欧州労使協議会に関する指令のイタリア国内法への転化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年4月

欧州労使協議会(CAE)の設置に関する指令(1994年9月22日94/45/EC号)をイタリア国内法へ受容するための委任立法(2000年12月29日法律422号による委任)が、イタリア政府による承認手続中である。

同指令の目的は、EC域内の企業ないし企業グループであって、加盟国2カ国以上にまたがっており、加盟国全体でみて従業員数1000人以上、かつ1カ国あたりの従業員数が150人以上の企業の労働者に対する情報提供・協議の権利を改善することである。

労働組合が実施した統計調査によれば、同指令の対象となる多国籍企業は1100以上あり、これを労働者数でみれば約1500万人に上るとされている。

CAEに関する指令の国内法化の過程

CAEに関する委任立法の制定の端緒となったのは、1996年11月27日同盟間協定の締結であった。同協定は、イタリアの2大使用者組織であるイタリア工業同盟(Confindustria)および金融会社間企業組合(Assicredito)と、3大労組のCGIL(イタリア労働総同盟)、CISL(イタリア労働者組合同盟)およびUSL(イタリア労働連合)との間で締結されたものであり、ときには労働社会保障大臣も関与した。ただし、同協定におけるEC指令の受容は部分的なものにとどまっていた。

欧州委員会は、2000年4月4日に、共同体内の企業および企業グループにおけるCAEの設置または労働者への情報提供・協議手続の制定に関する指令の実施状況について、欧州議会および理事会に対し報告書を提出している。この報告書では、同指令のイタリア国内法への受容は、罰則規定を備え、すべての個人を拘束する効果をもつ法律によって実施すべきことを確認している。というのも、「同盟間協定では、すべての職業部門がカバーされていないため、その内容および適用範囲が限定的であり、不完全な受容にとどまっている」ためである。

同盟間協定に関わった使用者団体および労働組合がかなりの数に上ること、そしてこれらの団体の産業システムにおける影響力などの点に関しては、労使の活動が生かされたものとして、イタリア政府は積極的に評価した。

この点、EC条約137条第4文は、労使の要求がある場合には、各加盟国が、労働条件に関わる指令の実施権限を、労使に委任できると定めている。この場合、加盟国の権限は、「指令によって課された結果が労使によって常に確保されるように、当該加盟国が必要な措置をとるべきことは維持したうえで、労使が合意を通じて必要な措置を定める」ことに対する保障である。そのうえで、「労使は、就業における障害を減らし、現代的な労働体制の導入を容易にし、そして経済分野における構造改革に沿うよう労働市場が変化するのを支援することに貢献する」(2001年就業に関する指針のガイドライン14号参照)。

これらの点を考慮して、イタリア政府は、関係する労使代表的組織のほとんどが署名し、指令を国内法へ転化する「法規」として具体化されたことを大きく評価しているのである。

措置の内容

新立法では、共同体域内の企業および企業グループの労働者に関する情報提供・協議の権利を改善することが目的とされた。この点は、共同体域内の各企業および各企業グループにおけるCAEの設置ないし労働者への情報提供・協議の手続の制定に関する規定(1条)で明らかにされている。

委任立法の2条は、指令の内容に関する定義規定である。

同条によると、「工場(stabilimento)」は生産単位を意味するとされている。また、「共同体域内の企業」とは、2以上の加盟国において労働者を雇い、加盟国全体での従業員数が1000人以上、かつ1カ国あたりの従業員数が150人以上の企業である。さらに、「企業グループ」とは、1つの統括企業および当該企業によって統括された複数企業によって構成されたグループであり、「労働者代表」とは、現行法および現行労働協約にいう労働者代表である。

同条では、「情報提供・協議」という重要な用語についても定めがあり、データや事実、資料の提供のほか、労働者代表と中央経営陣(より適当な場合にはその他いかなる経営陣でもよい)との意見交換や話し合いの成立も対象とされている。

3条では、「統括企業」という語についての類型化および例示がある。この統括企業とは、他の企業に対し、結果的に支配的な影響力を行使することができるものを意味する。たとえば、株式保有や資本提携の場合である。

CAEの設置ないし情報提供・協議手続の制定は、まず、中央経営陣または関連する権限および権能を委任された上級管理職(4条)と特別交渉委員会(6条)との間の合意によって実現される。特別交渉委員会の構成員は、当該企業または企業グループに適用される全国労働協約を締結した労働組合が、当該企業または企業グループの統一組合の代表と協力して指名する。

委任立法の5条ないし8条は、特別交渉委員会の設置方法(当該手続は、イタリアで実施された選挙や指名のすべてに適用される)、設立(特別交渉委員会は、当該企業または企業グループが1以上の工場または企業を有する加盟国1カ国あたり通常1名ずつ選出し、3名以上17名によって設立される)および権限(中央経営陣、または、書面による同意がある場合には担当上級管理職とともに、1ないし複数のCAEの活動範囲、構成、権限および任務期間、または、労働者への情報提供・協議に関する手続の実施方法を定める)に関する規定である。

交渉にかかる費用については、8条に定めがある。同条によると、交渉費用は、特別交渉委員会がその任務を適切かつ短時間のうちに遂行できる程度の額を、中央経営陣が負担するものとされている。

9条は、労働者への情報提供・協議の実施方法に関する協定に関する規定である(礼儀をわきまえ善意で交渉に臨むという原則に従い、「建設的な姿勢で」交渉しなければならない)。

上記の協定では、当事者の自律性を維持したうえで、同協定が対象とする共同体域内の企業グループに属する企業または共同体域内企業の工場の意義、CAEの構成、構成員の数、ポストの配分および任務の期間について明らかにしている。また、CAEの設置場所、回数および期間や、CAEによる情報提供・協議の権限および手続、CAEに配分すべき資金および物的資源、協定の有効期間および再交渉の手続、ならびに、情報提供・協議の内容についても定めがある。

協約の締結に際しては、特別交渉委員会の構成員の過半数が決議を行うことが必要である。

CAEのイタリア代表構成員ないし情報提供・協議手続の代表者は、当該カテゴリーの構成(管理職、ホワイトカラー労働者、ブルーカラー労働者)を考慮したうえで、当該企業または企業グループに適用される全国労働協約を締結した労働組合からその3分の1を指名し、当該企業ないし企業グループの統一組合の代表から残りの3分の2を指名する。

10条および16条には、CAEの「強制的」設置が規定されている(特別交渉委員会の要求があってから3年以内に9条にいう協定が締結されず、既存の協定の有効期限が延長されることなく期間満了を迎えた場合)。

委任立法によれば、この場合、CAEは、上級職労働者が15%以上雇用されている加盟国1カ国につき1つの追加ポストを配置するとともに、選挙権および被選挙権を定め、上級職労働者のための特別代表を決めなければならないとされている。さらに、最低構成員数や活動方法についても規定がある。

11条は、「機密情報」に関する重要な規定である。この点に関して、指令8条第2文が採用していたような司法機関や行政機関の事前許可制はとられなかった。代わりに、特別交渉委員会の構成員、CAEの構成員および必要に応じてこれらの構成員を補助する専門家(情報提供・協議手続に関わる労働者代表など)は、極秘に取得した第三者の情報および中央経営陣または担当上級管理職により極秘とされた情報を漏洩することはできないとの定めが置かれた。この定めに反した場合については、懲戒規定が適用されるとともに、後述の17条の定める罰則の適用も受ける。

極秘に提供された情報および極秘とされた情報の機密性に異議がある場合については、調停技術委員会の設置が定められている。同委員会は、CAE、特別交渉委員会または情報提供・協議手続に関わる労働者代表によって指名された者1名、中央経営陣により指名された者1名ならびに共同協定を締結した当事者により指名された者1名の、計3名により構成される。

12条は、交渉主体の権利義務の遵守および協働精神に関する規定である。

特別交渉委員会の構成員ならびに情報提供・協議手続に関与する労働者代表は、特別な有給休暇の権利を有する(13条)。

事業所の移転および集団解雇の場合の情報提供に関する権利について定めた1990年12月29日法律428号47条および1991年7月23日法律223号24条の規定や、現行労働協約および協定で定められた情報提供・協議の権利は、従前通り維持される(14条)。

委任立法の最後の規定は、罰則である(17条)。同条には、同盟間協定を締結した労使の意見が反映されている。犯罪を構成する場合には刑罰が適用されるのはもちろんであるが、同条では行政罰の適用も規定されている。情報提供が履行されない場合については、所定の調停委員会が設置される。協定が締結されない場合には、労働社会政策省の労働報告書に関する総監督が、不十分な点があればそれを指摘したうえで、同義務の履行を命ずる。調停が実施されていることは、裁判所への提訴の要件である。

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