2002年労政および労使関係における新たな秩序模索の試み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

2002年に入って、労政関係や労使関係の変革に向けての政労使の動きが以前にも増して活発になっている。特に、労働界ではナショナルセンター・レベルと事業所別労組レベルのずれがより顕著にみえる。つまり、ナショナルセンター・レベルでは、ワールドカップ大会の開催を前に国際労働団体などを通じて政府に外圧をかける動きがみられる。その一方で、事業所別労組レベルでは、長引く景気低迷の影響で雇用不安が急速に広まっていることもあって、協調的労使関係への転換を試みる動きが注目を集めているのである。では、2002年に入って労政関係や労使関係における新たな秩序を模索する試みにはどのような特徴がみられるのかみてみよう。

拘束された労働者の釈放をめぐる労政の攻防

2002年に入ってワールドカップ大会の開催などを前に韓国への国際的関心が高まるにつれ、2001年6月の連帯闘争以来、政府との対決姿勢を強めていた民主労総は、国際労働団体などを通じて政府に圧力をかけるなど、巻き返しを図っている。政府と民主労総は歩み寄りの道を見出すことができるかどうか、その行方に国内外労働団体の関心が寄せられている。

まず、民主労総の新たな試みからみてみよう。民主労総は、段ビョンホ委員長が2001年8月2日にソウル警察庁に出頭し、収監されてから、2002年1月中旬現在なお「委員長不在」という異常事態が続いており、同委員長の釈放には政治的決断が欠かせないとみて、時宜を得たかのように国際労働団体などを通じて政府に対する圧力を強める戦術をとるようになった。

実は、検察側は、民主労総の段委員長に対して、2001年10月3日の満期出所を前に次のような条件を受け入れれば釈放する用意があることを提案したが、段委員長が「不当な要求である」と拒否したため、不法集会や示威など28件の事件にかかわった容疑で追加起訴に踏み切ったといわれる。条件とは例えば、(1)いままでの不法行為に対して反省文を提出する、(2)今後暴力的行為に発展する恐れのある集会を開かない、(3)スト行為を自制し、違法スト行為は行わない、(4)労使政委員会に参加する、などである。

このような条件の一部は、金大中大統領がノルウェイのブンデビック首相(民主労総は拘束された労働者の釈放への協力を要請)との会談後開かれた共同記者会見で明らかにした点と一致する。つまり、大統領は「暴力的行為や不法行為のため拘束された労働者に対しては、今後非暴力かつ合法的な労働運動をすると約束すれば最大限善処する用意があると提案したにもかかわらず、それを拒否したため、釈放できないでいる」ことを強調したのである。

民主労総によると、金大中政権が誕生した1998年から2001年まで延686人の労働者が拘束され、金泳三政権の5年間に拘束された労働者数(632人)をすでに上回っているという。2001年だけでも241人に上っており、そのうち、12月末現在収監されているのは45人である。事件別内訳をみると、大宇自動車での整理解雇をめぐる労使紛争で50人、化繊業界での構造調整をめぐる労使紛争で53人、金融部門での合併をめぐる労使紛争で11人など、構造調整をめぐる労使紛争で拘束された労働者が半数近くを占めている。

もうひとつ政府の試みとして注目されるのは、労働界と財界に対して、「ワールドカップ大会を成功させるために、同大会の開催時期に合わせて『労使の平和協定』を結ぶ」ことを提案したことである。

これに対して、民主労総は「政府は宣言や協定などのイベントよりは、懸案の労働問題の解決に取り組むことで労政対立の要因を取り除くのが先決である」と主張し、政府に対する圧力を強める好機と捉える節さえみられる。民主労総が先決条件として要求しているのは、(1)段委員長など拘束された労働者を釈放する、(2)労働時間短縮のための労働法改正を2月の臨時国会で処理する、(3)5月から6月にかけて労使紛争を防ぐためには使用者側が労使交渉に誠実に臨む、(4)30ヵ所余の事業所で長引いている労使紛争を早期に解決する、などである。

民主労総はすでに、次のような国際連帯の力を借りて政府に対する外圧を強めようとしている。まず国際金属労連(IMF)や各国ナショナルセンターなどが1月21日から22日にかけて韓国で拘束された労働者の釈放を求めて連帯闘争に入ったのに続いて、1月31日に開かれる世界社会フォーラムではそれを求める署名運動が行われるほか、3月にはILOに各国ナショナルセンターが共同で韓国政府を提訴し、ICFTU開催の人権会議や国連の人権委員会でも主要議題として取り上げられるよう働きかけることにしている。

2002年労使関係の見通し

以上のように民主労総が国際労働団体などを通じて政府に外圧をかけるほか、これから政治の季節を迎えて政治勢力としての活動にも力を入れようとしていることもあって、経営側は労働界の攻勢に不安を隠し切れないようである。韓国経総が上位100社の大企業人事労務担当役員を対象にまとめた「2002年労使関係見通し」調査によると、全体の71.2%が「労使関係がより不安定になるだろう」、21.9%は「2001年とあまり変わらないだろう」とそれぞれ答えており、不安定な労使関係を懸念する声が圧倒的に多いことがうかがえる。

労使関係の不安定要因としては、(1)労働時間の短縮、非正規労働者の保護立法、公務員労組の法制化など、法制度の改正を求める労働界の動きがより活発になること(28.2%)、(2)6月の地方自治体選挙や12月の大統領選挙を控えて労働界が政治勢力としての活動に力を入れること(19.2%)、(3)構造調整に対する労働界の反発が強まること(16.0%)、などが挙げられている。

そして賃上げおよび労働協約改定交渉で労組側が要求すると思われる案件としては、労働時間の短縮(20.3%)、休日・休暇の維持(19.9%)、雇用安定(18.5%)、賃上げ(13.9%)、非正規労働者の正規職への切り替え(13.1%)、などが挙げられており、労働時間短縮関連事項や雇用安定が最大の争点になると予想されている。大規模の労使紛争が予想されるのは、業種別にみると、鉄道・電力・ガスなどの公企業部門(32.9%)と金融部門(15.9%)など構造調整が最大の争点になっている部門である。

これらの不安定要因とは逆に、労使関係の安定要因としては、(1)景気の急速な悪化に伴い、労働者の間で危機感が広まっていること(26.7%)、(2)労使共に安定した労使関係を築こうとする動きが広がっていること(26.7%)、(3)労働関係法制度の改正で懸案事項の解決が着実に進んでいること(13.3%)、などが挙げられている。

このように経営側は、ナショナルセンター・レベルでは政治の季節を迎えて政治勢力としての労働界の攻勢が強まることを懸念する一方で、事業所別労組レベルでは長引く景気低迷の影響で雇用不安が急速に広まっていることもあって、協調的労使関係への転換を試みる動きが広がることを期待しているように見受けられる。

しかしながら、ナショナルセンターの政治志向連帯闘争の波を食い止め、前述のような期待を現実のものとするには、労組側の意識改革もさることながら、経営側が労組を対等なパートナーとみなし、労使間の話し合いに誠実に臨むという新たな試みが欠かせないであろう。

化繊業界における労使関係変革の試み

このような協調的労使関係への転換の試みがにわかに注目を集めているのはウルサン地域の化繊業界である。同化繊業界では2001年に入って赤字部門の生産ラインの稼動中断や海外移転などの構造調整をめぐって労使紛争が相次ぎ、6月には民主労総主導の連帯闘争の先陣を切るように急速に紛争がエスカレートした。

まず、ヒョソンのウルサン工場では労使と共に一歩も譲らないという強硬路線を貫いたため、生産ラインの変更に伴う余剰人員の配置替えという当初の争点のみでなく、「拘束された組合員の釈放、解雇および懲戒処分の撤回、ストの被害に対する免責、争議期間中の賃金支給など」違法ストの後始末という新たな争点においても妥協案を見出すことができず、結局警察隊の投入による強制鎮圧という最悪の局面を迎えてしまった。このストによる売上の損失額は、約860億ウォンに上ったといわれる。

そしてテグァン産業では、労組側が整理解雇や余剰人員の配置替えなど構造調整案の撤回を求め、民主労総主導の連帯闘争計画(「ヒョソンのウルサン工場への公権力行使に対する抗議集会への参加など」)に合わせて6月12日にストに入ってから9月2日まで労使紛争は長引いた。その影響で売上の損失額は約4000億ウォンに上り、スト終結後も生産ラインの稼働率は60%に下がり、5回にわたる早期退職、整理解雇、懲戒解雇などで507人が職を失ったといわれるなど、ストによる売上の損失と稼働率の下落は、そのまま組合員の雇用に跳ね返ってしまう構図が明らかになった。

このような厳しい現実を目の当たりにして、2001年11月の労組執行部選挙で70%の支持を得て誕生したといわれる新執行部は、2002年1月3日に開かれた代議員大会で「経営危機に陥っている会社の再生を図り、協調的労使関係を築くために民主労総を脱退し、独自の労働運動を展開する方針」を決議するに至った。

このような労働運動の路線転換は、「雇用保障」を勝ち取るための戦略の修正をも意味する。つまり、民主労総主導の連帯闘争への参加を優先するという政治志向路線は、経営側の構造調整を食い止めるどころか、むしろそれを容認せざるを得ない経営状態を招いてしまうだけであるという不信感が組合員の間で急速に広まった。その代わり、「労働者が生産性向上や取引先の顧客満足度向上に最善を尽くせば、雇用は自ずと保障されるというスタンス、つまり協調的労使関係で雇用保障を勝ち取る」という実利志向路線が現実味を帯びてきたのである。そして労組の新執行部は早速1月7日から、ストの影響で打ち切られていた取引の再開に向けて、2000社余の取引先を対象に苦情や注文などを聞いて回るとともに、生産現場での品質向上運動に取り組むなど、運動路線の転換を身をもって示している。

このような労組執行部の変貌に応える形で、経営側は2001年12月に創業以来初めて新年度の経営計画を確定する前に労組執行部との話し合いの場を設けるとともに、休業中の労働者250人を早期に復帰させるために新規事業の開拓などの対策を講じ、隔週休日制を導入して労働者に自己啓発のための教育訓練の機会を与えることにしている。その他に、経営責任体制を明確にするために各事業所別に工場長制度を新設するとともに、苦情処理センターや創業・転職支援センターの設置、労使間の協議・調整システムの構築に乗りだすなど、協調的労使関係への労使関係パラダイムの変革の芽を育てるための基盤づくりに取り組んでいる。

その一方で、同社労組は1996年に韓国労総から民主労総に鞍替えした後、強硬な運動路線を貫いていただけに、その路線転換は労働界に少なからぬ影響を及ぼすとみられている。その影響もあってか、前述のヒョソンのウルサン工場でも労働側が自ら進んで協調的労使関係への転換を試みるようになったようである。労組執行部は、自ら取引先の生の声を聞く計画を会社側に提案し、1月25日から取引先の要望や注文などを聞いて回った。その初めての試みから、労組執行部は「ストの影響で原糸の供給が不安定になり、品質が落ちたため、取引先がその被害を受けるだけでなく、その取引先も失ってしまうこと」に初めて気づかされ、「原糸の品質向上や安定的な供給のためには労使間の協力が欠かせず、協調的労使関係なしには労使ともに生き残れないこと」を痛感させられたという。

化繊業界は、中国の化繊業界の急成長とともに世界的な供給過剰の影響でかなり厳しい経営を迫られており、企業別労組も決してそれとは無縁ではいられず、自ら進んで労使関係の変革を試みる道を選んだということであろう。このような協調的労使関係の芽を着実に育てることができるかどうか、労使のさらなる取り組みが注目される。

外国人労働者による労働争議

京畿道ポチョン市の家具メーカーで働く9カ国100人余の外国人労働者が1月21日に賃金未払いを理由に作業を拒否し、ストライキに入った。その後、4回にわたる労使交渉の末、24日に2カ月分の未払賃金を25日まで全額支給するほか、賃金支給と同時に作業を再開すること、ストライキの責任は問わないこと、毎月15日に賃金を支給することなどで合意し、労使紛争は終結した。

当初会社側は「資金難を理由に2001年11月の賃金は2002年2月9日に、12月分は4月15日にそれぞれ支給し、2002年からは賃金支給が滞ることがないようにすること」を約束したが、外国人労働者側はそれを拒否し、ストライキに入ったといわれている。

労働部によると、不法就労外国人労働者のうち、賃金未払いの苦情を申し立てたのは1998年の527人(6億9277万ウォン)から99年に329人(5億742万ウォン)に減った後、2000年には975人(11億3000万ウォン余)に急増し、2001年には上半期だけで814人(10億406万ウォン)に上っている。2001年上半期の場合、そのうち46.6%が後に賃金をもらうことができたという。特に不法外国人労働者のなかには捕まることを恐れて賃金未払いの苦情申し立てを諦める者も多いだけに、その実態を正確に把握することは難しいのが現状である。

今回のストライキを機に、再び外国人労働者問題に関する社会的な関心が高まっている。現行の外国人産業技術研修生制度はこのような搾取や人権侵害の対象になりやすい不法就労外国人労働者の量産につながるとの批判が根強いだけに、今求められているのは、同制度の微調整よりは、外国人労働者管理のための抜本的な制度改革(例えば、中小企業関係省庁や業界団体などの反対で先送りにされた労働部の「外国人労働者雇用許可制」など)であろう。

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