最近の社会政策と労働組合の反応

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

イタリアでは、2001年5月13日に総選挙が実施され、右派連合が議会において多数派を占めるに至った。選挙キャンペーン中に右派連合が提示していた政策方針からすでに、中道右派政権が成立した場合には、とくに労働市場政策および年金制度について、中道右派各党(フォルツァ・イタリア、国民同盟、北部同盟およびCCD-CDU=キリスト教民主センター―キリスト教民主連合)により大規模な変革がもたらされることが明らかであった。

イタリアの3大労働組合(CGIL=イタリア労働総同盟、CISL=イタリア労働者組合同盟およびUIL=イタリア労働連合)は、こうした事態を憂慮し、自由主義的色彩の濃い労働市場への急激な制度変更について「闘争」する構えを見せていた。これらの労働組合も先の左派政権との間では、労働契約により弾力性をもたせ、新規に採用される労働者(パートタイム労働者や派遣労働者など)だけでなく、すでに職を得ている労働者に対してもより弾力的な新制度を導入するということについて合意していた。

これに対し、新政権と労働組合との関係は、当初からきわめて悪かったといえるが、詳細にみると、3大労働組合は政府に対しそれぞれ異なる対応をとってきたことがわかる。たとえば、CISLとUILは、許容しうる改革について交渉を行う姿勢を見せており、マローニ労働大臣に対しいくつかの提言を行う努力をしていた。一方、CGILは、同労働大臣が労働組合を交渉相手として受け入れるかについてより悲観的であった。

昨年10月初めには、マローニ労働大臣が80頁に及ぶ「白書」を提示した。同白書には、労働市場および年金制度に関する改革提言が示されていたが、これによって、労働組合と政府との立場の違いが決定的に明確になったといえる。政府による提案は、今のところ立法にまで至っていない。政府は、労働組合および使用者団体(最大の使用者団体であるイタリア工業同盟は政府の提案を支持している)と協議を行うことを決めているが、逆に、労使の支持が得られなくても改革を断行することを明らかにしている。

2001年12月末に議会によって採択された予算法では、政府は、準備段階において、後述の3つの事項に関し議会の関与なく法案を起草することができると定められた(議会委員会を通じて起草すると、野党が直接に関与するためにより多くの時間が必要となる)。「委任立法(legge delega)」と呼ばれるこの手続きにおいて、政府は法案を準備することができ、議会は最終投票において当該法案を採択するか否かの二者択一を迫られることになる。この政策の意図するところは明確である。つまり、委任立法の手続きは、本来緊急の場合に時間を節約するために用いられるべきものであるにもかかわらず、政府は、議会における迂遠な議論の果てに野党によって法案が修正されるのを回避し、絶対多数を占める議会での最終投票によって何らのリスクなく法案が成立させるため、この手続きを利用したのである。

労働組合にとってこうした委任立法の手続きは到底受け入れがたいものである。というのも、労働組合は、ここで問題となっているのが、多くの労働者および退職者に関連する社会政策および社会改革であり、それゆえ提案を行う方法としてもっとも望ましいのは、労使との協議および合意を経たうえ議会を介して行うことと考えているためである(1993年の所得政策、95年および98年の年金改革では、このような方法がとられた)。

政府が介入する3つの分野とは以下のものである。

  1. 労働市場
    • 労働者憲章法18条の修正。同条は、裁判によって、正当な理由なく解雇されたと判断されたすべての労働者について、復職を義務付けている。政府は、4年以内に、復職に代わる金銭補償(退職手当)を許容する方向で同条を修正する考えである。
    • 政府は、労働市場の弾力性を向上させるために新たな制度を提案している(職業紹介機関の改革、派遣契約、「間歇労働(laboro intermittente)」など)。
  2. 年金改革
    • 年功年金(社会保険料を35年間拠出したこと、および、退職していることを要件に支給される)の廃止が可能かについて議論すること。
    • 年功年金または老齢年金の受給資格を有する者が、労働を継続するインセンティブの付与。ただし、労働の継続は、使用者の明示的同意が条件となる。
    • 使用者が新規採用の長期雇用労働者のために支払う社会保険料を引き下げること(3%ないし5%)。
    • 拠出方式(就業した全期間に納めた社会保険料の額を基準として年金額を算定する方式)をすべての労働者に拡張すること。
    • 労働者に対しTFR(退職手当)(注1)全額を企業年金基金に投資することを義務付ける方向で、私的年金を改革すること。
  3. 租税政策
    • 政府は、税率を23%と33%の2つに引き下げることを提案している。労働組合は、これによって利益を受けるのは富裕層だけであるとして、この提案に反対している。
    • 以上にみたすべての点について、労働組合はきわめて批判的であり、すべての州におけるゼネストおよび政府に対する圧力をかけるためのデモを組織している。

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