2000年後半に向け、景気後退の見通し

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

米国よりやや遅れ、また規模もそれほどでないものの、欧州でも景気後退の兆候が現れ始めている。ここ何年もの間、経済紙から姿を消したかに見えた「大量解雇」という言葉が、欧州で、そしてスペインで、再び登場しつつある。

スペイン経済は、その周辺各国の経済情勢と同様に、後退の兆候を見せている。現在の景気局面は2000年に成長の最高点に達したようで、今後は成長のスピードが鈍ってくることが予想される。OECDおよびスペイン政府は、スペインの経済成長見通しを下方修正しており、その他あらゆる公的機関・分析機関が2000年を下回る成長を予測している。

2001年のスペイン経済成長は3.5%前後と予測されており、いずれにしても今のところはまずまずの成長である。このうち国際通貨基金(IMF)およびビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)調査室の予想が最も低く3.2%、逆に最も高いのはカハ・マドリッド(マドリッド貯蓄銀行)の3.7%となっている。一方スペイン政府は、予算編成の基本として3.6%の成長率を予測している。

(注:「貯蓄銀行」はスペイン語Cajaの訳語であるが、 英語ではSaving Bankと訳され、財団等を通じて利益を文化事業・社会事業にあてなければならない、行政・労組等の代表を取締役会に含めなければならないなど、銀行とは法律上異なる扱いを受ける。)

景気のスピードダウンの主因は個人消費の後退である。2000年を通じてスペイン国民の購買力は1.3%低下し、これによって経済成長を牽引してきた個人消費が閉ざされてしまったわけである。購買力低下の背景には、金利上昇及びインフレ率の上昇がある。インフレ率は4%を超え、1995年以来最高、また欧州平均との差も開いている。一方株は3年間にわたる上昇後、20%近く下落しており、800万人にのぼる投資家に影響が出ている。こうした要因も家計消費全般、特に高額の支出が落ち込む原因となっている。

消費の後退にともない、間接税による税収増も鈍りつつある。付加価値税徴収額は1999年12月に前年同期比17.1%増を記録したが、2000年9月には5.4%増にとどまった。

所得水準が維持されていれば、消費の後退がそのまま貯蓄の増大につながるものと考えられるが、実際にはそうなっていない。1999年には貯蓄が可能であると答えた家庭が全体の58%だったが、2001年を通じて貯蓄するつもりと答えている家庭は15%にすぎない。その上、借金をしている家庭では返済が次第に苦しくなっていると答えている。返済がされなかった借金額は2000年第3四半期に10%近く増大しており、1993年以来見られなかった大幅増となっている。

スペイン銀行のデータによると、小企業の雇用創出は1998年に7.5%と最高に達したのち、99年には7.1%とやや低下しつつあるが、労働者50人未満の企業の3分の1以上が、1999年を通じて雇用を創出している点が注目される。

大企業および中企業の雇用創出は、1998年の3%増から99年には3.5%増となっている。一般に企業の規模が小さくなるほど労働者の組合組織率も低く、権利が十分に守られない傾向がある。したがって、中企業および大企業での雇用増により、総体的には労働者の権利が向上したものと考えられる。しかし、年齢・性別・企業規模・雇用契約形態による雇用の二重構造は縮小する傾向にあるものの、雇用のその他の要因においては必ずしもそうなっているわけではない。

国家財政に目を転ずると、公務員賃金上昇をめぐる裁判所の判断が待たれるものの、財政支出引き締めと好況のために、2000年を通じて財政赤字はほぼ全面的に解消している。しかし、1990年代半ばに始まった財政赤字の大幅削減傾向には別の側面が隠されている。

まず、富の再配分の観点から見ると、財政赤字削減はより公正なものとなりうるものだったといえる。つまり、高所得層に対する減税を主眼とした税制改革のため、財政収入の再配分要因が大幅に失われてしまったのである。累進性の高い直接税が税収に占める割合は、2年前より減少している。

また、スペインにおける財政赤字の削減(中にはその消滅を予想する楽観的な見方もある)は、他のEU連合諸国よりも小幅なものにとどまっている。欧州委員会の予測によると、赤字財政を抱えているのはポルトガル、フランス、オーストリア、ギリシャだけである。逆にイギリス、フィンランド、アイルランド、スウェーデン、デンマークでは財政黒字がGDPの2%を超えている。全体として見ると、EU15カ国の財政黒字はGDPの1.2%となっている。

地方別に見ると、過去10年間を通じて見られた各地方の発展傾向がそのまま深まることが予想される。全国平均を上回る成長が期待されるのは、東部地中海岸およびエブロ川流域に位置する自治州やマドリッド州など、経済的によりダイナミックな地方である。こうした傾向は、スペイン経済の抱える問題の一つである地域間格差の拡大につながることになる。

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