経営者団体、早期の賃上げに抵抗
マニラ首都圏賃金・生産性委員会は2001年10月19日、最低賃金の改定は見送り、代わりに30ペソの緊急生活手当てを2001年11月から段階的に支給することを決定した。今回の決定は、77~125ペソの賃上げを要求していた各労組にとっては非常に厳しいもので、これには、経営者側の激しい抵抗があった。
フィリピン経営者連盟(Ecop)の対応
Ecopは10月9日、労働雇用省(DOLE)に対し、賃上げの認可を2002年まで延期するよう要求した。Ecopは、予想されるマニラ首都圏賃金・生産性委員会の77ペソ賃上げ認可が経営に与える影響に危機感を抱いていた。
ドナルド・ディEcop会長は、賃上げは経済発展に悪影響を与え、フィリピン企業の東南アジア地域での国際競争力を低下させると強調し、全国の82万の零細企業の99.2%は、現時点で賃上げが困難であり、年内は、同時多発テロ後の海外の経済情勢がどの程度フィリピン経済に影響を与えたか分析すべきであると述べた。さらに、賃上げによる労働コスト上昇は、経済をさらに悪化させ、結果的に倒産と解雇をもたらすと説明した。
ディ会長は2001年10月20日、緊急生活費支給の決定が下され、最低賃金の改定が見送られた後、「マニラ首都圏の450万人の労働者は、すでに全国の2900万人の労働者と比較すると十分な労働報酬が支払われている」と語った。
フィリピン商工会議所(PCCI)の対応
ミグエル・バレラPCCI会長は、ディEcop会長の意見に同調し、「いかなる賃上げも2002年、つまり経済が賃上げできる水準に回復するまで延期すべきである」と訴え、「国際競争力の観点から現時点の賃上げは、非常に難しく、企業は、賃上げより雇用の維持に全力を尽くし、ワークシェアリングの導入も検討している。労使双方にとって重要なのは、解雇を回避することで、失業者をこれ以上増加させないことである」と強調した。
バレラPCCI会長は、アロヨ政権に対して、国内の企業が米国の同時多発テロによる景気後退と日本のバブル崩壊以後の長期的な不況の影響を克服するまで賃上げ決定を待つよう要請し、また、クリスマス商戦の売り上げを見極めるまで、賃上げに関する議論は、棚上げにするよう要求した。
セルジオ・オーツ-ルイスPCCI副会長は、海外市場での景気の先行きが不透明感を増す中で、輸出額は、例年より15%下回ることが予想されている事を懸念材料とし、これは、近年国内市場の低迷から輸出に依存しかけている多くの国内の企業に多大な影響を与えると指摘した。
なお、最終的にPCCIは、25ペソの賃上げなら同意することを発表していた。
不況のエレクトロニクス産業経営者の対応
フィリピン半導体・電子機器産業連合(Seipi)は、半導体不況を理由に今回の賃上げに強く反対した。エレクトロニクス産業は、輸出の約50%を占めていたが、世界的な半導体不況と米国で発生した同時多発テロ以後、輸出額が前年同期比40%も落ち込み、今年の賃上げについては否定的な対応をしてきた。
地域的に見てみると、半導体企業の多い中央ルソン地域では、穏健派の労組のグループ労働者連帯運動(LSM)は、69.50ペソの賃上げを要求していた。これに対し、エルニエ・サンチャゴSeipi代表は、世界的な半導体不況の中、工場を閉鎖した企業や生産調整している企業が多く、この時期の賃上げは、経営にとって致命的なものとなり倒産や工場閉鎖、大量の解雇、投資家の損失を招くとして反対した。また、「政府は、労働者のために賃上げより、減税、教育、医療制度の整備を重要視すべきだ」と反論している。
なお、Seipiは創立17年になり、現在162の企業が参加し、そのうち66社は外資系企業である。エレクトロニクス産業全体で、31万5000人の労働者が働いている。
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