「総合労働法」改正に賛否
―政府は早期成立を期待

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年1月

労働省は雇用失業対策の一手段として「総合労働法」の改正を提起し、草案を作成しているが、労組の同意が得られず、特に労働党系の中央労組CUTが政府案に全面反対しているため、政府の方針は難航している。

政府が最も重要と考えている部分は、憲法、労働衛生法に違反しない限り、労使の団体、あるいは労働者大会による自由な決議に基づく労使協定を労働法以上に効力を有するものとすることによって、労使間の問題に対する法的介入を少なくし、雇用の増加を促そうとするものである。

ドルネーレス労相は改正案を提出した理由として、労使交渉に於ける単労や中央労組の強化を図りながら、雇用の維持と新規雇用創出、及び非公式雇用の減少に資する、重要な手段とするためと説明した。

中央労組の一つであるフォルサ・シンジカルのパウリーニョ委員長は、改正案に基本的に賛成しながらも、もっと労使交渉に権限を持たせる大掛かりな改正とすべきであると政府に注文を付けている。一方、もう一つの中央労組CUTは全ての改正に反対を唱えて政府と交渉する意思は見せていない。

労相はフォルサ・シンジカルの支持を得ただけで2001年10月中旬に政府案を国会に提出した。労相としては2002年10月の大統領選挙が近付くにつれて国会審議が困難になるために、早急な国会通過を期待して、CUTの同意を待たずに国会へ提出したものである。

改正案の要点

労相が考えている改正案の要点を見ると、

  1. 就労12カ月毎に与えられる30日間の休暇は2回以上の分割を禁止しているが、労使交渉によって自由に分割と支払い方法を決定できるようにする。
  2. 超過勤務は50%の割増手当を支払うこととなっており、この規定は変えないが、支払い方法は交渉で決めることにする。
  3. 週末休日は日曜を優先する規定となっているが、これも労使交渉で決める。
  4. 給料削減は団体交渉、協定で定める以外は禁止されているが、これを明白に定める。
  5. 夜間勤務手当は、昼間勤務以上の割増し給料とし、その水準は憲法施行細則で定めるとなっているものを、労使の交渉で決めることにする。
  6. 父親の出産休暇は出産後5日間となっているものを、日数とその規定を業種別労組の労使交渉によって決定し、企業別、業種別の規定を認める。
  7. 義務ボーナスは給料を基準にしているが、労使は分割払い、あるいは他の賞与によって代行することを交渉できるように改正する。

労働者の権利めぐり賛否両論

憲法と労働法の規定内で多少の柔軟性を持たせた程度の改正案のように見えるが、賛否両論が起こっている。反対者の中には、自由交渉が拡大解釈されて次第に労働者が長期をかけて獲得した権利が失われ、やがて憲法や法令の規定を越えた労使交渉に進展していく、と指摘する労働問題研究者もいる。

この政府案に対してフォルサ・シンジカルでは「労組はすでに以前から部分的に採用していたが、広く採用しようとすると司法が法規を持ち出して妨害していた。もっと広範囲に改正すべきだ」と主張し、民主社会労組(SDS)は「改正に対する検討は好機である。しかし労働裁判所の改正と労組規制法の改正が無ければ、労働法だけ緩和しても混乱させるばかりだ」と条件付きで賛成している。

CUTは、「憲法が保障した労働者の権利を政府は排除しようとしており、政府案を全面的に打倒する。政府はまたしても危機の解決策として、労働者を犠牲にする道を選ぼうとしており、政府案通りなら労働者の所得を失わせて、その分を使用者側に移転させるばかりであり、企業はその資金を投資や生産の維持に向けることはない」と、公文書により抗議している。

労働法の改正は労使の利害が直接絡んでいる上に、労組が政治思想を労組運動に持ち込んで、政治を介入させるために、わずかな改正提案も広く討議する機会を失っている。

労働問題専門家によると、「ブラジルの労働者は歴史的に使用者の前に無力であったために、無数の法令と制度によって労働者をあらゆる面から保護しようとした。このために、労使ともに複雑な法規に縛られて、正式雇用は高いコストにつくようになる」と説明している。

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