景気低迷曲面での失業率の低下と新規採用の抑制傾向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年12月

失業率の低下と就業者数の大幅な増減

景気低迷が長引くなかで、失業者数は減り、失業率は3%台に安定するなど、景気変動と雇用動向との間にある種のずれが生じるという新たな現象がみられる。統計庁によると、2001年9月の失業者数は68万4000人、失業率は3%で8月よりそれぞれ6万6000人、0.4%減少し、通貨危機後最も低い水準を記録した。2月の失業者数106万9000人、失業率5.0%台をピークに、一時増加に転じた7月を除いて失業者数は減り、失業率は下がり続けているのである。雇用動向に変化の兆しがみられる6月から9月までの推移を追ってみよう。

[6月]

6月から「就業者数は増える一方で、失業者は減り、失業率も下がる」という雇用情勢改善のパターンに変化の兆しがみられた。まず、就業者数(2174万8000人で5月より3万1000人減)と失業者数(74万5000人で5月より3万5000人減)ともに減ったにもかかわらず、失業率は5月より0.2%下がって3.3%を記録した。業種別就業者数の推移をみると、「事業・個人・公共サービス業」(2万8000人、0.5%増)や建設業(1万7000人、1.1%増)では増加傾向が続いた反面、卸・小売・飲食宿泊業(2万3000人、0.4%減)は減少に転じ、輸出の落ち込みなどの影響をもろに受ける製造業(6万6000人、1.6%減)での減少幅が大きかった。年齢別では、40代と50代の就業者数がそれぞれ1万2000人、3万8000人減るなど、中高年層の減少傾向が目立った。

その結果、非労働力人口は5月より9万9000人増え、労働人口率は61.7%で、0.2%下がった。非労働力人口のうち、就業の意志と能力はあるものの、労働市場の理由で求職活動を断念した者は11万8000人で6.3%(7000人)増えた。特に5月より1万9000人減った40代の失業者の大半は、求職活動を断念して労働市場から退出したものとみられている。

そのほかに、雇用形態別賃金労働者数の推移をみると、常用職と臨時職は減る一方で、日雇い職は1万4000人(0.6%増)増え、その割合は2月の15.4%から17%に上昇し続けている。以上のような点からみると、失業者数の減少や失業率の下落が直に雇用情勢の改善を意味するとは限らないということになる。

[7月]

7月には失業者数と就業者数ともに増加に転じた。就業者数は6月より1万2000人、失業者数は1万5000人それぞれ増え、失業率も3.4%に上昇した。統計庁は失業者数が増えた背景には「景気低迷のほかに、夏休みに入って求職活動に入った大学生が増えたことや失業対策事業への参加機会が減ってきたことなどが影響した」と説明している。そして業種別就業者数の推移をみると、製造業(1万6000人、0.4%)のほかに、季節的要因や失業対策事業の影響が大きい農林水産業(4万2000人、1.7%減)や事業・個人・公共サービス業(2万6000人、0.5%減)、建設業(7000人、0.4%減)などが軒並み減った反面、卸・小売・飲食宿泊業9万7000人、1.7%)は大幅な増加に転じたのが大きく影響している。そのほかに目に付くのは1年以上求職活動を続けている長期失業者と求職活動を断念し労働市場から退出した者がそれぞれ1万5000人(1%増)、13万人(10.2%増)に大幅に増えていることである。

[8月]

8月に入ると、今度は失業者数と就業者数ともに減少に転じた。就業者数は7月より23万6000人(1.1%減)、失業者数は8000人(1.1%減)それぞれ減り、失業率は3.4%のままだった。業種別就業者数の推移をみると、製造業(7万9000人、1.9%減)、卸・小売・飲食宿泊業(6万人、1%減)、事業・個人・公共サービス業(5万1000人、0.9%)など大半の部門で就業者数は大幅に減ったのである。労働人口率も0.7%下がり、61.0%にとどまった。

そのほかに注目されるのは、失業者数が減るなかで大卒以上の高学歴失業者数は逆に増え、学歴別にばらつきが大きいことである。つまり、中卒以下は前年同期の22万8000人から17万3000人(24.1%減)、高卒も42万1000人から38万人(9.7%)へとそれぞれ減ったのに対して、大卒以上は16万9000人から20万人(18.3%)に増えているのである。特に大卒以上女性の増加ぶり(4万4000人から6万5000人、47.7%増)が著しい。

統計庁は就業者数と失業者数が共に減った背景について、「多くの失業者が夏季休暇の時期に入って求職活動を中断したほか、就業者のうち、一時休職者数が7月の27万7000人から54万人に急増し、多くの大学生が夏休み明けに合せてアルバイトを止め、非労働力人口に入ったことなどが影響した」と説明している。その結果、臨時職の割合は34.5%から34.0%へ、日雇い職も17.3%から16.9%へと下がる反面、常用職は48.2%から49.1%に上昇した。

[9月]

9月に入ると、就業者数は8月より27万3000人(1.3%)増える一方で、失業者数は6万8000人減り、失業率も3.0%に下がるなど、やっと雇用情勢改善のパターンに戻ったようにみえる。失業者数の減少幅を年齢別にみると、30代(2万8000人、16.0%)、40代(1万6000人、9.8%)、20代(1万5000人、5.5%)、50代(1万4000人、17.9%)の順となっており、30代の再就職の動きが目立っている。そのほかに労働市場の理由で求職活動を断念した者は1万2000人減り、11万4000人となった。そして就業者数の増加幅を業種別にみると、製造業(11万7000人、2.9%増)、建設業(5万7000人、3.5%増)事業・個人・公共サービス業(4万7000人、0.9%増)などの順となっており、いままで減少傾向が続いていた製造業での大幅な増加(特に食品や衣類など内需部門)が目立った。ただし、雇用形態別にみると、臨時職の増加幅が著しい。臨時職は前月より13万8000人(3.1%)増え、その割合も34.0%から34.4%に再上昇した。統計庁は、この背景について「景気低迷の長期化に伴い、企業のコスト削減策として正規から非正規への切り替えのための仕事の調整が進んでいるうえ、非正規労働者として労働市場に新規参入する若年層や女性が増えていることなどが大きい」と説明している。

失業率の低下と就業者数の大幅な増減

以上のように景気低迷局面において就業者数は季節的要因などにより大幅に増減するなかでも、失業者数は減り、失業率は3%台で安定している。このような景気低迷局面と雇用指標とのずれについて、韓国労働研究院は次のように説明している。つまり「まず事業・個人・公共サービスの成長率と雇用増加率がそれぞれ第1四半期5.3%、6.2%、第2四半期6.8%、8%を記録するなど、高い雇用創出効果をみせている。第二に、景気低迷の主な原因である情報通信製造部門における輸出の大幅な落ち込みは輸出単価の下落によるもので、雇用にはあまり影響を及ぼしていない。第三に、企業は雇用調整策として人員削減よりは新規採用の抑制を選ぶ傾向があることなど」がその背景にあると捉えているのである(「最近の景気低迷と雇用動向」10月19日)。

新規採用抑制の傾向については、韓国開発研究院の「9月の経済動向」でも確認することができる。つまり、「新規採用者数が退職者数を上回る規模は2000年第4四半期以降減少し、6月には1999年1月以来初めて新規採用者数(11万8000人)が退職者数(12万7000人)を下回り、7月にもその傾向(12万2000人~12万5000人)は続いている。特に製造業においてその傾向は顕著である」ということである。

特に、アメリカでのテロ事件の影響などで、景気の先行きに不透明感が増していることもあって、減量経営の一環で新規採用抑制の動きは急速に広がっている。インターネット就職情報会社であるインクルート社が売上高500億ウオン以上の大手企業410社を対象に下半期の新卒採用計画を調べたところによると、9月15日現在新卒採用計画を確定したのは183社(44.6%)にとどまっているうえ、当初計画していた採用規模を大幅に縮小し、採用時期を定期採用から通常採用に切り替えることにしており、新規採用状況はさらに厳しさを増している。つまり、同社が5月末に360社を対象に調査した時点では174社で2万1000人であったが、今回の調査では183社で1万5800人へと、採用規模は大幅に減っている。5月頃は下半期からの景気回復を見込んで採用規模の拡大を計画していた企業の多くが、今回景気の見通しが立たなくなったことを理由に採用規模の大幅な縮小に走っているということである。特に大卒女性の採用比率を30%未満に抑える企業は72.9%、10%未満にする企業も32%に達し、平均採用比率は18.6%にとどまっており、大卒女性(大卒の男女比率55:45)にとってはかなりの狭き門になるとみられている。

もう一つ、大手企業グループの間では従来のような企業グループレベルでの定期採用から系列企業や事業部門別の通常採用に切り替え、採用手続きをインターネットで行うのが主流になりつつあるが、インターネットで求人活動をする企業の数も減っている。インターネット就職情報サイトJobmaniを運営するジオスインターネット社によると、インターネットで求人活動をする企業は8月の1万5400社(証券取引所上場企業288社、コスダック市場上場企業211社、政府指定のベンチャー企業1237社)から9月には1万4300社(取引所上場企業242社、コスダック市場上場企業164社、政府指定ベンチャー企業1222社)へと7.4%減った。

このような新規採用抑制の煽りをうける高学歴若年層の雇用対策が焦眉の課題になっているなか、政府は2002年度の雇用対策予算を2001年度の2455億ウォンから1561億ウォンへと36.4%削減する案(特に高学歴若年層の雇用助成策として実効性のあるインターン制向けは960億ウォンから500億ウォンに削減)を確定したため、早くも「現実を無視した机上の行政の典型である」という批判の声が上がっている。

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