行政機関における労働時間の規制

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

1.序

行政機関における労働時間の規制を分析するためには、その法制度を検討する必要がある。

労働時間に関する法律としては、公勤務の民営化に関する1993年2月3日委任立法29号〔行政機関の組織の合理化等に関する規定〕が重要である。同法は、公共部門における労働時間について様々な規定を定め、全く新しい枠組みを導入している。

同法の5条d)および7条3項には、「一般規則」が規定されている。5条d)は、「業務時間、サービス提供時間および労働時間を、利用者の要求および欧州共同体加盟国における行政機関の時間制、並びに、民間労働における時間制と」調和させる必要性を明示していた(ただし、同条は、1998年3月31日委任立法80号〔行政機関における組織および労働関係に関する新規定〕43条により廃止されている)。また、7条3項は、「個人的、社会的および家庭的に不利益な状況にある被用者のため、並びに、1991年8月11日法律266号[ボランティア活動に関する枠組法]に定めるボランティア活動を行う被用者のため、職務体制および労働体制と矛盾しない範囲で、行政機関は、職員の弾力的活用に関する一定の優先基準を定める」としている。

当初の1993年委任立法29号には、以上の条文の他にも、16条および17条という重要な規定が定められていた。これらの条文は、管理職(注1)の権限について定めたものである(ただし、1998年の一連の改革により一新されている)。16条1項d)は、全国規模の最も代表的な労働組合に通知した上で、「業務時間およびサービス提供時間、並びに、組織における優先すべき機能上の必要性に応じた労働協約上の労働時間の調整」を行う権限を、管理職長に対し認めていた。また、17条2項は、「1990年6月8日法律142号[地方自治制度に関する規定]36条の規定を維持した上で、当該地域の特性を考慮して業務時間およびサービス提供時間を」適正化し「労働協約上の労働時間の調整を」行うことを、一般の管理職(第一種管理職と上級管理職)の権限として認めていた。

1993年委任立法29号には、当初、労働時間をとくに対象とする規定もあった。すなわち、同法60条では、業務時間を労働時間に合わせることとし、週6日制を採用していた。これに対し、同条を改正した1994年12月23日法律724号[公的財政の合理化措置に関する規定]では、同じく業務時間を労働時間に合わせるとしているものの、週6日制から週5日制に変更している。さらに、学校機関など、当該公共サービスを継続的に供給すべき特別の必要性があるとか、毎日のサービス提供が要請されるなどの場合や、その他、労働日でない日にも業務時間を拡大することにより行政機関のもつ制度上の機能を確保する必要がある場合には、週5日制とは異なる業務時間の採用を認めている。

その後、1997年3月28日法律命令79号[公的財政安定化のための緊急措置に関する規定](1997年5月28日法律140号に転換)6条5項は、1994年法律724号を再確認し、週5日制が原則であることを定めている。そして、継続的サービスの提供を確保すべき機関については、それが国であれば所定の規則により、他の行政機関であれば当該機関の命令に基づいて、週5日制の例外を定めることを認めている。

1997年11月4日委任立法396号[1993年委任立法29号の改正に関する規定]、1998年委任立法80号および1998年10月29日委任立法387号[1993年委任立法29号の補完および修正規定]は、以上のような法の枠組みに基づいて制定されたものである(1997年3月15日法律59号[州および地方自治体に対する機能および権限の付与等に関する政府への委任規定]による委任の実施)。この中でも、労働時間についてより明確な規定を定めているのは、1998年委任立法80号である。同法は、1993年委任立法29号5条を廃止した上、5条の内容を新2条1項e)に取り込んでいる。また、1998年委任立法80号は、1993年委任立法29号7条に規定されていた当初の定義を改正し、同法16条および17条の労働時間に関する部分を廃止している。

なお、公共部門の職員について、民間部門の労働時間に関する法規が直接に適用されるかという問題がある。この問題は、とくに、民間部門について、法律(1923年3月15日法律監国令692号[労働時間の制限に関する規定])により定められた1日8時間、または週48時間(1997年6月24日法律196号[雇用促進法]13条により、週40時間に変更)という労働時間の上限が、行政機関に準用されるかということと関係していた。ただし、この点に関しては、1997年法律196号が、このような上限にかかわらず、全国協約で、「より短い時間を設定すること、および、1年以下の一定の期間における労務提供に関する平均期間を基準にして、通常労働時間を定めること」を認めている。したがって、現在ではとくに問題とならない。

2.労働時間、業務時間およびサービス提供時間

労働時間の決定および調整に関する解釈問題については、概念や制度の点で、労働時間と業務時間・サービス提供時間とをあらかじめ分けて分析する必要がある。労働時間と業務時間との関係に関して、廃止された1993年委任立法29号60条は、業務時間を労働時間に合わせること、および、週6日制の採用を定めていた。労働時間をどのように決定するか、また、業務時間を必ず労働時間に合わせなければならないかについては、協約に留保されている。このことは、1994年法律724号22条により再確認されている。同法によると、「週の通常労働時間は、協約上義務づけられた労働時間の枠内で、業務時間に代替する」とされている。1993年委任立法29号60条との唯一の違いは、日数の点にある。すなわち、1994年法律724号においては、6日ではなく5日(午後に関しても)に調整しなければならないと明文で確認されている。このことは、1997年法律命令79号でも確認されている。

3.労働時間

労働時間に関して最も重要な問題は、労働時間の決定は団体交渉により行われるのか、あるいは管理職によって一方的に決定されるのかという点であった。

この点に関し学説は、条文の文言や体系の点から、基本的には労働協約が専管的に決定するとしていた。

文言の点については、1994年法律724号22条2項により学説の考え方が明文で確認された。すなわち、「協約上義務づけられた労働時間」という語句を用いていることは、同法では、必然的に、労働協約により労働時間の総時間が決定されることが想定されていると考えられる。また、体系の点に関しては、労務提供と報酬とが契約上双務関係にあり、労働時間が、労務提供の方法や報酬水準を決定するのための基準になっていることは明らかであった。法により定められた上限を考慮すべきことを要請した上で、労働協約への留保が明らかに認められたために、行政機関による一方的規制の可能性は否定されることになったのである。

4.管理職層の除外

公共部門の管理職は、長い間、労働時間について特別な取扱いを受けていた。すなわち、民間部門の管理職と異なり、公共部門の管理職は、当初より、労働時間に関する規制から全く除外されていたのである。実際、公共部門の管理職による労務の提供は、一定の目的の達成に関連させられているという意味で、結果債務のようなものだったのであり、民法典2094条に規定された従属労働とは部分的に符合するにすぎなかった。逆に、公共部門の管理職の労務提供がもつ時間的要素は、様々な側面で他の一般的な公務員の場合と同視されており、この点で管理職は優遇されていたのである。

公共部門の管理職の労働時間について一般的な規制が制定されたのは、国家公務員の管理職に関する1972年6月30日大統領令748号[国の機関における管理職の権限に関する規定]20条が初めてであった。同法は、既存の管理職的活動と区別するために、管理職の性質を明確にしている。20条1項は、「管理職については、国の事務系公務員に関して一般的に定められた週の労働時間を週10時間増やすものとし、業務の必要性に応じてこれを配分する」としている。さらに、同条は、一般管理職に関しては、時間外労働に対する補償を求める権利を付与することなく、必要な場合には前記の労働時間を超えて残業する義務を課すことも認めている。

同条の合憲性は、憲法裁判所により明確に認められた。すなわち、憲法裁判所は、このように、他の大多数の公務員に比べて過重な労働時間も、「その役割の特殊性に関する合理的な評価の範囲内で、立法者が行った選択」であり、差別にはあたらないと判示していた。こうした結論は、行政裁判所によっても再確認されている。

以上のような枠組みに基づいて導入された1993年委任立法29号およびこれ以降の労働協約は、かなり新しい仕組みを採用している。すなわち、いわゆる民営化が行われた後、1990年11月24日法律命令344号[管理職公務員の対価に関する規定]5条3項の効力の及ぶ範囲は、1972年大統領令748号の定める国家公務員の管理職長と、1985年3月8日法律72号[国の機関の管理職に対する金銭待遇の臨時調整に関する規定]2条に定める管理職に限定された。これに対し、1993年委任立法29号2条2項・4項および46条により統一された一般の管理職(第一種管理職と上級管理職)については、1990年法律命令344号5条3項は適用されない。

また、1997年法律命令79号6条5項により間接的な形で上限が規定されている。この規定によると、行政機関は、週5日制を採用しなければならないとされている。こうした調整が、行政機関の裁量に委ねられているわけでなく、義務であることは明らかである。この仕組みの例外を設けることは、当該機関の目的のために、継続的なサービスの提供が要求される場合にのみ認められる。これに対し、日曜日以外に休日を定めることは、個々の行政機関における組織上の独立性として裁量が認められている(特別な定めがなければ、土曜日に指定されることになろう)。こうした週の労働時間の調整や日曜日以外の休日の定めが、管理職をも拘束することは明白である。なぜなら、管理職は、組織の方針や機関の必要性に基づいて自己の地位を組織の中に位置づけていかねばならないためである。

しかし、以上に述べた仕組みの他に、管理職の労働時間に関する権限について、さらなる限界を設けることはできない。実際にこうした限界があれば、明らかに管理職の役割を損なうことになり、運営責任や組織の柔軟性という論理とは全く矛盾することになろう。こうした運営責任や柔軟性の論理においては、労働時間に関する抽象的かつ形式的な義務よりも、労働活動が完全に自律的に行われることが尊重されるのである。(注2)

5.労働時間の調整と管理職の権限による決定の可否

民間部門同様、公共部門に関しても、個人の活動は、組織全体との関係で位置づけられなければならず、また当該機関の体制や目的と調整されなければならない。そして、行政機関については、こうした側面がとくに重要である。なぜなら、公務員の労務は、公共の利益を追求するために設けられた組織の内部で遂行されるものだからである。

ただし、すでにみたように、法律は、労働時間を決定することに関して、行政機関に対し一定の拘束をかけている(1994年法律724号22条および1997年法律命令79号6条5項参照)。しかし、労働時間の決定に対し、団体交渉によりどこまで介入しうるかに関しては明らかではなかった。この点、学説は、労働協約が労働時間を決定するという役割を果たすことについては異論がないが、労働時間の調整については見解が分れていた。

もっとも、この点に関しては、1997年および1998年の立法により、1993年委任立法29号10条と45条1項が大きく変更されている。新10条では、「全国規模の労働協約は、労働関係に影響する組織内部における措置との関係でも、労働組合関係および参加制度を決定する」と定められた。一方、新45条1項では、「団体交渉は、労働関係および組合関係に関するすべての事項について行われる」と規定された。したがって、労働協約に規定される事項の1つとして、労働時間の調整が含まれることになったのである。

(1)労働時間の類型

協約の中に「弾力基準」が盛り込まれることがある。これは、職務体制や業務体制の中で、組織上の職務配分に応じて弾力性を確保するためのものである。

協約上に具体的に規定された労働時間の類型を詳細に分析すると、まず、フレックス・タイム制であるかという点、すなわち、労働開始時間を遅らせたり、終了時間を早めたりすることができるかが重要である。労働時間に関する様々な類型の中で、フレックス・タイム制は、労務提供の時間配分に関する選択の余地を職員に残しているという点で、職員の利益をより大きく保護するものである。ただし、労働協約は、個々の職員の利益と社会の利益とを合致させるという観点から、当該機関に採用された職員のすべてが、必ず一定の時間(一般的には1日の中心となる時間帯に合わせて)業務に携わるようにして、利用者の要請を保護している。

次に、交代勤務制が規定される場合がある。これは、労働時間をあらかじめ調整することにより労働者を順番に交代させる制度である。そして、この制度は、労働時間に関する他の類型を採用することによって対応できない場合には、利用者がより十分なサービスを享受できるように、業務時間をできるだけ長く設定するという目的をもつことになる。

第3の類型としては、常時対応制がある。この制度を採用する部門として省庁部門があり、そこでは、次のような仕組みが採用されている。まず、常時対応制は、「当該サービスが本質的かつ早急の必要性を有し、その必要性が労働時間の調整に関する他の方法を採用することによって対応できない場合に限り用いる」ことができる。また、利用しうる職業形態が限定されている(継続的開業形態や緊急サービスを採用している場合等)。常時対応制度に関する期間の上限は、12時間と定められており、サービスへ従事する場合、労務提供は6時間を超えることはできない。労働者の保護のため、月に7日以上連続して(すなわち、日曜日を2回含む形で)常時対応制を規定することはできない。

(2)数週にわたる労働時間(変形労働時間制)

労働時間の弾力化を促進する制度の中で、長期にわたる労働時間の類型は独自の重要性をもつようになっている。この制度は、合計労働時間を週36時間以上か、あるいはこれ未満に設定するとともに、数週および数年にわたる日程を定めるものであり、時間外労働を抑制するにあたり重要な役割を担っている。実際、長期の調整を行うことによって、労働時間の計画的な運営が可能になる。つまり、一定の期間(数日間、数週間あるいは数か月間)における時間を増やし、それに応じて他の期間の時間を減らすことによって、当該機関の特有の要請に対処することができる。要するに、労働の時期を慎重に管理することにより、時間外労働を行った場合と同様の目的を達成し、かつ全体のコストを大幅に節約することができるのである。

たとえば、省庁部門では、次のような仕組みが定められている。まず、数週にわたる通常労働時間を計画する場合には、一般に、全国規模の協約により定められた形式に従い労組との検討を経た上、当該計画を1年に1回決定する必要がある。ただし、こうした計画化は、「特定の職務および業務に関する予見しうる必要性に応じて、実施しなければならない」と明文で規定されているために、当該計画は、当該機関における大多数の職員ではなく、特定の権限を実行するために配置された職員にしか配慮できないことになる。長期の調整が行われる場合、週当たりの通常労働時間は44時間を超えることができない。週平均36時間という規制を守ろうとすれば、さらに、年間に労働時間が集中する期間と分散する期間をも設けなければならないし、また、通常は、13週を超える期間を設定することができなくなる。

6.時間外労働

立法者は、公共部門については一貫して、時間外労働の利用を制限する傾向がある。こうした傾向があることは、補償の支給に充てる財源が徐々に減らされたことからも明らかである。

ただし、省庁部門や非営利公団部門では、事後的通知手続における時間外労働の時間配分と金銭的待遇とが問題になっており、時間外労働への関心が高まっていることが分かる。また、地方自治州部門と保健機関部門の協約でも、時間外労働に関する規定が置かれている。すなわち、地方自治州に関する協約においては、時間外労働の提供に対する補償上限を規定し、時間外労働の利用を抑制する観点から、当事者に対し交渉義務が課された。それによると、「少なくとも1年に3回、機関レベルで、時間外労働の実現に必要な要件を充足しているかを判定するため、また、業務の合理化による適切な措置をも用いて、漸次かつ一定して縮減することができる状況を見いだすために」交渉を行わなければならないとされている。

保健機関に関する協約の規定は、より詳細である。同協約は、まず、時間外労働を労働計画化の通常の方法として用いることができないという一般原則を述べ、時間外労働の利用が例外であることを確認している。その上で、時間外労働の利用について詳細な規定をおいている。

まず、時間外労働の実施に必要な要件が充足されているかを判断するために、当事者に対し少なくとも1年に3回の交渉義務を課した。次に、時間外労働の補償に関する手当を支給するための一般的基準に基づき、事業の諸部局に対し付与すべき財源を明らかにすることを保健機関に要求した。こうした財源の分配は、基本的に、あらかじめ計画化された事業上の要請との関係で実現されなければならず、予想外の状況や出来事に直面した場合に、柔軟性の論理に基づき、例外的に認められるものである。

第3に、個別的にみると、時間外労働に対する上限が定められており、職員1人当たりについて年180時間を超えてはならないことになっている。特別かつ例外的な必要性がある場合に限り、事業に従事する職員の5%以下で、かつ、最大年250時間までという条件付きで、この上限を超えることが認められる。

最後に、金銭的側面に関しても協約に規定がある。すなわち、協約は、時間外労働の補償たる労働時間の調整に加え、職員が時間外労働に対する報酬を求めることができることを明確に規定している。また、同時に、業務の必要性に反しない限りにおいて、翌月に代替休日をとることも認められる。

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