外国投資企業129社の雇用状況と労働条件

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年10月

労働科学・社会問題研究所は2000年末に、労働法遵守状況を中心にした外国投資企業における労働条件について調査した。この調査の対象は、9つの省や市の129社である。その内訳は、ハノイ(201社)、ハイフォン(152社)、ビンズオン(140社)、ドンナイ(149社)、ホーチミン(251社)、ダナン(100社)、カインホア(101社)、ロンアン(100社)、カントー(100社)となっている。

1.労働者の採用

労働法132条の1、省令72/CP(1995年10月31日)、省令85/CP(1998年10月20日)は、企業が雇用サービスセンターを通じて求人を行ってから30日間経過しても、人が見つからない場合に限り、自ら採用することを認めると規定している。調査結果によれば、外国投資企業の従業員の61.67%を企業が直接採用していた。他の方法による採用は少なく、特に雇用サービスセンターを通じた採用は17%にとどまった。この結果は雇用サービスセンターが機能していないことを示唆している。同センターについては、紹介される労働者が質量ともに水準を満たしていないとする企業が多く、とりわけ、高技能技術者の不足は深刻である。

2.試用期間

調査対象者の77%にあたる994人が試用期間を経る必要があったと回答した。ビンズオンでその率が最も高く(90.7%)、カントー(59%)で最も低い。

試用期間は法律上、大学卒業者以上の学歴を持つ技能労働者については60日を越えない、また中級程度の訓練を終えた労働者については30日を越えない、そして他の労働者については6日間を越えないものとされている。調査の結果、全ての労働者の平均試用期間は58日であった。大学卒業生以上の学歴を持つ労働者の平均は65日間、中級程度の訓練を終えた労働者の平均は58日間、他の労働者については54日間である。法律は遵守されておらず、中級程度の訓練を終えた者については規定の1.9倍、その他の労働者に至っては規定の9倍の日数を試用期間として雇用されていた。

労働法32条によると試用期間中の賃金は、通常の賃金の少なくとも7割と規定されている。調査の結果、試用期間中、97.2%の労働者が規定通りの賃金を得ていた。

試用期間の長さを適切に設定するには、労働者が仕事に慣れるまでの時間や、使用者が労働者の能力について確信を持つまでにかかる時間を考慮する必要がある。したがって、労働者のタイプごとに試用期間の長さを変えるように規定すべきである。また、各産業で労使が適当な長さについて交渉することも必要であろう。

3.労働契約と労働協約

a. 労働契約

調査対象の外国投資企業従業員全てが労働契約に署名していた。大部分の契約は、期限のない契約(33.02%)と1年から3年の契約である。1年未満の契約(7.77%)は外国投資企業には少ない。これは仕事につく前に訓練・再訓練を要する労働者が大部分であることによる。

年契約(46.93%)が最も多い理由の一つは、労働法27条の2が、1年以上継続する恒久的性質を有する労働を行わせるた めに、1年未満の期間の季節労働または特定の労働についての労働契約を締結することは禁止されると定めていることである。また、労働者を毎年採用することが好都合ということもあろう。労働者にも、仕事に習熟した1年後の再契約でさらに良い条件で雇用されるという期待があり、最初の1年間は1年契約が好ましいとしている。

使用者が好ましいと思っていないにもかかわらず、期限のない契約が多い。その理由は、合弁企業を立ち上げる際に、ベトナム側企業で働いていた従業員を引き受けるが、その多くがそれまで正規社員であったことによる。

b. 労働者の協約内容把握状況

6%の労働者が協約内容を知らなかった。最大出資者の国籍が台湾、日本、シンガポールの場合、協約内容を知らない可能性が最も高い。対照的に最大出資者がヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国の場合には協約内容について労働者が比較的良く知っていた。

労働法49条の1は、協約が効力を発生すると、使用者は事業体の全ての労働者に通告しなければならないと定めている。しかし大部分の労働者(71.5%)は労働組合から協約内容を知らされており、会社から知らされたと述べた労働者(30.89%)よりも多い。

4.賃金と給料

a. 最低賃金

労働法55条は、労働者の賃金は国の定める最低賃金以下であってはならないとする。調査時点では外国投資企業の最低賃金は48万7000ドンで、地域によって55万6000ドンや62万6000ドンの最低賃金が定められている。

回答者の5.02%が最低賃金以下の賃金を得ており、そのほとんどが台湾企業で働いている。また回答者の30%が自分が働いている企業に適用されるべき最低賃金額を知らなかった。その比率が特に高いのはビンズオンの企業で(70%)、シンガポール企業では56%に達している。

b. 労働中断中の賃金

労働法62条は、労働中断中の賃金の支払いについて次のように定めている。

  1. 休業が使用者の責に帰する場合、労働者は賃金の全額の支払いを受ける。
  2. 休業が労働者の責に帰する場合は、賃金は支払われない。同じ作業単位に属し、労働を停止しなければならない、そ の他の労働者は当事者双方の合意による賃金の支払いを受けるが最低賃金以下であってはならない。
  3. 休業が使用者の責に帰さない停電、断水、その他不可抗力による場合、当事者双方の合意により賃金を支払わなければならないが、最低賃金を下回るものであってはならない。

休業が使用者の責に帰しても賃金が支払われない確率は、100%外資企業の場合に比べ、合弁企業では2.5倍になっている。その率は、産業ごとで異なり、食品加工業(37.9%)、木・籐・竹加工業(37.8%)、機械製造業(35.4%)、建築資材製造業(32.3%)、その他の加工業(38.5%)などで高い。これらの産業は、経営や生産過程の不確実性が高く、使用者の都合や断水や停電によって作業が止まっている。

労働者が賃金を得なかったケースのうち、使用者の責によるもの(57.66%)が最も多く、労働者の責によるもの(4.38%)、停電や断水(37.96%:以上合計で100%)を越えている。したがって労働法62条は守られていない。しかし外国投資企業の使用者は、労働法62条の規定を合理的でないと感じており、制御できないビジネスや生産の遅れによって、労働者よりも、使用者がより大きな損害を受けると考えている。

c. ボーナス

労働法64条は、使用者は事業体に1年以上勤務した労働者に、年間収益の一部をボーナスとして与える責任があると定める。87.33%の労働者が一年に一度ボーナスを得ていた。ボーナスを得るはずだが与えられていない労働者は7.42%でその大部分は、季節労働者や労働契約に署名していない労働者であった。100%外資企業では92.74%、合弁企業では81.64%の労働者がボーナスを得ている。ボーナスを得る確率が高い産業は機械製造(98.33%)で、プラスティック、木・籐・竹加工、衣服製造、革靴製造などで94%に近い。

概して、使用者はボーナスを支払うように心がけており、利益が出なくてもボーナスを支払っている企業もある。企業が赤字でも、年末のボーナスを出さないという理由で、労働者がストをした企業もある。

5. 労働時間と休憩時間

a. 労働時間中の休憩

労働法71条の1は、労働者は継続して8時間労働する場合、少なくとも30分間の休憩時間をとることができ、それは労働時間に含められると定めている。調査によると8時間休憩なしに働き、30分の休憩時間分の支払いも受けていない労働者は、12.4%であった。このような状況は、100%外資企業に比べ、合弁企業で1.85倍頻繁にみられる。

b. 時間外労働

労働法69条の1は、使用者および労働者は、時間外労働について合意することができるが、その時間は1日につき4時間、1年につき200時間を越えないものとすると定めている。

調査対象の74.3%の労働者が時間外労働をする必要があった。それらの労働者の中で、一日あたり4時間以上の時間外労働をした労働者は49%あった。残業の頻度は、100%外資企業と合弁企業との間で大きな差がない。残業が頻繁に行なわれる産業は、機械製造、木・籐・竹加工、電子機器製造、食品加工業などである。残業をしている労働者が多いのは韓国(87.4%)、香港(85.4%)の企業である。

c. 時間外労働への賃金

時間外労働を行った労働者のうち、規定通りの割増賃金を受けた者の比率は、通常の日の日中の場合(通常の時間給の150%)99.5%、夜間の場合(同130%)87.9%、休日の場合(通常の時間給の200%)99.6%であった。一般に、時間外労働に対する支払いは適切に行われている。しかし、夜間には12%の労働者が適切な賃金を支払われておらず、ホーチミン市の韓国企業が、しばしばこの違反を犯している。

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