協同組合の労務出資組合員に関する規制の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年10月

長年待望されていた立法措置が実現し、イタリアの労働法は重要な節目を迎えている。すなわち、「協同組合、とくに労務出資組合員の地位に関する規制の見直し」を定めた2001年4月3日法律142号が可決されたのである。

この新たな法規制は、協同組合における労働について、統一的な規制を導入するという意味で、きわめて重要である。この分野については、協同組合と労務出資組合員との関係の位置付けや性質について(したがって、労務出資組合員にいかなる制度が適用されるのかについても)、学説や判例で見解が対立していた。

以下では、この規制に関して、簡潔ではあるが包括的に検討を加える。他方で、新法は、弾力的な法制度(これは、今後立法介入を行う際の、またイタリアの労働法全体を見直すにあたっての基本方針となりうるものである)に向かう傾向も示しており、この点に関して新たにどのような方法論上の解決法を採用したのかを明らかにすることも必要であろう。

法律の適用範囲および協同組合員による労働の位置付け

まず、新法の規定は、「組合員による労働活動の提供のうち、組合員による労働の組織化を規定する規則の条文に基づくものを、その相互扶助関係の目的として有する協同組合に対し」適用される。

したがって、適用範囲は、労務提供により相互扶助活動が達成されるすべての協同組合ということになる。

協同組合の労務出資組合員の形態に関して、法律は、2つの法的関係が備わっていることを明確に規定している。すなわち、1つは組合関係(rapporto associativo)であり、もう1つは組合員が「自らの加入にともない定めたか、または組合関係の成立後に定めた」労働関係(rapporto di lavoro)である。

組合関係について、新法は次のように定めている。

「協同組合の労務出資組合員は、

  1. 組合の機関の設立および事業の指揮管理機構の決定に参加することによって、事業運営に関与し、
  2. 事業展開に関する計画の策定および方針の選定、事業の生産工程の具体化に参与し、
  3. 組合資金の形成に寄与し、事業の危険および経済的結果、その地位に基づく決定を引き受け、
  4. 遂行する活動の種類や状態、協同組合のために利用しうる労務提供の量に応じて、自らの職業能力を供与する。」

これに対し、労働関係は、「組合の目的の達成に寄与する従属形態、独立形態または非偶発的な連携的協同労働関係を含む他のあらゆる形態によって」実現することができる関係と定められている。

換言すると、当事者は、労務提供の実施方法やその性質を具体的に決定し、組合の目的により適合的な労働契約形態を選択することができるのである。

さらに、一定の選択肢の中から、労働契約の類型を選ばなければならないという限定もない。実際、当事者は、交渉によってより適切な案を採用し、自らの利益を実現する可能性も残されているのである。

最後に、今回の法律制定により、イタリアの労働法は、その伝統的な枠組みを乗り越え、コモンロー的な枠組みに接近し始めているといえる。こうした傾向が、協同組合という特殊な領域に限定されないのであれば、これはイタリア労働法の刷新に対する推進力の1つとなりうるであろう。

労務出資組合員の労働関係に適用される規制

当事者が労働関係に関していかなる契約形態を選択するかによって、適用される法律の効果が異なってくる。

この点に関して、新法は次のように定めている。すなわち、「前記の組合関係、および、いかなる形態であれ労働関係の成立によって、本法、および、労務出資組合員の地位と両立しうる限りにおいて、その他の法律または他のあらゆる法源によって、それぞれ定められた租税および社会保障に関する効果、その他のあらゆる法的効果が生じる。」

したがって、当該関係を個別に判断したうえで異なる類型ということになれば、それに応じて、保護の枠組みや租税・社会保障との関係で、異なる規制が適用されることになる。

適用しうる規制は、新法において明示的に規定されているものだけではない。労務出資組合員の地位と両立しうる限りにおいてではあるが、「他の法律または他のあらゆる法源」の規制も適用されることになる。こうした包括的な規定が定められたことからすれば、慣習のような法源や労働協約も、この問題を規制するための法源足りうるということになるだろう。

労務出資組合員の個別的権利および労働組合に関する権利

2001年法律142号2条は、契約形態(従属労働、独立労働、準従属労働等)を問わずすべての組合員について、労働組合結成の自由や健康の保護といった基本原則を尊重することを義務付けている。

このように、立法者は、契約類型を自由に決定することを認める一方で、協同組合の労務出資組合員を保護するために必要であるならば、厳格な規制を行うという態度を維持している。

すべての労働類型について、労働者憲章法に定められた発言の自由や思想調査の禁止、組合結成および組合活動の権利、差別行為の禁止に関する規定が適用される。さらに、「労務提供の方法と両立しうる限りにおいて」、労働安全衛生に関する基本規定である1994年9月19日委任立法626号および1996年8月14日委任立法494号の規定も適用される。

すべての労務出資組合員に認められるこれらの最低保障の他に、従属労働関係にある組合員に関しては、さらに、労働安全衛生に関するすべての規定と労働者憲章法の規定も適用される。ただし、労働者憲章法「18条は、労働関係とともに、組合関係をも中断するあらゆる場合について、例外とする」とされている。

学説によって明らかにされたように、 この規定は、無効解雇の場合の実質的な保護(すなわち、復職させる義務と補償義務)を規定する労働者憲章法18条は、解雇が「同時に組合員の資格を喪失させる(ために行われる)」ものであるときには適用されないとの意味に解釈することができる。実際、この場合、当該解雇は、組合関係との関係では組合員の除名の付随的結果にすぎないので、組合員の除名が適法かどうかさえ立証されれば十分なのである。

逆に、組合員が解雇されたにもかかわらず、組合関係が継続している場合には、労働者憲章法18条の適用があるといえよう。

最後に、労働組合に関する権利の行使に関して、新立法は次のように規定している。すなわち、「協同組合制度の特殊性に応じて、労働組合に関する権利行使の具体的方法は、全国レベルの協同組合の連合体と比較的代表的な労働組合との団体間協定の中で定めることができる」。したがって、労働組合に関する権利を規定することができるのは、協同組合部門における全国レベルの団体間協定のうち、代表性に関する要件(現行法では、「比較的代表的」)を満たす組合によって締結されたものに限定される。

労務出資組合員の経済的処遇

労務出資組合員の報酬に関しても、新たな枠組みが採用された。すなわち、最低保障手当が明文で定められたのである。

新法では、労務出資組合員に対して、「労務提供の量および質に応じた総合的な金銭手当」で、次のものを「下回らない」手当を支給しなければならないことが規定された。すなわち、従属労働関係にある組合員については、同種の部門または産業における全国レベルの労働協約によって定められた類似の給付に関する最低限であり、それ以外の組合員については、「特別の労働協約もしくは団体間協定、または、これがない場合には、独立労働形態において支給されている類似の給付について用いられている平均報酬」である。

最低保障以外にも、新法はさらに、協同組合員総会を通じて決議することができる金銭手当を規定している。

これは次の方法により支給することができる。

a) 協同組合部門における全国レベルの協定のうち、比較的代表的な結社が締結した協定によって定められた方法に従い支給される割増報酬として。

b) 年度予算の承認に基づく利益の還元として。

b)の手当は、次の方法のいずれかを利用することによって支給できる。ただし、報酬手当総額(最低手当とa)の手当)の30%を超えることは認められない。

(ⅰ)報酬の補完

(ⅱ)持分の無償増額(1951年4月2日法律302号により修正のうえ承認された

947年12月14日暫定元首委任立法1577号[協同組合に関する措置]24条

に定める制限の例外として)

(ⅲ)1992年1月31日法律59号[協同組合に関する新規定]5条にいう証券の無

償支給

社会保障に関する規定

社会保険料に関して、新法は、労働関係の類型に応じて、現行制度のそれぞれの規定が適用されると定めている。

とくに、従属労働関係にある労務出資組合員に対して支給される金銭手当は、利益の還元として受給したものを除き、被用者の所得とみなされる。

また、新法の施行から6カ月以内に、1970年4月30日大統領令602号およびその修正規定を改正することが政府に委任された。この大統領令は、協同組合の労務出資組合員に関してみなし所得を規定している。この改正の指針となる基本原則は、協同組合の労務出資組合員と他の企業の被用者との拠出を漸次等しくしていくことである(部門や地域の相違をも考慮したうえ、5年をかけて実現される)。

労務出資組合員と協同組合との紛争に関する裁判官の権限

新法は、労務出資組合員と協同組合との紛争に関する裁判官の管轄権限についても規定している。労務出資組合員に関して、上記の2つの関係を認めた結果、紛争に関する規制もまた2つ存在する。組合関係に関する紛争は、通常民事裁判官の権限として残されている。これに対し、いかなる形で遂行されるものであれ、労働関係に関する紛争は、労働裁判官の権限に属するものとされた(民事訴訟法典409条(個別労働紛争に関する規定)以下の訴訟手続ならびに1998年3月31日委任立法80号[労働紛争における裁判管轄等に関する新規定]および1998年10月29日委任立法387号[1998年3月31日委任立法80号等の補完規定]に定められた調停および非典型仲裁(注1)手続を適用する)。

ここでも、伝統的な従属労働の枠組みにとらわれることなく、「すべての人」に対して、基本的な保護を及ぼすという立法者の姿勢がうかがわれる。

労務出資組合員との関係に関する協同組合の規約

新法によれば、協同組合は、決められた期限内に規約を定め、当該地域を管轄する県労働局に登録しなければならないとされている。

この規約には、次の事項を必ず定めなければならない。

  1. 従属労働関係にある労務出資組合員に関しては、適用可能な労働協約への言及。
  2. 従属労働関係以外の労働関係にある組合員に関しては、現行法規への言及。
  3. すべての労働関係に関して、「協同組合の事業組織化および組合員自身の職業的側面との関係で、組合員によって提供される労務の実施方法」(たとえば、職務や労働時間の明示)。
  4. 総会に対して、「事業危機対処計画の決議を必要な場合に行う権限」を付与すること。この計画においては、「可能な限り、雇用水準を確保する」ほか、さらに、利益の還元としての補完的金銭手当を一時的に減額する可能性や、計画実施期間において臨時的に利益を分配することの禁止、労務出資組合員の出資によって危機を回避する場合、その出資方法(金銭出資を含む)の決議する権限を定めることができる。
  5. 新しい企業家精神を促進することを目的として、新たに設立された協同組合においては、比較的代表的な組合によって締結された、協同組合部門における全国レベルの労働協約で定められた要件および方法に従い、新事業計画の決議権限を総会に付与すること。

協同組合の監視に関する改革の必要性

新法は、協同組合および協同組合の連合体の監視についての規制を改良し再編成するため、政府に詳細な委任を行っている。

この改革の特徴となるであろう基本指針の概要を提示するために、協同組合の監査役会に関する規制の見直しに、特別な注意を払わなければならない。また、協同組合に関する基新法といえる1947年暫定元首令1577号の規定のうち、委任の実施において導入された新制度と矛盾するものについては廃止される。したがって、具体的にどの規定が新制度と矛盾するのかを明確にしなければならないだろう。

協同組合の監視についてみてみよう。協同組合の定期検査を通じた通常の監視は、協同組合の事業の向上や民主的仕組みの構築、相互扶助の実効性に対する管理だけでなく、「協同組合によって採用された規制および労務出資組合員との間に成立した関係の適切性に対する検査」をも目的とする。

こうした監視の実施は、場合によって、労働社会保障省および関連機関の権限は維持したまま、中央協同組合(1947年暫定元首令1577号5条にいう「協同組合の活動を代表、扶助、保護する全国レベルの連合体」に委ねられることもある。また、所定の協定を通じて、中央協同組合に加盟していない協同組合についても、中央協同組合に定期検査の実施を委ねることができる。

さらに、労働社会保障省には、次の権限が付与された。すなわち、「標本調査のために、または、協同組合の定期検査によって生じた重大な要請に基づいて、適切と判断した場合には、臨時の調査を命じ、自己の上級職員に遂行させる」権限である。こうした臨時の調査の目的には、法律や規則、相互扶助の規制が遵守されているかどうかの評価、とくに、「労務出資組合員との間に成立した関係の適切性、ならびに、この関係と規則および部門別労働協約との実質的調和」の評価が含まれる。

また、協同組合の全国リストを作成すべきことが定められた。このリストは、県単位で分けられ、県の労働局のもとに置かれる。リストに登録された共済組合は、租税法上の優遇を含む様々な便益を享受することができる。監視活動を回避しようとする共済組合や、共済の目的を尊重しない協同組合は、このリストから削除されることになる。

さらに、労働関係に関する規則が繰り返し逸脱され、かつ、その程度が重大である場合には、民法典2543条にいう政府委員による運営(注2)の適用が規定されている。

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