株式化後の国有企業(SOE)における労働事情

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

1992年に始まったSOEの株式化は、1998年に本格化した。これは次にあげるように、株式化されたSOEの数から、明確に読みとることができる。

  • 1992年から1995年まで 5社
  • 1996年から1998年10月 33社
  • 1998年10月から1999年12月 332社
  • 2000年中 337社

SOE従業員が、株式化後の新しい会社に移る場合、これらの従業員を対象にした国家政策として以下のものがある。

  • 従来、SOE従業員は、他の株主に比べ3割引の価格で10株を購入することができた。このような形でSOEの元従業員が保有する株は、新会社の資産価値の20%を超えてはならない。
  • 優遇価格で株を買うことができない貧しい従業員が、株保有の恩恵を享受できるように、株式購入代金を3年間延納することなどが認められている。
  • SOE従業員が移った新たな会社は、SOE同様、従業員の社会保険への拠出を続ける。
  • 余剰労働者は、失業手当と、新たな仕事に就くための訓練・再訓練機会を受け、株式会社に転社した従業員同様、優遇価格で株を購入する権利がある。

株式化による、SOE元従業員の困窮や社会不安を避けるため、政府は、元従業員が、株式化後の会社で働き続けられるように試み、また、元従業員の自営業立ち上げに資金援助をするといった優遇措置をとっている。

100社を対象にした調査の結果

株式化されたSOEにおける労働事情を調査するため、「労働科学社会問題研究所」は、100社で働く500人の従業員と、250人の余剰労働者にインタビューした。

調査対象のSOE100社は、次のように分類することができる。37%が全社を対象とした株式を 発行し、39%が社の一部を対象に株式を発行、15%が株の国有を維持したまま追加的に株を発行して新たに資本調達し、9%が1つの部門を分離して株式を発行した。部門ごとに株式化の 形式に特色があり、全社を対象にした株式を発行することが最も頻繁に行われているのは、発電・送電部門(同部門の50.0%)や商業部門(同部門の50.0%)である。一方、農業、林業、 加工業では、社の一部を対象に株式を発行することが多い。

株式価値の分布

100社の株式価値の分布は、27社が10億ドン未満、33社が10億ドン以上30億ドン未満、13 社が30億ドン以上50億ドン未満、27社が50億ドン以上となっている(1ドル=1万4000ドンと して換算)。明らかに、これらの企業は中小企業が中心で、大規模企業はほとんど株式化されていない。政府は、株式化に伴う問題点を洗い出すため、中小規模のSOEの株式化に着手し、ここで得られた経験をさらに大規模な株式化に生かそうとしているのである。株式化後のSOE100社は、その51%が、従業員数が51人以上200人以下で、従業員数の点でも小規模である。

株式化後の国家保有株の比率は、38社が全株式価値の0%、15社が25%未満(0%を除く)、 36社が25%以上50%未満、7社が50%以上70%未満、4社が70%以上である。概して、株式化後に、総資本が大幅に増加した企業が多く、これは、会社の一部を対象に株式を発行した企業で最も 顕著である。各企業は従業員をはじめ、様々な人々から資金調達をした。株式化後に、多くの企業で資本が増加したことは好ましい結果と考えられる。もっとも、大企業や外国投資企業に肩を並べるには不十分な資本総額である。

株式化後の100社の従業員の勤続年数の分布は、3年未満が8%、3年以上5年以下が13%、6年以上10年以下が21%、11年以上20年以下が37.6%、21年以上が20.4%である。従業員の79%が6年以上勤続しており、大部分のSOE従業員の雇用が維持された。このことは、一般に株式化後に 従業員数が増加したこと、および、勤続3年未満の従業員が8%に過ぎないことからもわかる。

従業員数の変化

職種別ないし専門的技能水準別に、株式化前後の従業員数の変化を見たものが図1である。1999年における総従業員数は、株式化前よりも4.62%増加している。組織改革により、管理職は2.46%減少し、一般従業員は6.32%増加した。専門的な技能水準別に見ると、技術資格のない労働者が2.79%減少したが、大卒以上の労働者が21.94%増と大幅に増加した。明らかに各企業は、技能水準の高い労働者を新たに雇用し、労働者の質が高くなった。

図1:株式化前後の従業員数の変化

  株式後の従業員数 株式前の従業員数 増減率(%)
従業員総数 19,223 18,374 4.62
うち女性従業員 (9,860) (9,470) (4.82)
1. 職種別      
管理職 1,231 1,262 -2.46
事務職 4,583 4,500 1.84
上記以外の一般従業員 13,409 12,612 6.32
2. 専門的技能水準別      
技術者資格なし 6,070 6,244 -2.79
技術者資格あり 9,662 9,043 6.85
職業訓練校 1,368 1,346 1.63
大卒以上 2,123 1,741 21.94

余剰労働者(失業者)

株式化により、100社のうち75社で余剰労働者が出た。余剰労働者の数は、株式化前の全従業 員数の9.8%(女性従業員に限ると11.1%)を占めた。技能水準別に、余剰労働者になった労働者の割合は、技術者資格なし(8.47%)、技術者資格あり(11.79%)、職業訓練校卒(8.92%)、大卒以上(5.00%)である。

余剰労働者になった労働者の73.97%が、自主的に退職した。自主的に退職した労働者の大部分は、働き盛りの年齢で退職し(自主退職者の48%が25歳から39歳)、離職手当を受けて、自分で仕事を始めたり、職探しをした。調査によると、株式化によってSOEで失業した25歳から40歳の労働者の73.6%が新たな仕事を見つけている。余剰労働者の比率が高いのは、衣服産業と繊維産業で技術進歩によって以前よりも人手を必要としなくなった事が理由である。余剰労働者に関しては、男女差はほとんど見られない。

労働条件

無期限の労働契約が減少し、労働契約の期間は短期化し、1年から3年の労働契約が増加した (図2参照)。株式化前後で、労働時間は、ほとんど変化していない。

図2:労働契約の契約期間の構成比の変化(%)

  1年未満 1年以下3年以上 無期限 その他
株式化前 2.69 27.95 69.15 0.21
株式化後 3.11 34.99 61.70 0.21

図3は、株式化前後の平均月収の変化を示している。調査対象は、479人の労働者(うち女性271人)である。全従業員の平均月収は、77万3000ドンから88万ドンに増加(13.80%増)した。

図3:株式化前後の労働者の平均月収(単位:1000ドン)

  株式前 1999年 増加率(%)
  合計 女性 合計 女性 合計 女性
全従業員 733 740 880 852 13.8 15.13
1.年齢別            
24歳未満 585 641 602 691 1.17 7.80
24~40歳 752 724 864 801 4.89 0.63
41~50歳 817 764 928 929 3.58 1.59
51~55歳 757 877 829 1052 9.51 19.95
55歳超 600 633 5.50
2.専門的技術水準別            
技術者資格なし 664 632 810 768 21.98 1.51
技術者資格あり 727 758 839 890 15.40 17.41
職業訓練校卒 789 688 873 737 10.64 6.21
大卒以上 879 807 990 950 12.62 17.70

地域別では、平均賃金が最も大きく伸びたのはダナン市で23.12%(女性29.28%)、次いでビンディン省の25.8%(女性31.07%)、ホーチミン市の18.48%(女性16.6%)で、最も低いのは、ナムディン省の0.78%(女性2.84%)である。専門技能別では、技術資格のない労働者の平均給与が21.98%と大きな伸びを見せている。

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