民営化をめぐる組合内の闘い

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

スウェーデン最大の組合である地方自治体労働者労働組合(Kommunal)の4年に1度開催される総会では、公共サービスの民営化をめぐって大いに議論が闘わされた。組合役員からは、「学校、病院、福祉サービスは、民間企業によって効率よく収益ベースで運営できる」と提言する報告書が提出されていた。しかしこの報告は、大会に出席している組合代表たちからの激しい抗議に遭い、結局、組合役員は報告書を取り下げた。検討材料として組合員全員に送り何千もの研究グループの意見を仰ぐ必要があると判断したのである。

公共サービスの民営化は2002年の国政選挙において主要な争点になり、民営化を望む大都市の中産市民層が、社会民主党政府に対抗することになると思われる。Kommunal総会で演説した首相は、民間企業が学童や病人によって利益を上げるのを許せないとしながらも、これらの分野での協同組合企業の営業は支持するとした。

Kommunalは、民営化されたサービス施設のほとんどを組織化している。こうした施設では多くの場合、地方自治体が経営していた頃に比べ、より良い賃金と労働条件が提供されている。民営化されたサービス機関の従業員を対象とした調査によれば、従業員の過半数が、公営企業の使用者に比べ、民間企業の使用者は官僚的でなく、より良い労働条件を提供していると考えている。

その理由として考えられるのは、イデオロギーの面で社会民主党を支持しない地域社会は、地方自治体の運営する学校より、私立学校に対して良い財政条件を与えているということ、また私立学校は「任意で」寄付をしてくれる裕福な顧客を持つため、裕福でない親を持つ学生が締め出されること、あるいは民営化された病院が「利益になる」顧客のみを相手にすることなどである。しかし同時に、地方自治体は劣悪で官僚的な職場組織を持ち、労働環境に十分な資金を投入していないことも事実である。

Kommunalの報告書は「福祉における連帯と選択の自由」と題されているが、これは「民営化報告書」とも呼ばれている。報告書が却下された理由の1つは、総会に出席した代表者の多くが、地元の社会民主党政治家を兼ねる組合役員という二重の役割を持っているためかもしれない。社会民主党を基盤とする地方自治体は、競争を受け入れ、民間起業家から清掃、ゴミ収集、学校給食など多くのサービスを購入する一方で、教育の民営化と、病人や老人のケアの民営化は止めている。民営の老人ホームで不祥事があり、非社会民主党基盤の地方自治体さえも民営化を廃止し、再び自治体の手に戻さなければならなかった例がいくつかあるからである。しかし一方では、非常に適切に運営されている協同組合方式のデイケアセンターの例も多い。

社会民主党基盤の地方自治体自身にも、民間起業家を成功させる責任がある。それは過去10年間にわたり、「政府の財政を健全化するために」増税なしで均衡予算を達成するようにとの中央政府からの要請に応えるため、地方自治体がほとんどの公共サービスの人員削減を余儀なくされてきたからである。その結果、あまり裕福でない家庭を対象とする財政負担の重いサービスは公共サービスの手に任せて、高料金を払う事のできる裕福な家庭を対象とするサービスを選別するチャンスを民間起業家たちに与えてしまった。社会民主党の政治家たちは、将来の新たな階級社会が生まれるリスクを認識している。その一方、地方自治体労働者組合は、競争を増すことが、地方自治体に公共サービス運営の改革と公共サービス部門の労働条件の改善を促がす最善の方法であると考えている。

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