EPF掛金率引き下げ問題で政府が労組に譲歩

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

政府が景気刺激策の一環として打ち出した従業員積立基金(EPF)掛金率の引き下げ措置に対して、マレーシア労働組合会議(MTUC)は労働者の貯蓄を切り崩すものだと反発、全国でピケを張る決定を下していたが、寸前になって政府がMTUCの要求を受け入れたことにより、ひとまずピケは回避された(本誌前号参照)。

EPFは日本の厚生年金に相当するものだが、労働者の老後に備えた強制貯蓄制度としての性格を有する。政府は3月末に、アメリカ経済の減速に備えた内需振興策として、このEPFの労働者側掛金率を11%から9%に引き下げて世帯の可処分所得を増やし、消費意欲を刺激する策を打ち出した。

この措置に対してMTUCは4月上旬、労働者の将来の蓄えを犠牲にするものだと反発、5月12日に全国のEPF事務所でピケを張る方針を打ち出した。MTUCはこのところEPFの運営のあり方に不満を募らせており、今回それが一気に噴き出した格好だ。

クアラルンプールでの東南アジア諸国連合(ASEAN)労相会議の開催を5月10日に控えていただけに、政府は国のイメージダウンを懸念して、EPFの最高経営責任者(CEO)を交代させたり、掛金率を選択制(9%か11%)にするなど、ピケ回避に努めた。

しかしMTUCは4月22日、方針を撤回するどころか、EPFに関して、①労働者退職スキームの民営化(年金管理を民間保険会社に委託)、②死亡および就労不能に対する補償額の3万リンギから2000リンギへの大幅引き下げ、③2000年度のEPF配当率がここ26年間で最低の6%であったこと、④公募に失敗したタイム・ドットコム社の株式7870万株の購入を決定したこと、⑤政府がEPF労働者掛金率を恣意的に変更したこと、⑥EPF投資委員会の同理事会に対する説明責任を政府が認めないこと――などの問題点を指摘し、その改善を要求した。

フォン人的資源相らの説得活動が空振りに終わるなか、アセアン労相会議開催の前日である5月9日、マハティール首相は、MTUCのランパック委員長に書状で、①年金民営化を専門家の調査が終了するまで延期する、②死亡・就労不能に対する補償額引き下げを撤回する、③EPFの資金管理を透明化する――ことを約束。同日夜、MTUCは緊急総会を開き、ピケを8月9日まで延期することを決定した。

ひとまず矛を納めたものの、ランパック委員長は記者会見で、EPFの活動を監視する委員会の設置を次期総会で提案する意向を明らかにした。またMTUCが提起した残りの問題について話し合うため、同幹部は6月25日にマハティール首相に会うことが決まっている。

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