受動喫煙を理由とした疾病に関し、使用者の責任を認める判決

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

ニューサウスウェールズ(NSW)州最高裁判所の陪審は、受動喫煙が原因で喉頭ガンにかかったとするバーで働く労働者に対し、46万豪ドルの損害賠償金を支払うよう命じた。原告は、使用者が安全な労働環境を提供することを怠ったとして使用者に対し訴訟を提起していた。これに対し、州の労災保険制度を管轄するワークカバーは、原告側の主張に反対する姿勢を示していた。

判決の意義と影響

今回の判決は、受動喫煙がバーで働く労働者等にとって業務上の危険となることが認められたおそらく世界でも初めての判決であり、重要な先例となるであろう。さらに同判決は、使用者が注意義務に基づき、業務上の危険のない職場を提供する義務があり(つまりタバコの煙のない職場を提供する義務があり)、バーやクラブの経営者もそれを免れるものではないことを明らかにした。

これにより、働く過程でタバコの煙にさらされる労働者で、受動喫煙に関係する疾病にかかった者は、この種の訴訟に勝訴する可能性が高まったといえよう。

今回の判決から論理的に考えれば、パブやクラブでの喫煙は禁止されるべきことになる。その意味でも、同判決はNSW州内のホテル・クラブ産業に大きな影響を与えている。全面禁煙は、NSW州の同産業や政府にとって大きな打撃である。そのために業界団体は、会員企業に対し考えられる使用者責任について助言し、さらに喫煙を施設内の特定場所に限定するよう提案している。

しかし、クラブ内の特定場所でのみ喫煙を認める提案に関しては、受動喫煙を完全に防止するものではないとの批判が展開されている。そこで酒類・娯楽等労働者組合(LHMWU)は州の厚生大臣に対し、パブやクラブに禁煙職場を作ることがどのような影響をもたらすのかについて検討するよう申し入れている。労組側は、長い間こうした動きを支持してきたが、州最高裁の判決がその主張の法的基盤を与えたと考えている。いずれにせよ、こうした分煙の提案は、労働者による使用者に対する訴訟の提起を妨げるものとはならないであろう。

他方、州の労災保険制度を管轄するワークカバーが全面禁煙を支持しない理由は何であろうか。そして、政府が立法によりパブやクラブでの禁煙を実行しない理由は何であろうか。一つ考えられることは、タバコ産業が州の労働党に献金を行っていることである(NSW州は労働党政権である)。しかし、献金額は相対的に多くはなく、到底その理由を説明しているとはいえない。政府は、喫煙者からの政治的抵抗を恐れているのかもしれない。けれども、喫煙者は人口の28%を占めるに過ぎず、タバコを吸わない者の支持の方が喫煙者の怒りよりはるかに重要であろう。

こうしたことは政府も既に折り込み済みであるかもしれない。そうであるならば、おそらく政府は喫煙者からの税金をあてにしているのであろう。  これに対し、クラブ経営者の動きは相対的にわかりやすい。業界団体のある調査では、禁煙が行われれば、パブやクラブの煙が立ちこめた環境を嫌っていた禁煙者が来店するようになり、損失のいくらかを埋め合わせてくれるという。しかし、業界団体はタバコ産業との金銭的なつながりが指摘されている。

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