GMの大宇自動車買収に関する仮契約締結

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年11月

大宇自動車とメーンバンクの韓国産業銀行、GMは9月21日、大宇自動車の分割売却や債権銀行団とGMの共同出資による新会社の設立(資産負債移転方式)などを盛り込んだ仮契約を結んだ。これからの段取りについては、大宇自動車の財務状態についての本格調査(2?3カ月間)を経て、12月に本契約を締結し、2002年1月に新会社を設立するとしている。これにより、韓国経済のアキレス腱の1つと指摘されていた大宇自動車の経営再建は軌道に乗り、市場の不確実性を助長していた要因の1つがひとまず片付けられることになる。

大宇自動車の唯一といってよい経営再建案としてGMへの売却にこぎ着けるまで、労使はどのような選択を重ねてきたのか、そしてGMとの交渉はどのような条件で妥結したのかを次にみていく。

GMへの売却をめぐる労使の攻防

同社は1999年8月26日に大宇グループの経営破綻に伴い、11社の他系列企業とともに、ワークアウト(企業価値改善作業)の対象に指定された。2000年1月に債権金融機関会議で同社の売却案が決まり、2月に入札の手続きに入った。当初優先的交渉権を得て実態調査を終えたフォードが2000年9月15日に突然、同社の買収を断念したため、今度はGMが10月7日に買収意向書を提出し、予備調査を行ったが、実際の交渉テーブルについたのは翌2001年5月29日からである。

その間、大宇自動車の経営再建の試みには対立的な労使関係という難関が立ちはだかり、会社更生法の適用か破産かの瀬戸際に立たされるなど、その先行きは不透明感を増した。まず、2000年11月8日、「経営再建計画(3500人の削減と賃金削減案を盛り込んだもの)に対する労組の同意書添付」を労組側が拒否したため、債権銀行団の新たな支援は得られず、ついに最終不渡りを出し、11月10日には会社更生法適用を申請するに至った。その後、債権銀行団からの新規融資(2001年上半期まで7279億ウオン)のみでなく、裁判所からの会社更生法適用決定においても経営再建計画に対する労使合意、つまり構造調整への労組側の同意がその要件として求められたため、急場凌ぎで労使は構造調整に対する基本合意に達した。

しかし、会社側がGMへの売却を前提に、大幅な人員および賃金削減による人件費節減案(2360億ウオン減)を盛り込んだ新たな構造調整案(9970億ウオン削減)を打ち出し、整理解雇(生産職1750人)を断行したのに対して、労組は不法ストを覚悟で徹底抗戦の構えを崩さなかったため、最終的には警察隊による鎮圧、つまり政府の公権力行使という従来型解決策がとられ、やがてそれは民主労総主導の連帯闘争の新たな火種になってしまうのである。

2001年に入って、大幅な構造調整が功を奏して、景気低迷の中でも4月から8月末現在まで連続して営業利益を出すなど、GMとの売却交渉を少しでも有利に展開するための会社側の取り組みが少しずつ実を結ぶようになった。

しかし、その一方で、5月29日からGMとの売却交渉が始まってまもなく、社内では「売却案をめぐる労労対立」がエスカレートし、会社側の足を引っ張りかねない状況がしばらく続いた。つまり労組執行部と民主労総傘下の金属産業連盟は「GMに売却されれば、大宇自動車は国際下請け生産拠点に転落させられ、工場の閉鎖に伴い、前回の整理解雇以上の失業者が出る」ことを理由に、「GMへの売却反対と公企業としての経営再建」を主張すると共に、6月1日、「GMへの売却阻止代表団」をアメリカに派遣し、GMの株主総会で売却反対の立場を表明し、アメリカ政府や議会関係者と面談するなど、売却阻止活動を展開する方針を明らかにした。

これに対して、「労組正常化推進委員会(整理解雇反対闘争後、労組執行部は仁川の教会に立て籠もって売却反対闘争を続けているため、社内で労組の正常化を目指して結成)は「労組執行部の売却反対運動は逆にブピョン工場の閉鎖や大宇自動車の破産という最悪の事態を招いてしまう」ことを理由に、「ブピョン工場を含めた一括売却」を主張し、GMへの売却阻止代表団の派遣に対する抗議集会(組合員3362人の署名入りの抗議文を金属産業連盟に手渡し)を開くとともに、労組執行部に対してブピョン工場の存続と雇用維持のために運動方針を転換するよう迫った。

6月20日から始まる2回目の売却交渉を前に、労組執行部は「売却阻止活動を取りやめ、交渉の行方を見守りながら柔軟に対処していく」と運動方針の転換を表明し、売却交渉の足かせになりかねない「労労対立の消耗戦」に自ら終止符を打った。

売却交渉における主な争点と妥結内容

GMとの売却交渉で最大の争点になったのはブピョン工場の処理問題と買収価格である。政府と債権銀行団は地域経済・社会への影響を最小限に抑えるため「ブピョン工場を含めた一括売却」の方針を貫きながら、「それゆえに廉価売却の恐れがある」という批判の声にも耳を傾けなければならないなど厳しい選択を迫られた。これに対して、GMは高い買い物という市場の評価で株価に悪影響が出るのを恐れる立場から、「ブピョン工場の処理」を条件に予想をはるかに下回る低い買収価格を提示する他、現金出資の負担や投資リスクを最小限に抑えるため、債権銀行団の出資や債権放棄、新規融資、税制上の優遇措置などを要求した。

その一方で、大宇自動車の労使は8月30日、処理に困ったお荷物扱いのブピョン工場と同労組(強硬派)に対するGMの不信感を払拭させるため、「経営が正常化するまで労使紛争や労働争議を起こさないとともに、経営再建計画の達成、原価節減、新車開発などを通じて会社の早期経営再建に全面的に協力する」という労使和合宣言(生産職5205人のうち96.1%、事務職2825人のうち99.3%が署名)を行った。これに加えて、ブピョン工場も7月から営業利益を出すようになるなど、難航していた売却交渉の速やかな妥結を促す試みもみられた。

結局、両者ともにこれ以上時間を費やしてもむだだという点で意見の一致をみたのか、交渉開始から4カ月近く経った9月21日、次のような内容を盛り込んだ仮契約を締結するに至ったのである。

第1に、資産負債移転方式で設立される新会社にGMは4億ドル(67%のうち、50%はGM本社、残りの17%は系列企業)、債権銀行団は1.97億ドル(33%)をそれぞれ出資し、20億ドルを上限に新規融資を行う。新会社は8億3400万ドルの負債(海外法人の借入金3億2400万ドル含む)を引き継ぎ、外国人投資促進法などに基づいて税制上の優遇措置を受ける。

第2に、大宇自動車は3つの会社に分割される。①新会社は国内の2工場(チャンウォン、グンサン)と海外の2工場(エジプト、ベトナム)の他に、22の海外販売法人を引き継ぎ、買収対象から外された13の海外生産法人に部品の供給や技術支援などを続ける。②ブピョン工場は6年間の生産委託契約を経た後労使関係や収益性などの状況をみて買収するかどうかを決める。③既存の大宇自動車は今回の買収対象から外された系列企業の最終処理に当たる。

第3に、債権銀行団は新会社の長期優先株12億ドル分(金利年3.5%、10年後5年かけて現金で償還)をもらうことなど。

今回の契約により、GMは4億ドルの現金出資で短期的には韓国市場(大宇自動車の市場シェアは現在17%で今後30%まで回復の見通し)への参入を果たし、長期的にはアジア市場(GMの市場シェアは現在3.8%で今後10%まで拡大目標)への進出拠点を確保することになる。

そしてブピョン工場の処理に手を焼いていた政府と債権銀行団は6年間の生産委託契約という苦肉策で同工場の存続と雇用保障の望みをGMの長期市場戦略につなげることができた。政府と債権銀行団は「ブピョン工場をクリーンカンパニー(バランスシートをきれいにした)に生まれ変わらせた後、GMとの売却交渉を続ける」としている。ただし、新会社のみでなくブピョン工場もGMのグローバルネットワークに組み込まれる以上、今回GMが6年後の買収の条件として示した同工場の収益性や労使関係などはつまるところGMの市場戦略に基づく生産車種および規模如何に大きく左右されてしまうのである。

GM側の交渉責任者であるアジア太平洋地域社長は「ブピョン工場の雇用が維持され、大宇自動車はGMのグローバルネットワークの一角(世界市場の2%獲得)を占めるようになった点で今回の交渉は相互利益をもたらすWin・Winで妥結した」と評価している。ただし、国内市場でのシェア回復という短期戦略では相互利益が期待できるものの、新会社やブピョン工場の長期的な経営見通しはGMのグローバルネットワークにどのように位置づけられるかにかかっている。それだけに、その鍵を握るGMの世界市場戦略が注目される。これは特にブピョン工場の労働者や労組の不安や不信感をできるだけ早く取り除く上でも欠かせない経営情報なのである。

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