女性雇用関連法の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年10月

労働基準法の出産育児休暇の拡大や、女性の時間外労働の制限撤廃、性差別に対する罰則の強化などを柱とした女性雇用関連法改正案が7月18日国会を通過し、11月から施行されることになった。

同法改正案をめぐっては女性団体・労働界と財界の間のみでなく、与野党の間でも意見が大きく分かれ、話し合いは平行線のままであった。そのため連立与党側は、ひとつの折衷案として今国会で同改正案を通過させる代わりにその施行を2年間猶予する方針を打ち出す一幕もあった。つまり、連立与党側は「女性の労働条件を改善し、出産・育児による『労働市場での断絶現象(20~30代女性の労働市場への参入困難)』を解消するために今国会での法改正」を強く求める女性・労働界の要望に応える。と同時に、「景気低迷による厳しい経営状況の下で企業に新たな負担を強いることになる」と強く反対する財界や連立与党の自民連などの主張にも配慮する道を見出そうとしたのである。

主な争点

主な争点は労働基準法における出産育児休暇の拡大と男女雇用機会均等法における介護休職制度の新設であった。女性部が発議した当初の法改正案には次のような条項が盛り込まれていた。①有給産前産後休暇を現行の60日から90日に増やし、30日の追加分の財源は一般会計や雇用保険の失業給付事業で賄う。②有給育児休暇(1歳まで)の対象を全ての労働者に拡大し、育児休暇給付として基本給の30%を雇用保険から支給する。③月1回の有給胎児検診休暇の他に、現在労働部の通達で実施している流産・死産休暇を法制化する。④年1回最長3ヶ月までの無給介護休職制度を新たに設けることなど。

このような法改正案に対して、財界は「企業に新たな負担を強いるだけでなく、企業の女性採用忌避で女性も被害を受けることになる」と主張し、次のような対案を提示した。①有給産前産後休暇の追加財源を雇用保険の失業給付事業で賄うことは雇用保険の財政破綻を招きかねないので、出産休暇給付を通常賃金の3分の2に引き下げ、さらにその上限枠を設ける。②有給育児休暇は女性労働者にだけ認める。③有給胎児検診休暇は現行の生理休暇を廃止した後無給で実施する。④有給流産・死産休暇や介護休職制度は労使の話し合いに委ねることなど。

このような対立構図は法改正に伴う追加費用の推計にそのまま現れている。まず財界は「有給育児休暇にかかる費用7650億ウオン(その対象になる男性労働者23万人の12か月分の給付)を含めて総額8500億ウオン相当の追加費用がかかる」と主張した。これに対して、韓国女性団体連合など6つの女性・労働団体で構成される「女性労働法改正連帯会議」は「有給育児休暇にかかる費用632億ウオンを含めて総額1366億ウオンにすぎない」と反駁した。

経過

結局、7月18日に国会を通過した同法改正案に、有給産前産後休暇と有給育児休暇(期間と給付額は大統領令で定める)はほぼ当初の改正案通りに盛り込まれたが、財界が反対していた有給胎児検診休暇と有給流産・死産休暇や介護休職制度などは削除された。その他に、財界や連立与党の自民連がその廃止または無給化を求めていた有給生理休暇の案件は労使政委員会の労働時間短縮特別委員会に委ねられることになった。

女性部や労働部などの関係省庁は、1953年の制定以来初めて改正された今回の労働基準法上の母性保護関連条項について、「雇用保険で母性保護拡大に伴う追加費用を政労使が分担し、出産育児負担に対する社会的責任を制度化した」ことに大きな意義があると概ね評価している。

しかし、出産育児負担が女性にとって労働市場への参入における最大の障害要因と受け取られ、女性の年齢別労働人口が依然としてM型(20-30代女性労働人口の急減)を描いている。しかも、すでに法的に義務付けられている産前産後・育児休暇さえも十分に活用されていないといわれる。このような現状を考えると、今回の母性保護関連条項の改正はその実効性を高めるための財源の拡充や労働監督の強化、職場環境の整備などを伴って初めて、「女性労働力の質的向上と積極的な活用」に結びつくのではないだろうか。

財源は雇用保険で

早くもその財源をめぐって雇用保険管轄の労働部は厳しい選択を迫られているようである。労働部の推計によると、「母性保護拡大に伴う追加費用(出産休暇30日分と育児休暇助成金)」は2300億ウオンに達する。それに非正規労働者保護策の一環として実施される「日雇い労働者向け失業給付事業」に3000億ウオンが新たにかかると予想されるなど、合わせて約5300億ウオンが新たな財源として必要になるという。そのため、現行の保険料水準を維持する限り、当初計画していた「自発的な失業者向け失業給付事業」を当分留保せざるを得なくなるようである。つまり、従来のような母性保護費用の事業主負担(女性採用忌避の要因)を避けて、政労使分担の原則に基づいてその財源を雇用保険の失業給付事業で賄うことにしたのはいいが、その影響でセーフティネットとしての新たな失業給付事業計画が一時棚上げにされる異常事態が起きかねないということである。

さらに、大統領令で定められる育児休暇の期間と助成金額をめぐっても、同期間については女性労働者に10.5ヶ月、男性労働者には1年間を与えることが決まったが、助成金額については育児休暇の申請希望者が予想の20%をはるかに超えて66%に達することが明らかになったため、労働部は急遽当初の25万ウオンから10万ウオンに引き下げることを検討しているようである。

時間外労働の制限撤廃

一方、今回の女性雇用関連法改正でもうひとつ注目されるのは、女性の時間外労働を制限し、夜間及び休日労働を原則的に禁止していた条項を改正するとともに、セクハラ行為と雇用上の性差別に対する罰則を強化したことである。まず、女性の時間外・夜間・休日労働に対しては18歳以上の女性を対象に労使間の合意と本人の同意を条件に時間外労働と夜間及び休日労働をそれぞれ認める。ただし、妊娠中または産後1年以内の女性に対しては母性保護のため本人の同意のうえ、労働者代表との協議を経て労働大臣の許可を得た者に限るとしたのである。

セクハラ行為と雇用上の性差別への罰則強化

次に、セクハラ行為と雇用上の性差別に対する罰則は次のとおりである。①セクハラ行為をした事業主に対して1000万ウオン以下の過料に処する条項を新たに設けるほか、セクハラ行為をした者に対して懲戒処分を行わない事業主に対する過料を現行の300万ウオンから500万ウオンに引き上げる。②セクハラの被害を受けた者に不利益な措置をとった事業主に対する罰則を現行の500万ウオン罰金から3年以下の懲役または2000万ウオンの罰金に強化する。③派遣労働者に対するセクハラ予防教育の義務付け先を現行の派遣元事業主から派遣先事業主に変える。④定年退職及び解雇において性差別を行うか、育児休職を理由に不利な処遇や解雇処分を行う事業主に対する罰則を、現行の2年以下の懲役または1000万ウオン以下の罰金から5年以下の懲役または3000万ウオン以下の罰金に強化する。

その他に、男女雇用機会均等法の適用対象事業所を現行の従業員5人以上から1人以上の全事業所に拡大するほか、各事業所内に「雇用平等相談室」を設け、従業員1-2人を「名誉雇用平等監督官」に任命し、「自律的な性差別防止体制」を整えるようにした。また採用、昇進、セクハラなど雇用上の性差別を受けた労働者の救済手続きを整備し、「被害を受けた労働者は従来のように地方労働監督署に苦情を申し立てるほか、雇用平等委員会にも直接調停を申請することができる」ようにした。

「間接的な性差別」にも適用

特に今回の法改正では、明らかに性差別的な基準は見当たらなくても事実上特定の性に不利益を与えてしまうような「間接的な性差別」に対しても、その被害を受けた労働者は救済の申請を出すことができるようにしたところに関心が集まっている。つまり、①採用・賃金・昇進・解雇などの基準に明白な性差別的要素がなくても、②事実上特定の性に不利な結果をもたらし、③その基準が職務と直接関連しない場合、それにより不利益を被った労働者は「間接的な性差別」として異議を申し立てることができるというように、その条件はより明確に規定されたが、今のところそれに関する判例がないだけに、労使間の攻防が注目されているのである。「間接的な性差別」と判定されれば、不当解雇は5年以下の懲役または3000万ウオン以下の罰金、採用、賃金、昇進における不利な処分は500万ウオンの罰金刑に処せられる。

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