公企業の民営化・分社化をめぐる労使対立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

公共部門における構造調整の一環として進められている公企業の民営化をめぐって労使対立が目立っている。その中で注目されるのは、韓国電力公社の子会社である韓電技術と韓電技工の間で民営化をめぐる労使対立が異なる様相を見せていることである。

韓電技術の民営化

まず電力設備設計エンジニアリング事業を担当する韓電技術の民営化にあたって、同社労組は4月2日、「従業員側が同社株の51%を買い取り、従業員所有企業にする」案を正式に提出した。その前にすでに全従業員1805人のうち、1750人は「自社株持合組合」の結成に参加し、株式の買い取りに備えている。

これに対して、会社側は「すでに公開入札のための売却公告を出し、入札への参加資格を個別法人に限定したため、法人資格のない自社株持合組合は入札に参加できない」と、労組側の提案をつき返した。政府も同社労組の提案には否定的な立場をとっている。所轄の企画予算処の関係者は「経営の効率化のために民間企業が過半数の持ち株と経営権を確保しなければならない。ただし、従業員(自社株持合組合)には全株式の20%を優先的に買い取る権利を与えるので、それで十分従業員の経営参加や経営成果配分への発言を保つことができるだろう」と述べた。

同社は国内の電力設備設計エンジニアリング市場を独占し、低い負債比率(2000年末現在自己資本1321億ウオンに負債518億で39.2%)と高い収益率(売上対比利益率13.9%)をみせている優良企業である。そのうえ、全従業員の93.5%が専門大学卒以上の高学歴者で、またその26.9%(1805人のうち487人)は修士か博士学位をもつ専門性の高い人材で占められている。従業員側が同社の買い取りを目指した背景にはこのような好条件を生かすことへの自信と、民間企業への売り渡しに伴う不安などが入り混じっているかもしれない。

公企業の子会社のうち、すでに5社(従業員数264人から800人)は従業員所有企業になっており、以前の仕事や市場をそのまま受け継いでいることもあってほとんど経営が安定しているようである。これらの企業より規模が大きい韓電技術が公企業民営化の新たな実験台になるのかどうか注目されるところである。

韓電技工の民営化

その一方、韓国電力公社のもう一つの子会社である韓電技工(全国46箇所の発電設備の整備を担当)では、同社労組が4月6日、民営化に反発し、ストライキに突入した。同社の労組は1月19日、争議行為の賛否を問う組合員投票(2500人)を実施し、91%の賛成で争議行為を決議した。その後3月21日に労使交渉が決裂したのを受けて、中労委に争議調停申請を出した。中労委は4月5日、特別調停委員会が決裂したため、急いで職権仲裁の決定を下したが、同社労組はそれを受け入れず、ストライキを強行したのである。

同社労組は「韓電技工の民営化は当初の電力産業構造改革基本計画の原則に基づいて段階的な持ち株売却方式で進めなければならない。いまの民営化作業を直ちに中断し、労使のほかに韓国電力公社、政府などが参加する公式協議機構を設けるべきだ」と主張した。これに対して、会社側の関係者は「すでに2月28日に持ち株の売却公告を出し、4月3日に10社余りから入札参加申込書を受け付けている状態なので、民営化の延期には応じられず、話し合いすら持てないのが実情である」と述べた。

この労使紛争に関連して、韓国労総は「政府が今回のストライキを不法争議と決め付けて、公権力を投入し、強制鎮圧する場合、労使政委員会への参加を全面的にボイコットする。今回の中労委の職権仲裁決定が効力を失い、公共部門などにおける一方的な構造調整が撤回されるまで、職権仲裁効力停止仮処分申請を出し、ILOに提訴する」など対政府闘争を強化することを明らかにした。

韓国通信公社の分社化

一方、韓国通信公社では構造調整の一環として進められている「電話番号案内業務と料金滞納管理部門の分社化」をめぐって労使対立がエスカレートしている。同社労使は4月9日から5月3日にかけて構造調整特別委員会を開いて、話し合いを続けた。5月3日に開かれた4回目の委員会では、労組側は、分社化を行わず、雇用の安定を保証することを条件に、定年短縮、賃金凍結、2001年の労働協約の維持、早期退職金の引き上げ(36カ月から45カ月へ)などを受け入れる案を提示したが、会社側はこれを拒否した。

結局、会社側は5月7日、臨時理事会を開いて、「上記の部門を分社化し、従業員所有企業として新たに設立する」ことを決議し、分社化の方針を確定した。これに対して、労組側は「会社は、理事会の開催に際してその日時と場所を組合に事前に知らせ、決議内容を事後通知するよう定めた労働協約の関連規定に違反した。地方労働委員会に提訴し、裁判所に理事会決議効力停止仮処分を申請する。そして5月12日に争議発生の決議を行った後、6月10日には民主労総との連帯闘争に突入する」との方針を明らかにした。

いずれにせよ、5月末から6月にかけて集中する、2001年の事業所別賃上げ及び労働協約改定交渉においては構造調整とそれに伴う雇用保障が最大の争点になっており、特に公企業の構造調整をめぐる労使対立は労使関係全般に重い影を落とすとみられるだけに、その行方に目が離せないところである。

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