経営不振企業の構造調整と構造調整特別法制定の動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

経営不良企業の構造調整が大詰めを迎えている。大宇自動車のほか、現代建設、現代投信、ハイニクス半導体(3社とも現代グループ)など大手経営不振企業は、景気低迷が続く韓国経済のアキレス腱といわれるほど、深刻な状況にある。その負債総額は34兆6130億ウォン(大宇自動車17兆、現代グループ3社合わせて17兆6130億ウォン)に上っており、これらの経営不振企業の構造調整は裏を返せば金融部門の構造調整や金融市場の安定化に直結し、最終的には韓国経済の行方にも少なからぬ影響を及ぼすものとみられている。

これらの大手経営不良企業はかつて5大財閥の一角を占めていた大宇グループと現代グループの主要系列企業であり、下請け関連企業数や従業員数(約1万2000社で100万人規模)のみでなく、金融市場への波及効果(特に連鎖倒産)の面からもその影響力はかなり大きい。それだけに、政府や債権銀行側もこれらの企業を簡単に切り捨てるわけにはいかず、延命措置(負債の出資への切り替えや追加金融支援、公的資金投入など)をとりながら、その構造調整を進めるしかほかに方法がないのが実情のようである。

いまのところ、現代建設は債権銀行が出資する方法で負債の直接償却に応じるという支援策で急場を凌いだにすぎず、構造調整の成否はこれからの資産売却などによる財務構造改善や受注回復による収益性向上などにかかっている。その他の企業は主に外資誘致に活路を見出そうとしている。例えば、大宇自動車はGM、現代投信はAIGコンソーシアムなどとの交渉に望みをかけているだけに、しばらく目が離せないところである。

もう一つ、経営不振企業の構造調整をめぐる新たな動きとして注目されるのは金融監督庁主導による経営不振企業の常時退出の仕組みづくりである。

経営不振企業の常時退出の制度化

金融監督庁は5月8日、次のような基準に基づいて1187社を市場からの常時退出の審査にかけるべき企業として選定したのに続いて、27日には銀行(22行)の管理下にある会社更生法適用中の企業(149社)と和議手続き中の企業(330社)合わせて479社を新たに加え、同審査対象企業を1544社に増やしたことを明らかにした。その選定基準は①最近3年間連続して利子償還倍率が1.0未満の企業、②資産健全性分類基準に基づいて「要注意」以下の各付けになった企業、③銀行の内規に基づいて経営不良の兆しがあると判定された企業などである。

この背景について、金融監督庁の関係者は、「銀行の不良債権を速やかに処理するために、会社更生法適用中の企業と和議手続き中の企業も新たに銀行の常時退出審査対象に加えることにした」と述べた。金融監督庁としては、会社更生法や和議などの法的処理が、どちらかというと経営不良企業の単なる延命装置になってしまい、経営再建か市場からの退出かの道筋をつけるのに時間がかかりすぎるため、銀行の不良債権処理が一向に進まないとみて、最終決定権をもつ裁判所に速やかな処理を促す狙いがあるのかもしれない。

債権銀行は6月から9月にかけて上記の1554社に対する審査を行い、経営再建可能か市場からの退出かの判定を下すことになるが、新たに加えられた「会社更生法適用中の企業と和議手続き中の企業」に対してはその判定の結果を裁判所に伝えるだけで、最終判断は裁判所に委ねられることになるのである。いずれにせよ、経営不良企業の行方は、いままで同企業の市場からの退出決定にはどちらかというと及び腰だといわれていた債権銀行や裁判所の新たな決断にかかっているだけに、その出方が注目される。

企業構造調整特別法の制定

そして、このような企業の構造調整を促進するための法制化も新たな局面を迎えている、政府は5月27日、「経営不振企業の法的処理」に関連する、現行の破産法、会社整理法、和議法など三つの法律を統合するほか、その前の段階にあたる「経営不振企業の判定と管理」における法的基盤として「企業構造調整特別法」を制定する方針を明らかにした。同特別法の趣旨は「企業の構造調整にかかわる各利害関係者、つまり政府、金融機関、企業などの権限と役割を法的に明記することにより、責任の所在や利害調整の基準を明確に定め、構造調整を速やかに進めることができるよう法的基盤を整備する」ところにある。つまり、このような法制化は前述のような経営不振企業の常時退出という仕組みに明確な法的根拠を与えるものといえる。

大手企業グループの出資総額制限制度の施行

一方、大手企業グループの構造調整との関連で注目されるのは、「上位30の大手企業グループに対する出資総額制限制度(純資産の25%以上を系列企業の経営支配を目的に出資することを禁止する)」の施行である。同制度は経済危機直後、外国人の敵対的なM&Aへの対抗手段として、国内企業の経営権防衛が行われた際に逆差別を解消する目的から一時廃止されていたが、1999年末に復活し、2001年4月から再び施行されることになった。

同制度の大手企業グループの構造調整への影響をめぐって公正取引委員会と財界は真っ向から対立している。公正取引委員会は「同制度は非関連事業へのむやみな拡大路線に歯止めをかけ、中核事業への経営資源の集中的投入を誘導することにより大手企業グループの構造調整を促進する」と主張している。これに対して、財界は「構造調整のみでなく、新規戦略事業への投資をも妨げる要因になっている」と反論し、規制緩和の一環として同制度の弾力的な運用を求めている。

公正取引委員会は、実際に同制度が一時廃止されていた間、大手企業グループの間ではグループ全体の負債比率を下げ、経営不良系列企業を支援するために系列企業間の株式相互持合い比率を増やすなど、構造調整の方針に背くような動きが広がった点を重くみて、同制度を堅持する方針を明確に打ち出している。

いまのところ、上位30の大手企業グループは出資超過分を解消するほか、新規投資のための新たな対策をも見出さなければならないなど、難しい選択を迫られている。具体策としては、持ち株の売却のほか、持ち株会社の設立、系列企業間の合併、純利益の増大などが挙げられている。

そのうち、特に注目されるのは持ち株会社の設立である。最近企業グループの経営効率性を高め、外資誘致を円滑に進めるほか、経営支配体制を固めるために持ち株会社の設立に踏み切る大手企業グループが増えているが、持ち株会社は「出資総額制限制度」の適用を受けないこともあって同制度を回避する手段としても利用される可能性が高いとみられている。

実際に、持ち株会社の解禁前にも大手企業グループの間では特定の主要系列企業に持ち株会社のような機能を持たせ、それを軸に系列企業間の株式相互持合いを通じてオーナー経営者の全系列企業における経営支配体制を確立するケースが広くみられていた。最近はオーナー経営者の各系列企業における株式持合い比率を全般的に下げる一方で、持ち株会社の役割を果たす特定の主要系列企業の株式持合い比率をさらに高めることにより、全系列企業における経営支配体制を固めようとする試みが広がっており、すでに持ち株会社の設立に向けての布石を打っているともいえる。

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