労働市場の現代化のための施策
 ―『労働市場白書』の分析から2

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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本誌2001年12月号では、『イタリアの労働市場に関する白書』の分析のうち、イタリアの労働市場の現状に関する第一部の内容を紹介した。今号では、労働市場の現代化を目的とする政府の個別施策に関する第二部の内容を検討する。

労働憲章

政府は、「労働憲章」という枠のなかで、イタリアの労働法制度の全体的な見直しを行う必要があると考えている。こうした見直しの動きは、既存の立法のなかにもすでに何度か現れていた。政府は今回の機会を十分に生かし、体系的な改革案を実現するため、労使等の協力を求めている。

十分な猶予をもって改革を立案する際には、イタリアが国際的な諸組織に所属しており、市場のグローバル化や国際化の論理に従って行動していることを考慮する必要がある。したがって、まず、二つの国際的にきわめて重要な文書についてみてみよう。つまり、1998年6月の国際労働会議により承認された「労働基本原則および労働基本権に関するILO宣言」と2000年12月7日にニースで公表された「EU基本憲章」である。

ILO宣言では、4つの基本権(結社の自由と団体交渉権、あらゆる形態の強制ないしは義務的労働の排除、児童労働の実質的廃止、採用に関するあらゆる労働差別の禁止)が承認されている。EU憲章は、これらの基本権に加えて、一連の権利を詳細に定めている。このなかには、労働する権利や自由に選択し受け入れた職業を遂行する権利、起業に置いて情報提供や助言を受ける権利、無償で職業紹介サービスを受ける権利、不合理な解雇に対する保護の権利、正当な報酬を受ける権利、健全で安全かつ適正な労働条件に対する権利、社会保障および社会サービスへのアクセス権、個人情報保護の権利がある。

こうした文書の法的価値はおいておくとして、これらの文書のなかには、ヨーロッパ文化、とりわけイタリア文化の伝統に深く根付いた原則が含まれている。つまり、注意してみると、これらの文章には、1948年に成立したイタリア憲法が認めている基本原則や基本権が現れているのである。

労働関係や労働市場に関する制度において大きな変化が生じた結果、政府は、従来の規制的アプローチを超えて、従属労働者(日本でいう労働者に当たる)と独立労働者(同じく自営業者に当たる)、大企業での労働と小企業での労働、保護される労働とそうでない労働などを対置する手法を放棄しようとしている。むしろ、基本権のなかには、就業者の法的性格とは無関係に、第三者のために行われるあらゆる就労形態を保護するために適用すべきものがある。たとえば、安全衛生の保護、労務提供の自由および尊厳の保護、少年労働の排除、あらゆる採用差別の排除、正当な報酬、センシブル情報の保護、組合結成の自由などに関する権利である。これこそが、現代的な「労働憲章」の基礎となるべき、基本権の強固かつ不可侵の基盤なのである。第三者(使用者、事業主、公的機関、注文主など)のために労務を提供するすべての就業者について、これらの権利を認めることは、契約上の地位の保護や就業者としての人格の保護という要請だけに対応するものではない。すべての就業者に対し、基本的な最低限の保護を認めることは、経済的主体の間で行われる競争のシステムを保護し、不当に安価な労務提供(純粋な闇労働から児童労働の利用まで)に基づく競争形態を抑制することでもある。

ところで、第三者のために行われる就労関係であれば、その性質を問わずすべてについて適用しうる基本的規制とは別のさらなる労働法上の制度として、より限定的かつ制限的な適用範囲を想定することができる。つまり、契約の性質を考慮することによって事項ごとに、保護に適切な格差を設けることがある。新たな就労形態(ここには準従属労働1)も含まれる)の保護に関する一連の法規制が、従属労働者のために定められた保護の核となる部分に付加されることはないのである。ゆえに、保護領域の拡張に厳格で、かつ、従属労働者については何らの修正も行わないという立場(これまでの立法でとられてきたが成功していない)は支持できないだろう。

このように、どのような形態をとるにせよ、就労活動の遂行を目的とするあらゆる契約関係に共通の不可侵の規範および原則(とくに憲法で定められたもの)の核となる要素を認めるとすれば、従属労働者に固有とされてきた保護を変更することも考えなければならない。問題となる権利の性質に応じて団体や個人が利用しうる相対的な不可侵権の範囲が想定できるのであれば、こうした最低限の不可侵の規範以外については、集団的自治や個別的自治による規制の余地を十分に残しておくことが必要であろう。

さらに、以上の議論に対応させて、社会保障給付の再編成も実施すべきである。しかしながら、社会保障制度を検討するときには、個別事案の性質の問題を重視しない方向に傾くこともあるかもしれない。そのほか、労働者に固有とされてきた保護を再調整する場合には、職業の継続性の側面もかかわってくる。この点、一定のカテゴリーの就労者ないし一定の契約類型については、就業者の労務提供期間に応じて補償や保護を増大させる仕組みを想定することもできるだろう。

しかし、ある就労形態を保護すべきかを決める基準を再定義する場合には、あらゆる就労形態に共通の核となる規制を整備するというだけでなく、従属労働者という一般的かつ抽象的な定義を断念し、法制度ごとに適用範囲を決定するということも考えられる。この観点からすると、一つの解決策として、統一法を制定したうえで、個々の保護ごとに主体および客体の適用範囲を再定義し(正当報酬、解雇、労働関係の中断、ストライキ権、懲戒など)、既存の法制度を簡素化および合理化するという方法がありうるだろう。

教育と労働

イタリアが労働と教育との接点となる分野で達成しようとしている目的については、一般的な考察が必要である。就業率を上げるためには、一連の条件が満たされていなければならない。まず、学業を終え労働市場に入った若年者は、より早くポストを見つける必要があるが、これは現在のところ実現していない。つまり、若年者は1年を越える長期の待機期間を経ることが多い。学校から労働市場への移行は、若年者にとってきわめて困難なものになっているのである。こうした長期の待機期間は、学業と労働とが隔たっていることを示しているが、こうした状況はほとんど看過されている。前政府が信用を置いていた見習労働制度は、若年者の5%未満にしか利用されていないし、諸外国ほどには成功していない(現在大改正の対象となっている)。

職業教育および職業訓練制度全体が、多様性の欠如のためにうまく機能していないのである。見習労働制度が展開しているさまざまな側面、すなわち、学校教育や職業訓練、労働活動の側面を統合することは、最近成立している立法の全てが基本的目的として宣言している点である。しかし、実際のところ、こうした統合は、いまだ実現にはほど遠い状況にある。国や州は、最終目的を考慮して、進むべき一連の段階を定めるべきなのである。そして、各段階においては、進行状況を見習労働制度に参加すべき若年者の数で示すべきであろう。また、見習労働制度は、学校から労働市場への移行を容易にするような統合されたものであるべきだろう。

現在のシステムをより簡素かつ明確なものにし、職業教育を目的とする見習労働(現行法では、労働関係を成立させるものではないと明文で規定されている)のような「労働の経験」を、学校ないし大学と企業との連携を強化するための貴重な機会として有効活用する必要がある。こうした観点から、政府は、大学教育法の改正の実現が決定的に重要であると考えている。具体的には、企業ないし公的機関のもとでの見習労働によって、生徒が単位を取得することができるように定めるというものである。イタリアの大学には、すべての生徒が職に就く機会を得られるよう努力し、学校から労働市場への移行を容易にするという重要な役割を果たすことが望まれる。政府はまた、州や市町村、労使に対しても、地域の学校との関係で職業指導に関する新たな役割を果たすために、大学と密接に協力していくよう要求している。

最後に、政府は、事業経営の実地研修、つまり、見習労働者による企業活動の引継を容易にするための仕組みに重点を置くことが有効であると考えている。若年者については、既存の労働奨励金のような助成金を支給すべきであるのに対して、企業であれば、税金や社会保険料の軽減が期待されるであろう。見習労働契約で企業から見習労働者への企業譲渡が定められているときには、これを一種の起業者特別貸付金のような制度と認めることもできるだろう。こうした方法により、企業の所有者が自己の活動を見習労働者に譲渡する計画を立てることができるようになり、企業家精神の育成を促進することになるだろう。

期間の定めのない雇用

立法および労働協約においては、依然として、学校から労働市場へ、非労働から労働へ、職教教育から労働への移行過程における個人の流動性を高めるよりも、労働ポストを維持することを主たる目的としている。このように、企業活動において適正な弾力化が必要とされているにもかかわらず、現実との格差も拡大している。また、最近の立法の影響もあって急速に拡大しつつある弾力性の高い労働関係(派遣労働、有期雇用など)と並んで、保護水準の高い労働関係を貫くことは、労働市場の新たな分断を生じさせる。これは、労働市場への入場の自由化という望ましい効果を阻害することになる。このことに鑑みると、進むべき道は、有期契約と期間の定めのない契約のそれぞれに関する立法に、両方同時に介入するという「均斉のとれた」改革であるように思われる。こうした改革を実施することによって、とくに、臨時的な雇用により職業生活に入った労働者が、安定的な労働関係に移行する際の障害が小さくなり、また、人的資源への投資が縮小することを回避できるだろう。

政府は、終身雇用による保障という考え方を、労働市場における実効的な選択可能性による保障という考え方に代える必要があると考えている。人材への投資を促進し、生産性や創造性の高まり、つまり、労働力や労働自体の質の向上に寄与するようにイタリアにおける職業の質を高めるためには、こうした考え方の転換が急務だろう。したがって、期間の定めのない契約の利用が容易になるような措置をとると同時に、入口における弾力性を理由に、出口における弾力性について定められた規制あるいは保護が回避されることのないようにすべきである。

政府はこの観点から、EUのニース憲章で宣言された「正当な解雇」の原則を完全に承認している。ヨーロッパの社会モデルが現代化されなければならないのは明らかである。しかし、労働関係を消滅させる行為について、使用者がその根拠を明らかにしたうえでこれを正当化し、場合によっては裁判所の厳しい判断にさらされる必要があるという基本的な規制を廃止することは決してできない。こうした基本的規制は、1966年以降イタリアの法制度の一部をなしており、政府もこれを既定の事実と認めている。同様に、差別による解雇、結婚に伴う女性労働者の解雇および疾病や出産に伴う解雇の禁止など、見直しの対象となっていないものはすべて、その基礎が揺らぐことはないと考えるべきである。

この点に関して、再び他の国の制度についてみてみよう。第1に、EU加盟国のなかには、解雇が違法な場合にも、労働者は損害賠償しか求められないと定める国がある。これは、ベルギーやデンマーク、イギリス、フィンランド(ただし、労働者は、キャリアアップのために、使用者の負担による教育訓練を求めることができる)である。また、労働ポストへの復帰の代わりに、代償手当を支給することができると規定するだけの国もある。たとえば、フランスでは、使用者が最大39週分の報酬に相当する代償手当を支給した場合には、使用者は、労働裁判所による復職命令に従う義務がないとされている。同様のシステムをもつ国としては、ドイツ(ただし、使用者は、復職を実行できないという根拠を提示しなければならない)、ギリシャ、スペイン(使用者は復職拒絶の根拠を提示する必要がある。この場合、年末ボーナスを除く労働者の年間報酬の最大15日分に相当する手当を支給)、スウェーデン(代替手当は、労働者の年齢および就業年数に応じて報酬の16カ月分から48カ月分)がある。

政府は、イタリアに存在する人的資源を十分に生かすために、期間の定めのない労働契約の利用をより容易にするような制度枠組みを創設すべきであると考えている。イタリアの労働市場を過度に不安定にする要因を明らかにするためには、様々な契約関係の利用を注意深く監視することも必要であろう。同時に政府は、期間の定めのない契約を促進するために、これまでとられてこなかった方法の研究も必要であるとしている。また、労使に対しこの問題に対処するよう要求しているほか、質の高い労働を基本とする積極的な社会を確保するための基礎となるべきこの契約類型を利用する際の法律上の障害についても指摘している。

派遣労働と仲介

1997年6月14日法律196号〔就業促進に関する規定〕にいう業者を通じた派遣労働は、イタリアの労働市場の現代化を進めるのに寄与していると政府は考えている。就業促進という点からみても明らかな結果が現れていることから、政府は、就業復帰を促進するような現代化策を他にも試みるために、その障害となるような事態が生じないよう期待している。しかしながら、このように積極的に評価することができるとしても、イタリアの派遣労働の利用に関する制度には、EU加盟国の既存の法律よりも厳格な面があることも指摘せざるをえない。

とりわけ、現行法では、派遣労働のみを事業の目的としてもつべきことが規定されているが、この点は修正する必要がある。現行法にいう派遣労働事業には、労働の需要と供給を仲介する民間の活動、派遣労働者の供給を直接の目的としない人材の発掘・選抜活動および復職支援活動が含まれる。就業に関する公的サービスが大きく遅れている現在のような状況にあっては、事業の目的を限定することは、すでに非常に効率的に実施されている労働の需要と供給を取りもつ活動を制限することになってしまう。

間歇労働

政府は、「間歇労働(lavoro intermittente)」(いわゆる呼び出し労働)という新たな契約類型をイタリアの制度に導入することが有用であると考えている。これは、ブローカーなどが介入して頻繁に行われている偽装や違法な形態に対抗するためである。間歇労働、すなわち呼び出し労働は、労働力の利用をあてにする使用者の期待に沿うように、したがって従属労働契約の枠内で断続的に提供される。こうした形態は、当然、闇労働市場においてかなり広まっている。ただし、付加価値税の納税者であるか、準従属労働者として位置付けられ、サービス業で普及している呼び出し労働に従事している労働者も多い。こうした状況は、企業間の適切な競争を歪める原因であり、また、イタリアの労働市場の現代化に対する障害となる。

この形態をパートタイムのようなものとしてではなく、業者を通じた臨時的労働の理想的な発展形態として組み入れることができるように、立法による介入を行うことが適切であるように思われる。また、必ずしも、従属労働の枠組みに組み込む必要もないだろう。間歇労働、すなわち呼び出し労働が成功している例としてはオランダがある。オランダでは、間歇労働が、派遣労働と同様に、労務提供に応じる労働者を利用することに対して、使用者が「利用手当」を支払う義務を負う契約類型として位置付けられている。政府は、この提案に対する有益な意見を期待している。

プロジェクトワーク

「連携的かつ継続的協働関係」は、従属労働の保護に関する立法を回避し、人材の弾力的活用における抜け道として用いられることがある。政府は、「連携的かつ継続的協働関係」を、このような目的のために利用すべきではないと考えている。従属的な拘束なしに、主としてまたはもっぱら労働者自身の労働により、労働者が安定的に労働プロジェクト、労働計画または労働の段階を遂行する負担を負い、労務遂行の方法や期間、報酬の基準や時期を注文主と直接に取り決めるような関係は、この種の契約類型に含まれるであろう。

要するに、とくに経済の第三次産業化に伴い徐々に顕在化してきたプロジェクトワークという現象に、正当な承認を授けるということである。連携的かつ継続的という性格は労務給付において頻繁に見受けられるが、適切な定義付けが必要なのは組織の自律性がある場合のみである。こうした契約形態を類型化することは、決して「過度の」立法介入への傾倒を意味しない。逆に、当事者の契約上の自律性をうまく機能させるためのものなのである。たとえ書面での契約締結が要求されるとしても、プロジェクトワークを遂行する場合に通常行われているように、支給される対価は遂行した労働の量や質に比例することになろう(ただし、金銭に関する集団協定で特別な規定がある場合は別である)。

法律では、いくつかの基本的権利についても明示されている。たとえば、当該プロジェクトや計画が、年平均で週24時間を越えて遂行されているときには、協働労働者は、あらゆる場合について、当事者の同意した方法に従い1日未満の週休や2週間以上の年休を求める権利を有する。こうした休暇は、付加的対価の支給を伴うものではない。疾病や妊娠、災害などの場合にも、同様の恩恵的措置が定められることになろう。

最後に政府は、労働関係に係る紛争を減らすために、認証の手続を実験的に導入するつもりである。これによって、プロジェクト契約を締結する当事者にとっては紛争の危険性が大幅に減少することになる。この提案に関しては、以下の基準および原則に従って規制を定めるよう政府への委任が行われている。

  • 認証手続が任意的かつ実験的な性格をもつこと。
  • 組織の特定を行った後に、比較的より代表的な使用者団体および労働組合のイニシアティブで設立された双方的機関または州の労働局における労働関係の認証を行うこと。
  • 認証機関や関係資料の保持に関する方法を決定すること。
  • 認証の内容および手続を明らかにすること。
  • 労働関係の分類について不服がある場合には、司法機関による判断がなされること(司法機関は認証における当事者の態度についても判断権限をもつ)。

このような新たな契約形態が濫用されたり偽装に利用されたりすることのないように、従属労働契約がプロジェクト労働契約に転換できないことを法律で定める方が望ましいであろう(当事者が十分に説明を受けて認証手続を受けた場合は別である)。政府はこの提案に対して、活発な議論が行われ、批判や意見が出てくることを期待している。

労働時間

EU司法裁判所に対する提訴の結果、イタリアは、フランスとともに、労働時間制度の点でEC指令93/104の採用が不十分であるとして非難された(C-386/98訴訟、欧州委員会対イタリア共和国、2000年3月9日判決)。欧州委員会は、この司法裁判所の判決を実行するためにとられた措置について何らの連絡も受けていないことから、違反状態が続いていると警告した。イタリア政府は、1997年11月12日においてすでに、時期を見計らって完全に国内法へ転換すべきであるという労使の取り決めが成立していたことをとくに考慮して、直ちにEU法上の義務の不履行に対する処置を講ずることにした。

上記のEC指令が国内法へ転換されなかったことは、少なからず解釈法上の問題を生じさせている(イタリアの法制度上、通常の労働時間に関する週当たりの制限があるのみなのか、1日当たりの制限も及ぶのかという問題が考えられる)。この指令が実施されれば、1997年法律196号13条に規定された労働時間制度の改革の効果を損なうような解釈(現在でも、週、月または年単位の労働時間の調整よりも、通常の労働時間を1日8時間に設定するという制限が優先すると解している)は完全に否定されることになろう。

したがって、休憩や休日、年間休暇に関する規定の国内法への転換を早急に実行する必要がある。政府は、この問題について適切な助言を得られるよう期待している。これは、機会均等を実現し、労働の質に関する実効的な政策の実施のための基本的問題なのである。

法的意味での従属性はないものの、従属労働者との社会的・経済的類似性(すなわち、経済的従属性や契約上の立場の脆弱性等)を有する者を指す。「継続的かつ連携的協働労働関係」として表されることもある。

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