不可欠公共サービス部門におけるスト規制法の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年4月

通知義務

「不可欠サービス(注1)」部門におけるストライキ権の行使に関する2000年4月11日法律 83号(1990年6月12日法律146号の修正)は、様々な点で新たなシステムを導入してい る。

新法の1条1項(146号2条1項の修正)は、ストライキを宣言した主体(労働組合に限定されない)に対し、「集団的労務不提供に関する実施の期間および方法並びに目的を、予告期間内に書面で通知する義務」を課している。このように、本法においては、予告義務に加えて通知義務や目的明示義務が規定されており、今までにない制度が採用されているといえる。

「集団的労務不提供」(この点について、立法者は伝統的なストライキとは異なる抗議行動も規制の対象に含めようとしてきた)を実行しようとする者に対しその目的の明確化が義務づけられたことは、とくにストライキの前に一定の機関による調停が行われる場合に は極めて有用である。なぜなら、目的の明確化により、調停が容易になるためである。ストライキの期間やその実施方法の明確化も、消費者保護のために非常に重要なものである。 しかし、これらは、旧法に規定された仕組みとしてすでに存在していた。新しい仕組みといえるのは、抗議行動を行う根拠をメディアや世論に対しても明らかにしなければならない点である。したがって、今後は、過去に行われていたような根拠のない抗議行動はなくなるであろう。

本条はまた、「通知は、サービスを提供する行政機関若しくは企業または8条に定める命令を採択する権限をもつ機関(注2)の下に設立された所定の部局に対し行わねばならず、これらの機関から12条に定める保証委員会(注3)に対し直接に伝達する」ことを明文で要求している。したがって、間接的にではあるが、保証委員会はストライキの根拠について通知を受けるのであり、これが調停のための必要条件となるのである(ただし、十分条件というこ とにはならないだろう)。しかし、残念ながら、立法者が調停を促進しているからといって、保証委員会に対し実質的権限を認めたということにはならないだろう(この点については後述)。

争議回避手続

新法1条4項(法律146号の2条2項2文の修正)は、最低不可欠サービス(注4)提供に関する労使の合意の中に、「あらゆる場合について、当事者双方が、ストライキ宣言の前の紛争解決手続および調整手続を踏むべきこと」を盛り込むことを要請している。この点もまた、今までにないものである。本条では、保証委員会により適切性が確認されるための要件として、行政機関あるいは企業と労働者代表との合意の中に紛争解決手続を定めることが規定されている。したがって、紛争解決手続は、「労働協約あるいは労使協定」への 規定が義務づけられる事項ということになる。それゆえに、一般的な効力をもつ保証委員会の適切性確認を受けるためには、協議を経なければならない。

本条これを実施するための方法は、妥当なものということができよう。労使の緊張状態を緩和し、場合によっては争議を回避するための手続については、労使双方が関わるべきである。また、労使自治により具体的な解決を模索するとしたことも正当である。もちろん、労務不提供やそれによる消費者の不利益を回避するために、さらなる介入が認められるとすれば、解決困難な紛争局面においてさらに様々なことができたであろうし、おそらくそうすべきであった。また、調停者の役割を果たす専門の第三者が加われば、争議回避手続(冷却手続)の性質がいっそう明確になったかもしれない。本条では、冷却手続は厳格でなく、その実効性に欠けることになるのではないかという懸念がある。

この点においては、保証委員会の活動やその方針が重要かつ決定的になるだろう。つまり、調停ないし仲裁が単なる外見上のものにとどまらないことを判断した上で、労使間の合意の適切性確認が厳格に行われることが望まれる。

なお、次のような移行期の問題がある。すなわち、最低不可欠サービス提供に関する労使間の合意のうち新法施行前に成立したものについては、冷却手続が規定されていない(公的機関や不可欠サービス提供企業に適用される労働協約には規定されている)。したがって、少なくとも一定期間は、最低不可欠サービス提供に関する労使協定の中で交渉されたものでない場合にも、労使が冷却条項に従うことを明示していれば、保証委員会により冷却条項の適切性が確認されることになる。実際、長期間の困難な交渉過程を経て成立した合意について、争議回避に関する新条項を規定するために改めて協議を義務づけることは不当であろう。また、交渉の結果達成された均衡状態が崩れ、好ましくない結果に終ることも容易に予測しうる。

新立法において、冷却手続についての合意が不成立に終わった場合(あるいは保証委員会の適切性確認を受けられなかった場合)にどうなるかについては、旧法以上に不明確である。この点、かりにストライキがある地域に重大な影響を与えるものであれば、当該地域の県や市町村が関わってくる(新法2条2項にいう「市町村が当事者である場合を除き、市町村が権限をもつ公的サービスにおけるストライキの場合」に該当する)。単なる形式にとどまらない「調停という予防的試み」を行う機関として、県が機能するかは、実際のところ明らかではない。市町村については、社会問題一般だけでなく労働問題に精通した市町村評議会が設置されている場合がある。今後、こうした評議会は、労使間の紛争を管理するための専門的中枢組織として整備されなければならないだろう。

全国規模のストライキの場合については、調停のためだけに「労働社会保障省の所轄組織」(新法2条2項)に委ねることが定められている。しかし、こうした方法に期待することは、全く無駄である。これは、新立法の欠の1つであり、実際に改革の意思があるのか疑わしいとさえいえる。実際のところ、新法の制定は、工業部門の不可欠サービスにおける(あるいは保証委員会により特定された部門の)紛争を管理することに特化した「不可欠サービスにおける労使関係機関」を導入する絶好の機会だったのであり、こうした機関を設けるべきだったのである。もちろん、ある一定の問題については労働社会保障省にもかなりの専門性をもつ個人がいるが、新法のいうような「所轄組織」は明らかに欠けている。労働社会保障省のどの局が管轄するのかは明らかではないが、サービス経済に典型的に生じる複雑かつ困難な紛争を管理できるほどの専門性を即座に身につけるのは困難であろう。

保安委員会

新法の制定により、保証委員会には新たな権限が付与されている。ただし、これにより、不可欠サービス部門の紛争に与える影響の点で、保証委員会の権威に本質的な変化が生じたのかという疑問は残る。「消費者への通知後にストライキ宣言を自発的に撤回」した場合に、これを「不正な組合活動形態」とみなすという新たな権限が重要性に乏しいというのではない。また、公的機関や企業が、保証委員会の要請に基づき、「宣言・実施されるストライキ、宣言されたストライキの撤回、中止および延期、それぞれの目的並びに紛争発生の原因に関する情報」(新法1条6項・法律146号2条6項の修正)を消費者に対し提供しなければならないことの有用性も明らかであろう。しかし、保証委員会が実際にこうした新たな仕組みを利用しようとするかどうかは、これから見守っていくことが必要である。

この点については、新法10条1項(法律146号13条の修正)が、保証委員会に対し暫定的に最低不可欠サービスの提供について規制する権限を認める一方で、その上限を「通常提供されるサービスの50%」までと規定している。こうした上限は、「ストライキ期間中の職員については、平均して、サービスの完全な提供のために通常用いられる職員の3分の1以下でなければならない」とされていることとの関係で定められたものである(注5)

ただし、本条では、「特別な事件について、保証委員会によりこれと異なる特例規制を行った場合には、1条の定める根本的な要請を損なうことのないように、サービスの提供に必要な機能水準および安全水準を確保する必要性にとくに配慮して、当該特例規制の根拠を明らかにしなければならない」という定めも維持されている。したがって、この点では、保証委員会の指導力や提案は制限される可能性もある。国会によってこうした制限が定められているため、保証委員会の採ることのできる措置の範囲が制限されていることは明らかである。しかし、保証委員会は、その活動範囲を拡大するために、先の規定を援用することもできるだろう(また、これを適切に解釈することもできよう)。

保証委員会に認められた新たな権限のうち、その権限を強化するものかどうかという点から問題となるものは他にもあるかもしれない。最低不可欠サービスの提供に関する権限や、冷却手続および調停手続の適切性に関する審査についてはすでに述べた。 「当事者双方の要請に基づき、委員会は争議内容について仲裁裁定を行うこともできる」という規定(法律146号13条 b)の修正)も、委員会の権限に関する例として挙 げることができる。この規定により付与された権限は、かなり少なく、不十分ではあるが、仲裁による解決の可能性を若干拡大したといえる。また、同条は、労務不提供の日を延期するために決定をなすことを明文で認めている(同13条c)の修正)。さ らに、徴用(注6)手続に関する極めて重要な役割もあれば(同8条の修正)、新13条の規定するその他の権限もある。しかし、問題は、こうした権限の実効性であり、これらの権限の付与が保証委員会の性質を変化させるものかどうかということなのである。

新たな側面・従属労働者以外の主体による労務不提供

新法による修正のうち「改革」と呼ぶに相応しい極めて重要な点は、法律146号の適用対象を「独立労働者、専門職労働者または小規模事業主による集団的労務不提供のうち、1条に定める公的サービスの機能に重要な影響を与えるもの」(新法2条)にまで拡大したことである。したがって、この場合においても、保証委員会は、ストライキに関する自主規制要綱の適切性を確認し、また、場合によっては、暫定的規制の決定を行うべきことになろう。この規制の対象となるカテゴリーは、ストライキについて、立法による介入を予期していなかったといえる。実際には憲法裁判所が布石となっていたとしても、立法による介入がこのような形で行われることはないだろうというのが一般的な考え方であった。しかし、 立法による介入は、これまでにも著しい効果を及ぼしてきたのであり、また、将来的にもその影響は大きいといえる。今回の立法介入でも、専門職労働者や独立労働者に対しストライキに関する自主規制要綱を整備するよう誘導するなど、大きな影響をもたらすことになろう。

比較的考察

ストライキにとって、立法的介入は大きな障害である。したがって、法律の規制が厳格になるほど、ストライキの実行は骨折り損という印象が強くなる。このことは、不可欠サービス部門のストライキについての新立法を定めたイタリアでも、比較研究により立証されている。こうした比較研究は、今でこそ様々な議論の場において考慮されるようになってきているが、真剣に取り上げられることはほとんどない。今回も、実際には、諸外国において有効に機能している2つの仕組み、すなわち、国民投票や調停・仲裁を行う専門機 関が導入されることはなかった。

イタリアと異なり、ストライキが権利として保障されていない諸国についての検討を欠くことはできない(注7)。使用者がストライキ参加者を別の労働者(有期雇用者を含む)と代 替しうるアメリカ合衆国は別として、こうした国としてはイギリスやデンマークなどが挙げられる。デンマークにおいて労使紛争が極めて少ない理由の1つが、ストライキ参加者が職場復帰を争うことが否定されており、実際上職を喪失する可能性があるためということはあまり知られていない。

イタリアと類似のシステムをもつ国もある。たとえば、フランスでは、代表的な労働組合について、予告義務とストライキ権が「乱用でないこと」という条件を課し、不可欠サービスにおけるストライキの実施を制限している。さらに、フランスでは、少数組合の形成により不可欠サービスにおけるシステムの混乱が生じていたという経緯があり、この点でもイタリアとの共通性があるといえる。

紛争を減少させるのに有効な第1の仕組みは、国民投票である。労働組合の規約(ドイツの場合)や法律(イギリスの場合)により規定がある場合には、不可欠サービスに限らず、国民投票の有効性が実証されている。ストライキの手段に訴える意図をもつ主体にとっては、使用者側の抵抗を切り崩すのに実際上国民投票が効果的だったのである。それと同時に、国民投票を用いることにより、労働組合間競争の問題が克服され、国民はストライキ発生の原因を正確に理解し、それを共有することになる。労働組合にとって不利益はない。なぜなら、支持を得られないストライキが提案されないよう労働組合が注意してい る限りにおいて、国民投票が労働組合の不利に働いたケースはあまりないからである。

第2の仕組みは、労使紛争の調停・仲裁に関する現代的システムである。この仕組みの下では、労使自治が十分に尊重される。この仕組みについては、スペイン・ギリシャとシュヴァーベン地方(南ドイツ)とで異なる方法が採用されている。ここでは、後者について考えてみよう。後者においては、調停を行う(労使の要請に基づき信頼性のある仲裁を行うこともある)専門的交渉者(仲裁機関)に紛争を委ねてからでないと、ストライキを 行うことはできない。問題がスムーズに解決されているのは、専門機関を用いていること、この中立機関が絶対的な独立性を保ち信頼性と権威とが確保されているためである。

イタリアの新法においては、紛争予防のための論理が全く欠けており、いまだ罰則によ る規制に固執している。国民投票の放棄に関しては、古いイデオロギー的な先入観が大きく影響している。保証委員会は、先に述べたいくつかの権限をもち、単なる一組織にとど まるものではないが、やはりそれ以上のものでもないのである。諸外国に倣えというのではない。しかし、たとえ一流の大学教授といえども組合紛争の仲裁を行うべきではないのである。これは、関係者自身が関与すべき問題であり、そのために確固たる独立性と中立性を有する専門家が必要である。こうした制度を確立することによってのみ、労働紛争における仲裁という文化を労使間において発展させることができる。仲裁を行う専門家は、労使交渉を強化することによって、紛争が自然に解決することを目指すのである。

まとめ

本稿では、紙面上の制約のため、新立法における罰則に関する改正についてはあえて取り上げなかった。これらの点は、一般的措置についての評価という点からは、本質的なものとはいえないためである。新法は、旧法の修正という方法を用いており、改革か現状維持かといった二者択一には拘泥していない。つまり、すでに指摘した改正点のうちのいくつかは、全く新しいものといえる。しかし同時に、独立労働者や自由業労働者への適用拡張という点を除けば、法律146号の枠組み自体は、依然として維持されている。以上のことについてはほとんど異論がない。そして、新法が実際に予定された効果を発揮するかどうかに一抹の不安を残しているのも、新法の以上のような性格によるものである。

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