2001年度の賃金交渉をめぐる政労使のガイドライン

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

2001年度の賃金交渉をめぐって中央レベル労使の賃上げ案などが出揃ったのに続いて、政府も3月16日、「事業所別賃金交渉を支援するための指針」を各地方労働官庁に通達した。

まず使用者側を代表する韓国経総は2月22日、「会長団会議」を開いて次のような内容を盛り込んだ「2001年度賃金交渉指針」を確定した。第一に、適正な賃上げ率は2001年の経済成長率、企業の支払能力、生産性などに基づいて3.5%にするが、会社更生法適用中の企業やワークアウト・和議実施中の企業、連続赤字企業などは賃金を凍結する。第二に、年俸制対象の社員に対しては賃上げガイドラインを適用せず、公正な評価システムを通じて個人別・チーム別成果連動型報酬システムを確立するよう求める。第三に、医療保険や雇用保険など法定福利厚生費の増加に対応するため、その増加分を含めた総額人件費の概念を賃金交渉の場に取り入れる。第四に、組織の柔軟性を確保するために、季節的要因や生産量の増減に伴う雇用調整が必要な場合は臨時職や契約職など非正規労働力を積極的に活用するよう勧めることなど。

次に、韓国労総は2月11日、「統計庁が2000年10月に発表した都市勤労者生計費に2001年6月の消費者物価上昇見込み値などを反映し、総額基準で12%の賃上げを要求する。その他に、週40時間・週5日勤務制の導入、年俸制など新しい賃金制度の阻止、社会保険の改革及び社会保障の拡充、雇用安定・経営参加協約の締結、非正規職労働者の法的保護強化、公共部門・金融部門・大企業における構造調整の阻止など10大目標を掲げ、『共同要求・共同交渉・共同闘争の原則に基づいた闘争態勢』で臨む」方針を明らかにした。

これに続いて、2月27日には「2001年度代議員大会」を開いて、上記のような賃上げ及び労働協約改定交渉における指針を正式に採択するほか、今後の労働運動の方向として、「新自由主義に対抗する人本主義」を指導理念とし、「反新自由主義的連帯」を戦略的概念とする「21世紀運動路線」を確定した。それには「大々的な教育活動、産別労組体制への転換、国際基準の労働基本権保障、非正規職労働者に対する法的保護強化など」12の課題が盛り込まれた。

そして民主労総は2月14日、「組合員(平均扶養家族3.7人)の標準生計費の73%を目標に12.7%の賃上げを要求するほか、中小零細事業所における非正規労働者の生活賃金保障、社会保障の拡充及び税制改革などによる『社会的な賃金』保障、年俸制の撤回などを求める」方針を明らかにした。特に年俸制については「経営側の一方的な評価に基づいて労働者を統制し、労組の弱体化を図るほか、景気低迷に伴い賃下げや解雇の手段として悪用されている」とみて、その撤回を求めているのである。

これに続いて、3月18日には今年の賃上げ及び労働協約改定闘争方針に関連して、「従来のような全国規模のゼネストは差し控え、各事業所労組別要求案を最大限貫徹させるところに力を入れる」方針が中央委員会で決まったことを明らかにした。民主労総の関係者によると、「いまのところ各事業所別労組の賃上げ及び労働協約改定闘争態勢をみると、その時期と要求内容を全国レベルで一致させることはできない。それだけに、全国規模のゼネストよりは各事業所別労組の闘争態勢に任せた方がいい」との判断があったようである。ただし、それに加えて5月31日から6月初めにかけては「総力闘争態勢」で臨むほか、公共部門や病院など構造調整が主な争点になっているところでは5月末に各事業所別労組のスト計画を集中させることにしている。

以上のように中央レベル労使の賃上げ及び労働協約改定交渉に関する指針が出揃ったのに続いて、政府は3月16日、次のような争点についての対応策を盛り込んだ「2001年度賃金交渉を支援するための指針」を各地方労働官庁に通達した。

第一に、景気低迷に伴い企業の支払能力は低下する反面、物価上昇に伴い労働者の生計費に基づいた賃上げ要求は強まるなど、賃上げ率をめぐって労使間の開きが大きくなると予想されるだけに、経営情報の公開及び話し合いを通じて労使間の信頼関係づくりに力を入れる。第二に、各種手当ての統廃合や、基本給・定額給与の比重拡大などを通じて、賃金体系の単純化を図る。第三に、年俸制を導入する際には労使間の十分な協議を経ると共に、同制度の運用にあたっては労働者の参加を通じて評価と報酬体系の公平性を高める。第四に、賃金格差を是正するために、企業に対して人的資源開発への投資拡大を要請するほか、臨時・日雇い職労働者の法定労働条件が遵守されるよう労働監督を強化することなど。

最後に、韓国経総が大手企業70社の人事労務担当役員を対象に「2001年度の労使関係見通し」について調べたところによると、「2000年より労使関係が不安定になる」とみているのは全体の83.9%に達している。その不安定要因としては「構造調整への反発と雇用保障の要求(33.3%)」、「労働関係法制度の改正要求(25.0%)」、「複数労組容認に伴う労働組織の再編(10.9%)」、「非正規労働者の正規職への切り替えなどによる組織拡大闘争(10.9%)」、「賃金など労働条件の引き上げ要求(10.3%)」などが挙げられており、賃上げよりは構造調整に伴う雇用保障や法改正などが主な争点として急浮上していることがうかがえる。この点は賃上げ及び労働協約改定交渉で予想される主な要求案にも現れている。つまり「雇用安定(27.4%)」、「労働時間の短縮(20.4%)」、「賃上げ(17.7%)」、「労組専従者の地位保障など組織力強化のための協約締結(14.0%)、「非正規労働者の正規職への切り替え(7.0%)」などが主な要求項目として予想されているのである。

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