労働協約における労働時間の短縮

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スペインの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年4月

隣国フランスで週35時間労働が法律によって導入されてから1年が経過したが、スペインでは、ここへ来て団体交渉の場で労働時間短縮を目指す傾向があらわれている。スペインの労組は、いまだに週35時間労働の法律による導入の要求を維持しているものの、当面はこれに先立って有期雇用問題の解決、安定雇用の促進に重点を置いている。

2000年11月中旬までに結ばれた労働協約の28.9%は、年間労働時間の短縮を含むものであった。1997年に協約全体の13%が年間労働時間短縮を織り込んで以来、この傾向は増す一方で、時短をうたった協約の数はわずか4年で倍増している。これは好況を反映して使用者側が労働者の要求を受け容れる姿勢を示したためともいえるが、同時に労組が時短に対する意識を高めたことも関係している。

時短を織り込んだ協約の影響を受ける労働者数は、1997年には全体の14%であったが、現在では36%にのぼっている。特に総選挙を控えた99年は時短をめぐる議論が沸騰し、時短の恩恵を受ける労働者数が大きく伸びた。

全体的に見ると、労働協約における労働時間短縮は、部門別・地域別の労働時間の格差を縮めることにもつながっているようである。というのは、伝統的に労働時間をより短く定めている労働協約ほど、時短を実現する可能性がより高いという傾向があったからである。これに対し、2000年を通じて結ばれた協約の中で、時短を織り込んだ協約の労働時間は、時短を織り込んでいないものより平均で23時間長くなっている。

また、労働協約における時短の幅も、1997年より平均で50%増えている。1997年には時短の幅が年間で8.8時間となっていたが、2000年には13時間近くにものぼっている。時短を織り込んだ協約が増え、また、それぞれの協約での時短の幅も大きくなったことで、年間労働時間は平均で4.5時間短縮の1773時間になっている。2000年に結ばれた協約の週当たり労働時間は、法定の40時間を下回る38.3時間である。

しかし、労働協約による労働時間短縮だけでは見えてこない事実が2点ある。その一つは、スペインの労働時間が欧州平均やその他の先進諸国よりもかなり長いという点である。そして、これにも増して重要なのは、ここ数年間、実質労働時間が労働協約での取り決めをこえてかなり長くなっていることが、労働時間アンケートにより明らかとなっている点である。これは新テクノロジー部門から地下経済部門まで広く見られる現象である。

スペインにおける労働時間短縮をめぐる議論は、2000年の総選挙で保守政党が勝利をおさめたことにより、うやむやに終わってしまった。法律による時短導入に否定的な保守勢力に対し、労組の支持を得ていた左派政党は大敗を喫した。以来労組は、高い有期雇用率にあらわされる雇用の不安定、および労災という別の問題に的を絞る戦術をとるようになってきている。

2001年4月 スペインの記事一覧

関連情報