例年より低い賃上げ率と増え続ける総額人件費

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年1月

2001年の賃金交渉では、景気低迷や構造調整との絡み、民主労総主導の連帯闘争(事業所別賃上げ闘争の集中)などの影響で例年より遅れるところが多く、賃上げ率も下落に転じた。以下労働部と韓国経総の集計結果からその実態をみてみよう。

労働部の集計結果

まず労働部によると、従業員100人以上の事業所5218カ所のうち、賃金交渉が妥結したのは、その遅れが目立っていた5月末の1262カ所(24.2%、2000年33%)から、10月末には4072カ所(78%、2000年82.7%)へと、着実に増えている。ただし、構造調整との絡みで労使交渉が難航している公共部門で妥結したのはその48.5%にとどまっている。

そして賃金交渉が妥結した事業所のうち、賃金凍結と賃下げで合意したところは10月末現在それぞれ711カ所、18カ所で2000年(578カ所、7カ所)より大幅に増え、平均賃上げ率は2000年より1.7%下がって6%にとどまった。事業所別賃金交渉を前にして韓国経総と労働界(韓国労総と民主労総)から示された賃金ガイドライン(3.5%と12%台)には大きな開きがあり、労使紛争の火種になりかねないと懸念する声も上がっていたが、いざ蓋を開けてみると、経営側に押し切られる形で賃金凍結や低い賃上げ率を受け入れざるをえない事業所別労組が増える結果となった。景気の先行きに不透明感が増し、雇用不安を募らせる事業所別労組が増えたことの現れであろう。

韓国経総の集計結果

次に、韓国経総が従業員100人以上の事業所1316カ所を対象にまとめた「2001年賃金調整実態調査」によると、平均賃上げ率は6.1%で2000年より2.2%下がった。業種別にみると、製造業が6.5%でもっとも高く、次いで卸・小売業6.0%、金融保険業5.5%、運輸・通信業4.6%、建設業4.1%の順となっている。ボーナスは基本給ベースのところでは平均5.94カ月分、通常賃金ベースのところでは6.78カ月分となっている。

そして、賃金制度改革の一環として年俸制を導入しているところは40.5%に上っている。企業規模別年俸制導入状況をみると、従業員1000人以上の大企業が65%、500~999人50%、300~499人49.1%、100~299人29.7%など、大企業ほど同制度の導入に積極的であることがうかがえる。

もう一つ注目されるのは年俸制導入済み企業と未導入企業の間で賃金格差が拡大していることである。つまり職位別初任給でみると、部長級の賃金格差は8.7%(347万8000ウォン、2000年5.4%)、次長級は8.6%(295万9000ウォン、2000年3.4%)、課長級6.0%(181万2000ウォン、2000年4.7%)、課長代理級7.7%(190万7000ウォン、2000年3.4%)で2000年よりそれぞれ拡大傾向にあるという結果が出たのである。総額人件費管理の有効な手段として導入される年俸制が、いまのところ支払い能力があるゆえ社員の協力が得られやすい優良企業の間で広がっていることの現れかもしれない。

この年俸制をめぐっては一般的に政府と経営側は賃金制度改革(総額人件費管理)の目玉として同制度の導入により積極的である反面、労働界は賃金削減(諸手当の廃止)や人員整理の巧妙な手段として悪用され、個別交渉(経営側の一方的な評価)の進展により労組の交渉力低下を招く恐れがあると強く反対している。そのため、経営側はとりあえず組合員ではない管理職を対象に同制度の導入を試みることが多い。

そういうなかで、「従来年俸制とはいっても年功的要素が少なからず反映されていたもの」から「新たに社員の役割と能力に基づく成果主義人事制度」への改革に取り組むLG電子のケースは新たな方向性を探る試みとして注目される。同社は年俸制の適用対象を従来の課長代理級以上から全社員に広げ、各社員の役割と能力に基づいて年俸の格差を従来の20%から100%に拡大することで、例えば部長級の場合最高1億ウォンの年俸(韓国経総の調査では部長級の初任給は4359万8000ウォン)も夢ではないことをうたい文句にしている。協調的な労使関係の伝統をもつ同社でこのような格差拡大是認の成果主義人事制度が有効に機能するかどうかその行方が注目されるところである。

2001年の賃金交渉でもう一つ目につくのは、金融産業労連が産別交渉で7.4%の賃上げ率を勝ち取ったあと、各銀行別にそれぞれの事情に合せて弾力的に賃上げ率を決めるようにしたのを受けて、公的資金投入銀行の間でもいままで凍結または削減していた賃金の補填分まで加え、大幅な賃上げに走る動きがみられることである。例えば、1998年の12%賃金削減、99年と2000年の賃金凍結などが続いていたハンビッ銀行の場合、2000年の賃金凍結補填分5.5%と2001年の賃上げ分3.4%を合せて8.9%の賃上げで合意した。

その一方で、実際の名目賃金上昇率は急速に下落している。財政経済部が11月18日に発表した「主要経済指標」によると、従業員5人以上の事業所の平均名目賃金上昇率は8月現在0.8%で、7月(5.1%)より4.3%も下がり、2月(マイナス2.2%)以降もっとも低い水準を記録した。特に製造業の場合、マイナス1.6%で2月(マイナス4.6%)以降初めて下落に転じた。財政経済部の関係者は「景気低迷に伴い労働時間が減っていることが大きい。アメリカでの同時多発テロの影響もあってこの傾向はしばらく続くだろう」と述べている。

これを裏付けるかのように、航空業界や大手企業グループなどの間では人件費削減のために年・月次有給休暇の買い取り(手当支給)を中止し、同休暇の使用を奨励するか、土曜休日制に置き換える動きが広がっている。例えば、LG電子は年月次休暇を土曜休日制に置き換えることで年間500億ウォンの経費を節減できるとみている。またSKグローバルの場合、年俸制の導入に伴い、年次有給休暇の未使用に対する手当を廃止している。

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