号線)の動きが注目された。

まず、最大の争点になった政府の地方公企業向け予算編成指針からみてみよう。その主な内容は、①賃上げ率を6%に抑える、②さらなる人員削減を行う、③退職金累進制を廃止する、④労組専従者数を削減し、年月次有給休暇を縮小する、など15項目のガイドラインを出し、それを履行しない場合、予算を削減し、経営陣の責任を問うというものである。

これに対して、ソウル市傘下公企業6社労組は「予算編成指針は労使の団体交渉権を侵害するものである。個別事業所の事情を無視し、公企業の経営陣と労組の立場を全く反映していない」と反発し、「賃金及び労働協約改定交渉そのものよりは、政府の予算編成指針の撤回を求めて違法ストも辞さない」と宣言するなど、対政府闘争の構えを前面に出した。

これを受けて、政府は「全国地方自治体に出した地方公企業向け予算編成指針は、公企業関連法に基づいて毎年決定されるもので、労組が関与すべき事項でもなければ、団体交渉の対象でもない。公企業は国民の税金で運営されるゆえ、公企業の経営不振はつまるところ国民の負担増となって跳ね返ってくるだけに、公企業の健全な運営のためには財政上の統制は避けられない」との見解を表明し、「全国の地方公企業100社のうち、2000年に予算編成指針を守らなかったのはソウル市傘下公企業6社のみである」と付け加えた。

特に、ソウル地下鉄公社に対して政府は「2000年に4373億ウオンの赤字を出し、累積赤字は3兆947億ウオンに上っている。にもかかわらず、労組は経営成果を考慮せず、賃上げのみを要求する。2000年末に妥結した賃上げ率は14.31%なのに、また新たに追加賃上げを求めている」と指摘し、このような下方硬直的な賃金及び労働条件改善要求に歯止めをかけるために予算編成指針は欠かせないとの立場を貫いた。

これに対して、労組は「賃上げ率11.51%、解雇された組合員19人の復職、417人の人員削減反対などの要求案」を提示して、賃上げ及び労働協約改定交渉に臨んだが、政府の予算編成指針のため、労使間の話し合いは難航した。結局、労組は2000年12月27に臨時代議員大会を開いて「政府の予算編成指針」の撤回などを求めて争議突入を決議し、「2月4日からストに突入する」ことを明らかにした。

これを受けて、中央労働委員会は1月26日、特別調停委員会を開いて同公社労使に対して調停案を提示した。労組側は「労使の自主的交渉を前提にした調停案を尊重する」との立場を表明したのに対して、使用者側はこれを拒否した。そのため、中労委は職権仲裁に回付した。これにより、2月9日まで15日間ストなどの争議行為は禁止され、その間のストは違法行為にあたることになった。

その一方で、ソウル地下鉄公社と地下鉄路線を二分している都市鉄道公社の労使は2月1日、中労委の調停案を受け入れ、賃上げ及び労働協約改定交渉を再開し、2月2日午前6時頃次のような内容で合意に達した。①賃上げ率を6%以内に抑える。ただし、賃上げの対象になりにくい項目や自然増加分を合わせた1.87%は賃上げ率に加算しない。②労組専従者数は政府の指針に基づいて削減する代わり、選挙で選ばれる役員の組合活動を保証する。③年月次有給休暇は週休2日制の導入に合わせて調整する。④退職金累進制を通常の退職金制度に変更する際に、組合員に不利益が生じないよう工夫する。退職金中間清算のために2002年上半期中に300億ウオンを確保し、社内勤労福祉基金に50億ウオンを寄付する。⑤人員不足分138人の公募を2002年上半期に行う、などである。これと同時に同労組は、2月4日に予定していたソウル市傘下公企業労組の連帯闘争への参加方針を撤回した。

この合意に引きつられる形で、ソウル地下鉄公社労使も2月2日から交渉を再開したものの、賃上げ率や労組専従者数の削減、年月次有給休暇の縮小、解雇された組合員の復職などをめぐって折り合いがつかず、交渉は数回にわたって中断した。結局、2月3日午後8時を過ぎてようやく労使は次のような合意に達し、労使紛争は終結を迎えた。①賃上げ率は前述の都市鉄道公社と同様である。②退職金累進制を通常の退職金制度に変更する際に、退職手当を支給し、年月次有給休暇日数の縮小分も手当で補填する。③社内勤労福祉基金に97億ウオンを寄付する。④解雇された組合員6人を復職させる。⑤労組専従者数は現行の水準を維持する、などである。

今回のソウル市傘下公企業における労使紛争では、当初労組側が「政府の予算編成指針は公企業の自律経営や労使自治の原則を侵害する」点を強調したこともあって、対政府闘争の色合いが強かった。しかし、実際には政府の予算編成成指針を守らなければならない使用者側と、賃上げ率や退職金制度などで実利志向を強める労組側との間で妥協案を模索する試みが目立った。すなわち、公共部門でも政府の予算編成指針よりは、労使自治に基づく労使間の取引いかんが依然として労使関係の性格を規定するということが改めて確認されたのである。

鉄道・電力・ガスなど公共部門での民営化及び労働条件をめぐる労政対立

その一方、政府の民営化法案と労働条件の改善などが主な争点になった鉄道・電力・ガス部門では、各労組が計画通り2月25日午前4時、史上初めて連帯ストライキに突入したため、通勤や物流などに大きな混乱が生じた。

そのうち、ガス部門ではその前日に労使交渉が事実上妥結したにもかかわらず、鉄道及び電力部門で労使交渉が決裂したため、それに歩調を合わせる形で同労組は交渉の決裂を宣言し、連帯ストライキに参加した。しかし、25日午後になって再びガス部門の労使は最終合意に達し、同労組側はストライキを撤回するなど、早くも足並みの乱れがみられた。

その後、鉄道と電力部門では労組の交渉権が上部団体に委任され、上部団体が政府との直接交渉にあたるなど、韓国労総と民主労総が競うように支援態勢を強化する動きが目立つようになった。そして2月26日から鉄道部門と電力部門での労使交渉が再開され、まず鉄道部門で27日午前6時頃労使交渉が妥結し、長期化が懸念されたストライキは2日ぶりに終結を迎えた。

では、鉄道・電力・ガス部門における労使紛争にはどのような特徴がみられるだろうか、その経緯を追ってみよう。当初「鉄道、ガス公社、発電産業、電力技術、地域暖房、高速鉄道など」公企業6社の労組は「国家基幹産業民営化阻止のための共同闘争本部」を結成し、2月7日に政府に対して「民営化及び外国企業への売却案の撤回、公共部門における人員削減の中止及び労働条件の改善、国家基幹産業の民営化案に関するTV討論会の開催、同共闘本部と政府との直接交渉など」を要求し、「政府の民営化関連法案が臨時国会に上程される時期に合わせて2月25日に連帯ストライキに突入する」と宣言した。

この時点では政府の民営化関連法案の阻止が主な争点になっていた。しかし、その後、同法案をめぐっては国会の関係常任委員会での審議が遅れ、今国会での成立は難しくなった。それに政府は労組側の民営化阻止のための違法ストライキに対しては法に基づいて厳正に対処する方針を貫く一方で、労働条件の改善要求に対しては前向きに検討する姿勢を示したこともあって、主な争点は、民営化法案の阻止から労働条件の改善や労働協約の改訂などに移った。

各部門において労働条件の改善や労働協約の改訂をめぐる主な争点は次の通りである。まず鉄道部門では、解雇された組合員の復職のほかに、労働時間の短縮及び勤務形態の変更(賃金削減無しに2組2交替制から3組2交替制へ)、それに伴う増員などである。次に、電力部門では、解雇された組合員の復職のほかに、組合専従者数、懲戒委員会の委員構成、組合幹部の懲戒や人事異動の際に労使間の事前協議、集団解雇禁止条項の新設などである。そしてガス部門では、会社の分割・合併の際に労組との事前協議、安全対策の一環としてガス供給管理所の増員、ストへの参加が禁止される「協定労働者制度」などである。

これに対して、政府は2月22日の労働関係閣僚会議で「労組側も国民生活に甚大な影響を及ぼす違法連帯ストライキには負担を感じ、できるだけそれを避ける道を選ぶだろう」と判断し、「構造改革の柱である民営化方針だけは貫きながら、他方で労働条件改善要求などは受け入れる」という妥協案を模索する方針を決めたようである。

これを受けて、各部門の労使は、2月23日から24日にかけて前述のような争点をめぐって交渉を続け、ガス部門では中労委の調停案を踏まえて事実上合意に達するなど、政府のシナリオ通りに労使交渉は展開されるかにみえた。

しかし、その一方で、韓国労総と民主労総は競うように各部門別労使交渉に対する支援態勢を強化し、政府との直接交渉を求めるなど、労働界挙げての対政府闘争につなげようとする構えをみせた。つまり、韓国労総と民主労総は2月24日に記者会見を開いて各部門の個別交渉を中断し、政府との直接交渉に切り替える方針を明らかにするとともに、連帯ストライキに向けて各部門労組の闘争力の結集に努めたのである。

結局、このような上部団体の支援態勢に呼応するかのように各部門労組は違法を覚悟で連帯ストライキに突入するに至った。これで、「民営化案撤回と労働条件改善を切り離し、後者に絞って妥協案を模索する道」を用意しようとした政府のシナリオは、「各部門労組の民営化阻止のための連帯闘争体制と上部団体の対政府闘争路線」の壁に阻まれ、頓挫してしまった格好である。

そして連帯ストライキは、早くも公企業の民営化をめぐる政府と労働界の全面対決に発展する勢いをみせた。労働界は「ストライキの責任は、新自由主義的構造改革の一環として民営化を強行する政府側にある」とし、政府の構造改革に真正面から挑戦する構えをみせた。

その一方で、政府は国民生活や経済、対外的信用への影響を最小限にとどめるために公企業の民営化方針を貫きながらも、ストの長期化だけは避けなければならないという厳しい局面に立たされた。そのため、政府は今回の連帯ストライキは違法行為にあたるとして、各労組の執行部全員に逮捕状を発出し、法に基づいて厳正に対処するとともに、ストライキの早期終結に向けて公権力の行使もやむをえないと警告するなど、強硬に対応する方針を貫いた。

労組側はこのような政府の強硬策や世論の厳しい声に加えて、違法ストに伴う民事・刑事上の責任追及などに急に不安を感じるようになったのか、労使交渉の再開に向けて活発に動き出した。

まず、鉄道部門では2月26日午前から交渉権を委任された韓国労総側と鉄道庁側は交渉を再開し、27日午前7時前に次のような妥協案で合意に達した。①民営化案については、「労使は鉄道が国家の主要公共交通手段であることに共通の認識をもち、今後鉄道の公共性に基づく発展に向けて共に努力する」という宣言を盛り込む。②最大の争点となった勤務形態の変更については、6カ月以内に労使共同で専門の経営診断を通して適切な要員と勤務形態を決定した後、2002年から試験的に実施し、2003年から2004年にかけて段階的に拡大実施する。また勤務形態の変更に伴う手当の減少分は補填する。③1988年と94年の労使紛争の際に解雇された組合員58人の復職については、韓国労総・労使政委員会委員長・労使代表などが責任をもって9月末までに具体的な救済方法(例えば、傘下の関連会社への就職斡旋)に関する合意案を見出す。その他に、諸手当の引き上げや福利厚生の改善要求案も合意された。

この合意案をみる限り、ようやく政府のシナリオ通りに「政府側は民営化方針を貫く一方で労組側は労働条件の面で実利を取る」という妥協案が成立し、連帯ストライキの長期化という最悪の事態は避けられたということになる。

電力部門では3月上旬現在依然として労使交渉は難航し、ストライキは長期化の兆しを見せている。

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