外務通商省、豪州企業にインドへの事業移転を勧めるレポートを公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

外務通商省は、豪州企業に対し、賃金が安く技能労働者が多いインドへの事業移転を勧める報告書「India: new economy, old economy」を作成した。インドへの移転が可能と考えられる事業には、ソフトウェア開発やデータ入力、そしてコールセンター業務等が含まれる。同報告書は、インド政府がIT産業を破産などの様々な規制から除外している点を指摘している。インドに進出する上で、この点が豪州企業にとって有利となる。

同報告書の驚くべき点は、国内におけるIT産業の育成や雇用創出にふれられていないことである。これは、現政権の方針を反映していると思われる。政府は国内の競争力を育てるのでなく、部品や労働をできるだけ安い所から入手するという考えを表明している。この考え方に従えば、国家の競争力は投入量をできる限り安くし、短期的な企業利益を最大にすることから得られる。ここには、国家の競争力が国内の人的資源開発への投資や育成から得られるとの認識はない。

以上の報告書に対しては、労働党関係者からの批判が示されている。まずニューサウスウェールズ州のカー知事は反対の姿勢を示し、同州がコールセンター設立のために同州内に企業を誘致する政策をとったことを指摘した。さらに彼は、報告書が知識経済に参加しようとするオーストラリア人の努力を傷つけていると批判している。

ただ政府の戦略は、単に「雇用を輸出する」以上の意図を持っている。つまりインド市場へのアクセスを確保するという意図もあったのである。インドは近年成長が著しく、様々な製品の需要が見込まれる。報告書は特にIT産業といわゆるニューエコノミー産業に言及しているが、こうした産業は豪州企業が金融や通信、医療、教育、環境サービス、バイオテクノロジー等での商機を開発できる分野であると考えられている。

他方で、政府が豪州企業に対し低賃金の技能労働者の利用を勧める戦略は近視眼的とも捉えられ得る。現時点ではIT産業は、相対的に低賃金のITエンジニア層の存在と政府の支援策により急速に発展している。しかし、技能労働者の需要が供給を上回っており、技能労働者不足が1990年代後半以降その賃金を約20%引き上げている。このことから、豪州企業に海外で訓練を受けたエンジニアの利用を勧めるよりも、国内でソフトウェア・エンジニアを訓練することに資金を投入した方がよいのではないかという疑問が生じる。

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