労使関係委員会、臨時労働者に関する重大な決定を下す

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年4月

2000年12月29日に、連邦労使関係委員会(AIRC)は、ある事案において臨時労働者の地位や労働条件に関わる決定を下した。この決定は、オーストラリア国内での臨時労働者の増加傾向に大きな影響を与える可能性があることから、非常に重要で、歴史的な決定と見られている。

背景

臨時労働者は全労働力人口のおよそ26.5%(約200万人)を占めるに至っており、この 数値は OECD加盟諸国の中でも2番目に高いものとなっている。臨時労働者は、伝統的な労使関係システムの解体とともに増加し続け、過去10年間に創出された新規雇用のうち60%が臨時雇用であった。そのうち約3分の2は女性が従事している。自らすすんでパートタイム雇用や臨時雇用を選択する者も存在する一方で、大半の者が不本意ながら臨時雇用に従事しているというのもまた否定できない事実である。

というのは、臨時労働者は常用労働者に比べ労働条件面で多くの不利益を受けているためである。たとえば、臨時労働者には疾病休暇や育児休業、老齢退職年金等は適用されず、また、訓練や昇進の機会も十分に与えられず、雇用の保障もない場合が多い。特に、移民労働者は、常用雇用につくまで家族をオーストラリアに呼び寄せることができないため、大きな影響を受けることになる。

さらに、AIRC や今回の事件を提起した労働組合が指摘しているように、臨時労働者の多くが実は「常用化」しているという事実がある。つまり、臨時労働者という身分でありながら、実は1人の使用者の下で長期にわたり継続的に働いている者が多いのである。使用者にとっては、常用労働者との労働条件格差やレイオフが比較的容易であること、業務の繁閑にあわせた調整がしやすいこと等が臨時労働者を利用する理由となっている。

労使関係委員会の決定とその影響

今回の事件は、オーストラリア製造業労働者組合(AMWU)により提起されたもので、金属産業や製造業で働く臨時労働者に大きな影響を与える可能性がある。

事件の概要と決定の詳細は省略するが、AIRCの決定について特に3つに絞って取り上げ る。まず第1に、臨時労働者の雇用最低時間が4時間とされた。つまり、臨時労働者を働かせる場合、当該労働に要する時間が2時間以下であっても、使用者は4時間分の賃金を支払わねばならないことになる。

第2に、労働者は臨時労働者であろうとも6カ月間継続して標準労働時間を働いた場合、 常用雇用の地位が付与される(労働条件も常用労働者と同様となる)。

第3に、臨時労働者の場合、労働条件面の不利益を補うために1時間当たりの賃金率が高く設定されているが、その率を現行の20%から25%に引き上げる。労組の説明では、これにより1週間当たり30豪ドル(1ドル=61.3円)の賃上げとなるという。

この事件の審理の際に、労組は同産業内で臨時労働者の「常用化」が広く行われていることを示す証拠を提出した。AIRC 自身は「重大」な決定を下すことにあまり乗り気でないようであったが、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)はこの決定を歓迎している。これに対し、使用者団体の反応は様々であった。オーストラリア産業団体(AIG)は同決定を受け入れる姿勢を示したが、オーストラリア商業産業連盟(ACCI)は同決定が労働コストを引き上げかねず、効率性に反すると主張している。さらに、ニュー・サウス・ウェールズ州使用者連盟は、今回の決定が臨時労働者に不利益に働きうると主張している。つまり、使用者は、臨時労働者の雇用期間が6カ月に達する前に臨時労働者を解雇することになるというのである。これにより、さらに、臨時労働者化が促進される可能性もある。

AIRC は、今回の決定が当事者以外に自動的に波及することはないとしているが、将来的には他の産業にも広まると予想されている。

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