大宇自動車での整理解雇をめぐる労使紛争

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年4月

大宇自動車では会社更生法適用を前後にして、整理解雇を含む具体的な人員削減案と労組の同意書添付が労使間の最大の争点になり、最終的に整理解雇が強行されるなかで、労使紛争の激化や長期化がかなり懸念された。しかし、2月19日に政府が労働界の連帯闘争に飛び火するのを恐れたのか、警察隊を投入し、社内に立て篭もっていた組合員の解散、連行に踏み切ったことで、ようやく終結に向かったようである。

では、大宇自動車の労使は2000年11月8日に最終不渡りを出してから、今回の整理解雇強行と正面衝突にいたるまで、どのようなスタンスで交渉を重ねてきたのかみてみよう。

会社更生法適用開始決定と新たな経営再建案

まず、フォード自動車の買収計画全面撤回後、新たな経営再建の道を模索せざるを得なかった大宇自動車は10月30日に経営陣を一新し、31日には3500人の人員削減案を含む包括的な構造調整案を発表すると共に、第1次労使協議会を開催するなど、新たな船出を始めた。しかし、同構造調整案の内容が不充分であることや、それに具体的な人員削減案や労組の同意書などが欠け、その実効性が担保されないことなどを理由に、債権銀行団は新規融資を拒んだため、その1週間後、同社は第1次不渡りを出したのに続いて、11月8日には最終不渡りを出し、10日には会社更生法適用を申請するにいたったのである。

裁判所は会社更生法適用決定を前に、11月28日まで「労使が協力して経営再建に取り組む意志があることを示す」資料を提出するよう求めるなど、会社更生法適用決定の要件として労組側にも構造調整に協力する意志があることを証明するよう迫った。それに呼応するように同社の事務職職場発展委員会(事務職労働者団体、略称・事務労委)は「事務技術職全員(5700人)の辞表を提出すること」を決議するなど、同社労組に圧力をかけた。

会社更生法の適用か破産かの瀬戸際にたたされ、危機感を募らせていた同社の労使は、11月27日に開かれた第7次労使協議会でようやく次のような合意案を見出したのである。第一に、事業構造、部品、製品価格、人員などを含む全分野において包括的な構造調整が必要であるという点で共通の認識をもつ。第二に、会社の経営革新や工場の本格稼動のために労使共同の経営革新委員会を設置し、新たな経営再建案を早期に作成し、それを実行するうえで、もっとも効果的な方法を模索する。第三に、退職金および未払い賃金の清算と工場の本格稼動のために、債権銀行団の新規融資が速やかに行われるように努める。その他に、同社の労使に政府と債権銀行団が加わる4者協議機構の設置を推進することや、経営革新委員会で決定された事項は労働協約と同等の効力をもつものとみなすことなどが合意された。

これを受けて、債権銀行団は11月29日、7279億ウオンの新規融資を決め、裁判所は11月30日、会社更生法適用開始の決定を下した。その後、会社側はコンサルティング会社の協力を得て、次のような内容を盛り込んだ新たな経営再建案を確定し、12月18日に労組に通知した。

第一に、生産職5374人(臨時職を含めて、10月末現在1万4174人の37.9%)など合わせて計6846人の人員削減と4カ月分の特別給与削減(ボーナス7カ月、夏季休暇費0.5カ月、帰省旅費70万ウオンなど計8カ月分のうち)を実施する。第二に、このような人員削減により2340億ウオンを減らすほか、材料費で1583億ウオン(5%)、経常費で1804億ウオン(10%)、研究開発費で1664億ウオン(41%)、在庫削減で705億ウオンなど、合わせて9973億ウオンを節減し、2001年末には損益分岐点に達することなど。前回の経営再建案に比べて、特に人員削減規模(3500人から6846人へ)および人件費節減額(1000億ウオンから2340億ウオンへ)の増加幅が目立っており、人件費節減への依存度がかなり高くなったのが目を引く。

会社側は新たな構造調整案の一方的な通知の背景について「11月27日に見出した労使合意案に基づいて、労使共同の経営革新委員会の設置と構造調整案に対する速やかな協議を求めてきたが、労組はこれを先送りしてきた。債権銀行団の新規融資をめぐる状況などからみて、これ以上時間を延ばすのは難しいと思って、会社案を労組側に提示した。今回の案には労使間の協議を通して調整できる余地がある。」と述べた。

これに対して、労組側は「事業構造の再構築と人員削減などの構造調整案を経革新委員会で作成すると合意しておいて、一方的に会社案を通知してきただけに、決して受け入れられない」と強く反発した。労組委員長は「会社案には自主的な経営再建の見通しもなく、GMへの売却を容易に進めるために作成されたものにすぎない。これが一方的に実施される場合は,全面ストも辞さない」と反論した。その後、労組側は12月20日に独自の経営再建案を提示し、29日には第1次経営革新委員会に臨んだが、その席で会社側は生産職5494人など合わせて6884人の人員削減案を持ち出したのである。

生産職を対象にした整理解雇計画と労組の「波状スト」

12月18日からすでに希望退職者の募集を始めていた会社側は2001年1月16日、生産職を対象にその前日まで自己都合退職や早期希望退職などで辞めた2700人を除いた2794人(双竜自動車への転籍交渉中のアフターサービス要員618人含む)に対しては2月16日付けで整理解雇を実施することを明らかにし、同整理解雇計画書を労働部仁川北部労働地方事務所に提出した。

ただし、事務職の場合、会社側の構造調整案に協力的である「事務労委」が早くも次のような会社案を受け入れることで合意したことを明らかにした。つまり、人員削減対象の1390人のうち、すでに退職した851人と双竜自動車への転籍交渉中のアフターサービス要員242人を除いた300人余りを主に課長級以上を対象に希望退職や退職勧告で削減することで合意されたのである。

これを受けて、会社側は1月19日、課長級以上の全社員に個人別評価と削減対象人員の選定基準を通知し、1月末まで課長級160人と次長・部長級140人合わせて300人を目標に希望退職者を募集し、同退職者が300人に満たない場合は退職勧告を実施することにした。その一方で、事務労委が今回の退職者への慰労金集めについて賛否投票を実施したところ、4929人のうち4052人(82.2%)が参加し、2567人(63.4%)が賛成したという。慰労金は全事務職社員の未払いボーナスの50%を集め、退職者1人当たり800万ウオンを支給することにしている。

その反面、生産職社員を対象にした人員削減をめぐっては労使が真っ向から対立した。労組側は、中労委が「会社更生法適用中の企業における整理解雇問題は労使交渉の対象にならない」ことを理由に争議調停申告書をつき返したにもかかわらず、1月10日に争議行為に対する組合員投票(組合員1万1494人のうち9396人、投票率82%)を実施し、6158人の賛成で争議行為を決議し、1月17日から時限付ストに入った。1月31日には、非常闘争委員会を開いて2月1日から12日までスト権を労組委員長に委任し、2月1日から全面ストの前段階として「波状スト」に入ることを決めた。労組関係者は「波状ストは工場別、部署別に波状のように時限付ストを繰り返すことである。自動車工場の技術的特徴からその効果は全面ストに匹敵するだろう」と述べた。

そして会社側は2月2日、「1月末まで事務・生産職を対象に希望退職者を募集したところ、事務職208人、生産職168人など合わせて376人しか申し込まなかったため、労働部に提出した整理解雇計画の対象人員2794人のうち、希望退職者とアフターサービス要員618人を除いた1918人の整理解雇は避けられない」ことを明らかにした。また、会社側は2月5日、「構造調整案のひとつである在庫削減のために、ブピョング第1工場(ラノス生産)と第2工場(レガンジャ、マグナス生産)の稼動を2月中旬から約3週間中断する」と発表した。これにより、同工場の生産現場で働く生産職社員3900人は休みに入ることになった。

整理解雇の強行と警察隊の投入による労使紛争の終結

同社の労使は整理解雇をめぐる交渉の最終局面に入って、双方の立場を崩さないまま、最後の望みをかけて妥協案を模索する場面もみられた。まず会社側は2月12日に開かれた第11次経営革新委員会で「労組が整理解雇を受け入れることを前提に、整理解雇対象者1785人に対して、2月21日まで通常賃金1カ月分の支給を条件に希望退職者を募集し、最大400人まで2年間無給休職を実施し、残りの人員を整理解雇する」案を提示した。これに対して、労組側は「会社案は決して受け入れられない」とし、「全員雇用を前提にした循環休職制」を求めて、全面ストの態勢に入った。

しかし、2月15日夜になって、労組の一部から「一切の人員削減案を拒否する現執行部の方針は非現実的である」と批判し、「人員削減が避けられないなら、慰労金などの条件付の希望退職を実施するよう求めるべきである」との声が高まり、それに押された現執行部の要請に会社側が応える形で、翌日の16日午前、第12次経営革新委員会が開かれた。その席で労組側は「整理解雇を避けるために希望退職を実施し、労使折半で慰労金を支給するほか、双竜自動車への転籍対象者の雇用を保障し、残りの人員に対しては4カ月間の無給循環休職を実施する」案を提示したが、今度は整理解雇の方針を貫く会社側がこれを拒否したため、労組が最後の望みをかけていた労使交渉もあえなく決裂してしまった。

結局、会社側は2月16日、整理解雇対象者1785人に個別的に解雇通知書を発送し、整理解雇(2月19日付け)を強行した。これに対抗して、労組側は生産休止中の社内に立て篭もり、全面ストに突入した。特に、解雇通知をもらった組合員とその家族が次々と社内の闘争態勢に合流するほか、民主労総や金属産業労連などが連帯闘争を展開すると宣言したこともあって、早くも労使紛争の激化や長期化が懸念された。それを恐れたか、政府は2月19日夜、警察隊を投入し、社内に立て篭もっていた組合員とその家族を解散させ、一部を連行するなど、強攻策に出た。

これに反発して、グンサン工場支部とチャンウオン工場支部(労使紛争で生産ラインが止まったことは一度もないといわれる)は残業拒否と時限付ストに入るほか、民主労総は対政府闘争を強化すると宣言し、現代自動車労組や金属産業労連ウルサン地域本部傘下の事業所別労組などは支援活動に乗り出しており、労働界の連帯闘争に勢いがつくかどうかが注目される。

そして会社側は今回の整理解雇で構造調整は一段落し、最優先すべき「GMとの売却交渉の条件」は整ったとみており、その行方を大きく左右するだろう GMの戦略的選択にも目が離せないところである。

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