パートタイム労働に関する規制の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

2000年2月20日委任立法61号[EC指令97/81号の実施]の公布から1年を経て、パートタイム労働に関する新たな規制が成立した(2001年2月26日委任立法100号[2000年2月25日委任立法61号の補完および修正規定])。この規制は、とくにEC指令97/81号のイタリア法への置換に関してかなり議論のあった2000年委任立法61号をいくつかの点で改正している。

2001年委任立法100号の新規制は、1999年2月5日法律25号[イタリアのEU加盟により生じた義務の遂行に関する規定]に基づいて導入されたものである。この1999年法律25号は、1984年12月19日法律863号[雇用水準の維持および向上のための緊急措置]5条に規定されたパートタイム労働に関する規制の改正権限を政府に委ね、1999年法律25号の施行より2年以内に補正規定を制定することを定めていた。

こうした一連の流れは、最近の法律によくみられることである。とくに複雑で困難な規制に関しては、その時々の目的に応じて修正を行いやすいように、実験的な性格を有する法規を通じて制度設計を進める必要があるため、こうした方法が用いられることが多い。

しかしながら、政府は、パートタイム労働に関して、1999年法律25号1条4項に規定された政府の立法制定権限を実行するに際して、「使用者団体と全国レベルで比較的代表的な労働組合による審査」(2000年委任立法61号12条)を完全に無視したといえよう。このため、パートタイム労働に関する新規制の実施に関して、労使は、EC指令97/81号の国内法への置換過程から「疎外」されることになったのである。

したがって、2000年委任立法61号12条に規定されたのとは逆に、労使による審査は欠如することになった。さらに、有期雇用労働に関するEC指令99/70号の国内法への置換過程において、政府と労使との緊張関係が存在したこともあって、EU関連規制の置換における歩調合せはかなり困難になったのである。

団体交渉による「承認」のない混合型パートタイム労働の適法性

政府の介入方法に関する以上の考察や、細かい改正点(パートタイム労働者とフルタイム労働者との比率やパートタイムからフルタイムへの転換に関する優先権)のほかに、2001年委任立法100号による改正では、重要な新しい仕組みが導入された。いわゆる混合型パートタイム労働(1日あたりの労働時間は通常より短く、かつ、週や月、年の数日のみ働くもの)については、団体交渉における明示の規定がない場合にも、完全に適法としたことである。

2000年委任立法61号は当初、ヨコ割パートタイム労働(週の通常労働日数働き、1日の労働時間が通常よりも短いもの)とタテ割りパートタイム労働(週のうちの数日だけ働き、1日の労働時間が通常のもの)との混合である混合型パートタイム労働を認めるか否かの権限を、同法1条3項にいう労働協約(相対的に最も代表的な労働組合により締結された全国レベルの労働協約、同労働組合によって締結された地域レベルの労働協約、そして、全国レベルの労働協約の交渉・締結を行う労働組合の補助を受け、事業所組合代表によって締結された企業レベルの労働協約)に排他的に委ねていた。

しかし結局、新規制では、労働協約による承認が廃止され、2000年委任立法61号1条2項にいう法律上の選択肢として、混合型のパートタイム労働が明文で規定されたのである。

ただし、混合型パートタイム労働の規制に関して、労働協約による規制の余地が、立法上完全に廃止されたわけではない。実際、前記の労働協約および統一労働組合の代表が締結した労働協約により、混合型パートタイム労働に関する労務提供の条件や方法を決定する可能性が、法律で明示的に保障されている。  しかし実際のところ、この規定は、法的価値に欠けるものである。つまり、この規定においては、労働協約の締結主体が、混合型パートタイム労働の特殊性を考慮して規制を置くように定められているにすぎず、旧規定に規定されていた承認の機能が、立法上確認されているわけではない。なお、この規定が混合型パートタイムにしか言及していないことを反対解釈すれば、労働協約は、タテ割あるいはヨコ割パートタイム労働を遂行する具体的な方法を特定することはできないということになるかもしれない。しかし、結論としては、組合活動の自由という原則に明らかに反するようなこうした解釈は否定すべきである。 超過労働に関する規制の改正より重要な新制度としては、超過労働の規制がある。

まず、企業あるいは地域レベルの労働協約で、全国レベルの労働協約によって定められた超過労働の上限を超える規定を置くことは従来禁止されてきたが、これが許容されることになった。この結果、個々の企業や企業の置かれた地域の特性を考慮して、規制を定めることが可能になるだろう。こうした規定が置かれたことは、とくに、団体交渉を分権化する方向にあるヨーロッパの最近の動向と一致している。

団体交渉の役割の強化は、労働協約によって決められた労働時間を超えて超過労働が行われた場合に関する制裁規定の改正にも現れている。

旧規制に従えば、超過労働の上限を超える場合、実際の総労働時間給額の1.5倍を支払わなければならず、労働協約はこの割増率を引き上げることしかできないとされていた。一方、2001年委任立法100号では、この制度が完全に変更され、賃金の割増率を定めるのは労働協約で、50%という法定の割増率は、労働協約がない場合に適用される補足的な役割しか果たさないことになったのである。

したがって、パートタイム労働契約の利用を妨げるような要素は小さくなったわけである。実際、2000年委任立法61号に対する最も強い批判は、法律によって定められた過大な割増賃金率を、労働協約によって引き下げられないことであった。

超過労働の上限を超えた場合の効果について、労働協約に完全な裁量が認められたことは、旧規制の大幅な変更である。割増賃金の程度が他律的に決定されることなく、むしろ社会に存在する様々な主体の力関係によって決まるという点では、文字通りの制裁規定というのは、概念上ももはや存在しないといえる。

超過労働の上限に関する規定の重要性は減少した。労働協約によって定められる「付加的」労働時間の上限は、割増賃金に対する労働者の一般的な権利としての意味しかもたず、割増の程度に関して明示的な保障を労働者に付与するものではない。

しかしながら、労働協約がない場合に関して50%の法定割増率が維持されたことは、市場の原理に影響を与える可能性が高い。すなわち、こうした規定が置かれたことによって、濫用的な状況の発生を防止する程度の交渉力を労働組合がもつことになろう。

超過労働についてはさらに、2000年委任立法61号3条4項の改正が行われている。同項は、「超過労働の労働時間については、通常労働時間としての賃金を受けるものとするが、労働協約の権限(facolta)として、実際の総労働時間給額に対する割増率を適用することは妨げない。」と規定していた。この規定は変更され、「労働協約では、実際の総労働時間給額に対する割増率を規定することができる。労働協約が定められるまでの間については、超過労働に関する労働時間は、最大10%までの範囲で、通常労働時間としての賃金を受ける。」とされている。

この2つの規定を比べても、文言の違い以外には、具体的な変更はみられない。むしろ、立法者は、超過労働に関する割増賃金を定めることが集団的自治権であることをより明確にしたのである。すなわち、一方では、もはや単なる「権限(facolta)」ではなく、具体的な「権利(diritto)」の点から法を規定し、他方で、労働協約に異なる規定がない場合にのみ、賃金の点で、通常労働時間と超過労働の労働時間とを等しく扱うということを強調しているのである。労働時間の上限として10%が定められたことは、とくに新しい点ではない。これは、2000年委任立法61号3条2項に定められた一般規定で明示的に要請されていた。

超過労働に関する新制度として最後のものは、2000年委任立法61号の施行日において効力を有する労働協約の超過労働に関する条項の最大有効期限を、2001年9月30日まで延長したことである。

労働協約の条項の有効期限に関する旧規定(最大1年間と規定)に対しては、強い批判があった。とくに、労働組合の規制を上からの規制により廃止することは、集団的自治に対する配慮に欠け、憲法によって保障された組合活動の自由(イタリア憲法39条)という原則の侵害であるとさえ主張されていた。この観点からは、修正規定によって定められた期限の延長は、こうした批判を部分的に緩和するものでしかない。様々な労働協約の本来の有効期限を認めるほうが、組合活動に十分配慮したより適切な解決策ということになろう。

弾力条項の規制に関する改正

2001年委任立法100号はいわゆる弾力条項に関する規制の改正を行い、使用者が労務提供の時間配分を変更することを制限している。

しかし、これは改正というよりは、労働時間の配分に関して、法律上の新たな弾力的水準を設定あるいは単に明確にするものといったほうがいいかもしれない。実際、これまでの枠組みは、完全に維持されている。すなわち、書面による労働者の同意が必要であることを定める規定には変更がない。また、労働協約により規定された範囲で、弾力的労務提供を使用者側から要求する場合には、労働者のために少なくとも10日以内に事前予告が必要であり、労働者は賃金の割増に対する権利をもつという原則も維持されている。

ただし、弾力条項に関する以上の規制には、2001年委任立法100号では、新しい(ある意味、より弾力的な)規定が付け加えられている。つまり、同法1条3項にいう労働協約は、「48時間以上10日前までの事前予告期間を定めることができる」とされた。さらに、労働協約による規定が置かれた場合には、「割増賃金に関する規定を置き、その形式、基準および方法を定めることができる」と規定されている。

最後の改正点は、労働者側からの弾力条項の破棄に関するものである。他の労働活動を行う必要があるときに、弾力条項に従わなくてもよいように、弾力条項を締結した労働者側から、弾力条項の破棄ができることについては変更がない。 2001年委任立法100号で改正されたのは、一定の労働協約において一定の手当ての支給を規定した場合には、弾力条項の破棄には、弾力条項の締結から6ヶ月以上の期間の経過が必要であることを規定できるとした点である。

したがって、2001年委任立法100号では、弾力条項に関して、細部の改正しか行っていないといえる。このため、同法は、2000年委任立法61号に対する否定的評価には、応えることができていないのである。

結論

これまで述べてきたことを概括すると、2000年委任立法61号により行われたパートタイム労働に関するEC指令97/81号の実施においては、労使双方の合意が適切に反映されていないといえる。この指令は、実際には、就労推進のためにパートタイム契約を十分活用し、そのための障害を取り除くためのものであったが、イタリア政府によって公布された委任立法により新たな規制が敷かれたために、EU関連の規制を推進するには不十分なものとなってしまった。

この観点からすると、2001年委任立法100号は、2000年委任立法61号によって確立された法制度の不備を改善するための機会を明らかに逸してしまったのである。過重な規定を置くことは、労使の自律性を阻害するものである。とくに、弾力条項に関して定められた法的制限は、労使の集団的自治や労働関係の当事者の自律性を損なうことになる。ゆえに、多くのEU加盟国で行われているように、団体交渉や個々の合意の締結に、完全な実効性を改めて付与することにより、これらの規定を直ちに見直す必要がある。ただし、パートタイムの例は、イタリアの制度上かなり強い矛盾が存在し、財源の浪費が行われてきたことの現れである。実際、イタリア政府は、金銭的なインセンティブを付与することによって、パートタイム労働の利用を促進してきた。しかし、こうしたインセンティブは、現実には、パートタイム労働の規制を過重なものにする「法律上のディスインセンティブ」となり、無駄な試みに終わったといえる。このことからすると、より簡潔で現代的な規定を制定するほうが、パートタイム労働の利用を促進するであろうし、また、他のより緊急な目的のために財源を配分することもできよう。

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