複数労組や労組専従者への賃金支給をめぐる労働関係法再改正の動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

労使政委員会は2月9日、常務委員会と本委員会をで開いて、「現行の労働組合及び労働関係調整法附則(第5条,6条)に定められた、複数労組禁止条項の削除と労組専従者への賃金支給の禁止に対する経過措置(5年間猶予)を改正し、その施行をさらに5年間(2006年12月31日まで)猶予するほか、1997年の労働法改正以降新設された労組の専従者への賃金支給を禁止した条項も削除することで合意した」と発表した。張委員長は「今回の労使間の労使合意は今年の労使関係の安定に大きく寄与するだろう」と評価した。

これを受けて、政府与党は議員立法で労働関係法の再改正に踏み切ることにしている。これにより、事業所レベルでの複数労組の設立はまたも5年間禁止され、1997年以降新設された労組を含めてすべての労組専従者への賃金支給は今後5年間労使間の自律的な交渉に委ねられることになった。

この二つの争点をめぐっては1997年の労働法改正の際にも今回のような妥協案が見出されていた。まず労組専従者への賃金支給禁止をめぐっては、経営側が無労働無賃金の原則に基づいて同条項の導入を強く求めたのに対して労組側は特に財政・組織基盤が脆弱な中小企業労組への深刻な影響を理由に強く反対した。

次に事業所レベルでの複数労組容認をめぐっては労組側が労働基本権保障の原則に基づいてあらゆる労組の設立容認を強く求めたのに対して、経営側は団体交渉窓口の複数化による交渉費用の増加と労使関係の不安定化などを理由に強く反対していた。

最終的に労組専従者への賃金支給は不当労働行為(第81条4)と定め、禁止するほか、事業所レベルでの複数労組、禁止条項も削減する。代わりに、5年間の猶予期間を設け、その間に既存の労働慣行の改革に備えて、労組側は自主的な財政基盤の強化などに、また経営側は団体交渉方法・手続きの整備などにそれぞれ着実に取り組むことができるよう時間的余裕を与えることで決着がついたのである。

結局、今回も労使双方は2002年1月からの同条項の施行を前に、従来の慣行通り「労組専従者への賃金支給と事業所レベルでの複数労組禁止」を互いに認め合い、またも5年間の猶予期間を設けることで合意にいたったのである。これは既存の労働慣行にメスを入れること、さらにそのための備えを、労使当事者に求めることが現実的にいかに難しいかを物語っている。

ただし、政府側にとって今回の労使合意は、労使関係の不安定要因として長年引きずっていた上記の争点をひとまず棚に上げ、構造調整や労働時間短縮など緊急課題の解決に専念することができる点で、当面労使関係の安定につながるものと受け止められているようである。

その一方、労使政委員会への参加を拒みつづけている民主労総や「非正規労働者の労働基本権保障と差別撤廃のための共同対策委員会(約20の労働・市民団体参加)」などは「事業所レベルでの複数労組禁止条項の削除をさらに5年間猶予したこと」に強く反発し、労働関係法の再改正を阻止するために対政府与党闘争を強化することにしている。特に「共同対策委員会」は「開店休業中の組合や御用組合が同一事業所内に存在しているため、新たな組合設立の機会が閉ざされてしまった労働者層や最近急増している非正規労働者の労働基本権が犠牲になる」と主張し、政府与党のみでなく、韓国労総に対しても強く抗議するなど、労労対立の様相をも見せている。

そのうえ、民主労総は「今回の労使合意のうち、複数労組禁止条項削除の猶予はILO勧告に反する」とILOに訴えるなど、政府に圧力をかける戦術をとった。これに対応するために、労使政委員会の関係者はILOに出向いて韓国の労使関係の実情を説明し、今回の労使合意についての理解を求めるなど、ILOを舞台に広報合戦が繰り広げられる一幕もあった。

ILOは3月28日、第280回執行理事会本会議を開いて、「結社の自由委員会」が提出した次のような暫定勧告案を承認した。つまりILOは「複数労組禁止条項削除の猶予は結社の自由に関する基本原則に反する」と遺憾の意を表し、「安定的な団体交渉体制の確立と事業所レベルの複数労組の合法化を促すよう」韓国政府に勧告したのである。ただし、もう一つの案件である「労組専従者への賃金支給禁止条項の削除」は2000年3月に行われた9回目の勧告には含まれていたが、今回の勧告では外された。

このような勧告内容について労使政委員会の関係者は「労使政委員会での労使合意を評価し、韓国の労使関係の特殊な事情を考慮したことの現れである」と受け止めている。

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