銀行業界再編進む

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

政府の指導により、金融業界の再編が進む中で、銀行業政労使三者委員会(BITC)が、1999年に設置され、その機能に対し肯定的な評価がされ始めている。

銀行界の合併状況

経済のグローバリゼーションにより、フィリピンの銀行業界は、国際競争の荒波にもまれている。過去5年間、フィリピンの銀行業界では、吸収と合併が相次いだ。この背景には、大規模で経営基盤の強固な銀行を育成し、国内の金融システムを強化しようというフィリピン中央銀行の政策がある。

1980年代から、中央銀行は、より堅固な銀行システムの発展を目的とした改革方法を審議していた。改革内容には、金利の自由化、外貨取引き規制の緩和、ユニバーサルな銀行業務の導入、最低自己資本比率の増加要求が含まれていた。これらの改革は、金融界のグローバリゼーションが進むなかで、国内の銀行システム堅固にする、積極的な政策だと認識された。

1998年、中央銀行は、銀行部門の自由化を促進する方針を決定し、1998年と1999年に「銀行と他の金融機関に対する経営方法規則」を改正し、強い指導を実施しし始めた。改正内容には、合併や整理統合を促進するために税制上の優遇措置、銀行資産の再評価が含まれていた。

事業の維持を努力している多くの銀行は、経費削減に着手し始め、労働日・労働時間・技術訓練時間を削減した。フィリピン中央銀行の新自己資本基準に合うよう、合併による再編が進み、1996年から2000年までに、26銀行が関係する12の合併が行われ、このうちの半分の6合併が2000年中に実施された。その結果、合併による人員削減と解雇により多くの行員が失業した。

2001年には、エストラーダ前大統領が、「改正普通銀行法」に署名した。この法律は、海外の銀行が、国内の銀行を買収することを許可したもので、加えて、新資本基準に合格した銀行にのみ、3年以内に新営業許可証を発行する。このため、銀行は、財務状況を早急に強化する必要に迫られていた。

合併がもたらす雇用への影響

合併は、労働者に結果的に失業をもたらしている。合併を発表した銀行は、解雇を避ける努力をすると発表しているが、新たな銀行を設立し、支店を統合し、業務を整理・簡素化すれば必然的に余剰行員を解雇せざる得ない。労働法は、経営者に過剰人員の削減、経営上の損失や業務の閉鎖による解雇を認めている。

労働雇用省(DOLE)によると、銀行業界では、1996年から2000年9月までに、再編による理由から1万2293人が解雇された。特に2000年の1月から9月までで4729人が解雇された。

DOLEによると、行員の1.6%だけが、労働組合に組織化されているが、このうち3分の2は、全国的な労働組合の傘下にない小規模で地域的な労働組合である。3分の1は、フィリピン労働組合会議(TUCP)、自由労働者連盟(FFW)、全国行員労働者組合(NUBE)等の傘下にある。

労働組合の活動は持続的であるが、スト決行に至ることはまれである。ただし、中央斡旋調停委員会(NCMB)は、スト通告数と、デッドロックによる集団的非合法労働慣行が近年増加していることを発表している。この理由は、多くの行員労組の団体協約は1999年に更新されたが、この多くが難航し、経営者側が提示したの団体協約の内容に反対する組合員の数は増加したことにある。もう1つの理由は、合併を計画する銀行の経営者が、労組に対し再職業訓練、勧奨退職優遇措置、転職支援システム等の労働者の生活を守る十分な支援計画への努力を欠いでいたためである。

BITC創案の経緯

銀行業界が、再編される中で、BITCが創設された。

1999年、労働雇用省の労働研究所(SLI)のレノ・オフレンコ教授は、NUBEが主催した会議で、銀行部門の政労使の三者調整委員会(BITC)の設置を提案し、ヨセP.ウマリNUBE委員長は、この案を政府に実施するよう要請することを決定した。NUBEは、この会議で、合併または吸収による労働者の悲惨な状態に、経営者と政府の関心をどのように引き出すかの方法について討議していた。

1999年10月9日、NUBEは、提携している労働組合、DOLEの官僚、経営者の参加によりシンポジウムを開催した。このシンポジウムで、BITCの構想が、NCMBの副委員長の注意を引き、当時のラグエスマ前労働雇用大臣に推奨した。NUBEは、他の労働組合にも、この案を支持するよう要請した。

2000年3月1日このBITC設置協定の覚書はエストラーダ前大統領により署名され、BITCによる銀行の労使紛争調整が始まった。

BITCの組織と機能

BITCは、銀行業界の政労使の代表から構成される。産業レベルの労使紛争調整機関で、他の三者調整機関から独立しており、加えて中央銀行の代表が参加していることが特徴である。中央銀行は、国内銀行の主たる調整機関なので、ある程度までは銀行を管理でき、経営者に影響力を持ち、労使紛争を調整することに成功した。

BITCの主な機能は、次のとおりである。

現在の労働、経済、社会政策の分析と、労使紛争に関し国内外の経済に与える影響を分析する。

大統領または議会へ、係争中の問題について政労使三者の意見を具申する。

銀行部門の労働者と雇用に影響を与える政策・法案の作成、実施においてDOLEへ助言する。

政労使、あるいは他の機関との共同事業の実施において調整機関として役割を持つ。

BITCが最初に始めたのは、提案された合併計画が、どの程度経営と雇用に影響を与えるかについて協議の場を提供することだった。また、BITCは、経営者側に対し、労働者に職業紹介のアドバイスを提供し、再雇用の場合は解雇された労働者を優先的に雇用することを要請した。

BITCに対する評価

BITCは、金融の激動期に際し、銀行業界の労使双方に対し対話の場所と労使紛争を事前処理する場所を提供してきた。産業別の政労使三者委員会は、他にもあるが、BITCは、フィリピン中央銀行の参加に成功したため、影響力のある組織だと評価が固まりつつある。

BITCが、行員の雇用維持にどれだけ貢献しているかを判断するには、まだ時間が必要である。ただし、行員労組は、衰退傾向にあり、BITCさえこの傾向に歯止めをかけることは出来ないが、銀行合併時に、行員労組に交渉の場と時間を与え、痛みを和らげ、交渉結果がより受諾可能なものになることに一定の成果を上げていると見られている。

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