労働安全衛生の現状と課題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年3月

政府、青年同盟などの社会政治組織、そして特にベトナム労働総同盟(VGCL)は、労働安全衛生(OSH)を重要視している。政府は、労使双方にOSHに関する指針を示したり、生産設備使用に関する基準に基づく検査、OSH履行状況に関する監察などを行っている。中でも、労働安全は、年次社会経済計画の一部として国家予算が費やされている。1999年以来、全国でOSH週間が実施され、組織支部、労働者、使用者といったすべてのレベルで、OSHに関する意識を高めるように努めている。労働災害が多発している部門では、OSHについての情報提供をより頻繁に行っている。さらに国際的な協力を受け、監察など様々な点で、OSHを効果的なものに改めることができた。

労働法典の95条から108条は、OSHに関する履行義務を定めている。これらの条文で、労使が果たすべき義務、労働時間に関する規定、労働災害被害者に対する補償などを定めている。さらに、労働法典の他の箇所に、女性労働者、若年労働者、身体障害者などの特定の労働者に適用される労働条件や治療に関する規定がある。政府は、労働法のOSHに関する規定が実質的効果をあげるように、補助的な規定や指針を作っている。しかし、労働環境の改善は現実にはほとんど見られず、労働災害が多発している。中でも致死労働災害のような重度の災害が増加傾向を示していることが懸念される。 建設業は、平均で各年の致死労働災害の16%から17%程度を占めている。

建設業は多くの労働力人口を吸収しているが、大部分の労働者が未熟練であるため事故に遭いやすい。調査結果によると、建設業労働者の43%が厳しい天候や危険な環境の中で働いている。

工業部門は、運送業と建設業に次いで、労働災害発生が3番目に多い部門である。工業部門の中での内訳を見ると、鉱物の採堀や爆発物質を扱う部門が、全国致死災害の10%から15%を占めている。また、発電・配電などの電力を扱う部門が致死災害の17%を占め、厳しい労働安

全基準がある機械、設備、物質を扱う部門が同6%を占める。特に石炭採堀業で1996年以来、113人が亡くなった。その主要な理由は、爆発物の扱いに関する規制を守っていなかったこと、換気が不十分でメタン爆発が起きたことである。

表1 致死労働災害件数

致死労働災害件数 死亡者数
1992 207 219
1993 203 234
1994 199 215
1995 237 272
1996 250 286
1997 346 428
1998 312 362
1999 335 399
2,089 2,415

出所:労働安全衛生調査(2000年第3号)

労働災害が頻発した地域は、ホーチミン、クワンニン、ハノイ、タイグエン、ドンナイ、ハイフォンなどである。労働災害に至った主要理由としては、使用者と労働者が国家規制や安全基準に違反したことが60%、労働条件や労働環境が労働衛生規制に違反していたことが16%、そして残りは主として、安全保護装置のない機械や設備の使用、労使が法律通りのOSH訓練を受けていなかったこと、老朽化した設備の使用などによる。

国有企業

国有企業の多くは、市場競争の中で生産設備を改善し、労働環境向上のための何らかの措置をとってきた。その結果、国有企業は概してOSHに成果を上げている。いくつかの国有企業を対象に行った調査によれば、95%がOSHを専門に担当する部署を置いており、97%が各労働者が就労中に使用する安全防護器具を与えられている。しかし、OSH対策を適切に実施していない国有企業があり、危険な労働環境で多くの労働者が働いている部門に多くの課題が残されている。

外国投資企業

高度で現代的な技術を用い、操業当初より生産設備の安全性が確認されていることから、大規模外国投資企業における労働条件は良好である。安全防護器具が整っているため、労働災害の危険性が低く抑えられている。しかし、主に大都市工業地域で操業する124の工場を調査対象にした、労働安全科学技術研究所が行った調査結果(1997年から98年)によると、屋内の空気が高熱である職場が78%、埃が多い所が28%(特に機械、化学、繊維、建設資材生産工場)、騒音公害が18%、危険なレベルではないにしてもイオン放射などの健康に有害な物質にさらされている職場が14%あった。新技術の工場では概して労働条件がよいが、労働強度が高いために筋肉疲労、眼精疲労、腰痛などの症状に悩む労働者がいる。

全般的に、外国投資企業は新技術を用いているため、労働安全衛生設備も整っている。しかし、生産設備と環境改善設備を一括購入していない場合があり、労働者の健康を害する結果になっている。

民間企業(ベトナム資本)

全国の67.5%の工業労働者は、民間企業で働いている。しかし、ここでの労働環境の汚染は深刻で、労働災害や職業病が発生している。労働安全科学技術研究所が行った調査結果によれば、回答した労働者の40%が何らかの労働災害を経験しており、54%が慢性病を患ったことがあり、75%が仕事の後で疲労感を持っている。その主要な理由は次の通りである。

  • 生産技術の立ち後れが、特に鉱物採堀、船の修理で目立つ。7割から8割の労働者が、手を使って作業している。
  • 70%の生産現場が安全基準を満たしていない。崩壊する恐れがある老朽化した建物が65%に上り、大部分の生産現場が生産技術に適合していない。
  • 大部分の設備や機械は、老朽化したものである。民間企業で使われている機械の50%は国有企業では使われることのないもので、使用年数が平均10年から20年である。大部分の機械は修理を重ねたものであり、電動のこぎりについては100%が安全のための部品をつけていない。

生産技術以外の理由としては、監察が稀にしか行われていないため、OSH関連の規制が厳格に施行されていない。また、使用者が利益を重視し、OSH規制について知識が不足しており、その遵守に関心がないという場合もある。

労働組合の役割

労働組合は、従業員を代表する役割とともに、OSHに関する情報提供と労働者に対するOSH訓練を行っている。OSH関連政策を作成するために各国家機関と協力している。労組は、OSHについて一連の調査を行い、労働環境改善のための提言を行っている。さらに、ベトナム労働総同盟(VGCL)幹部は、労働安全への取り組みを改善するために決議TLD1号を採択した。その主要内容は次のようになっている。

  • 労働組合は、労働者を代表して労働条件と労働安全衛生の改善を内容に含む労働協約を締結する。
  • 労働災害にあう危険がある時に、労働者に仕事を一時中止する権利を与えた場合、使用者にどのような経済的得失があるか分析する。
  • 労働組合の代表が、労働災害の監察を行う。
  • 地方当局と協力して、労働安全規定違反をなくすよう尽力する。
  • 全国規模の労働安全プログラムを立ち上げ、調査や、労働安全のための科学技術導入を促進する。
  • 労働者を対象とした、労働安全に関する教育、情報提供活動をより活発に行う。

法的側面から

OSHの法や規制の中には、時代遅れで修正が必要なものがいくつかある。政府は、危険な職業のリストを発表したが、これらの職業についての規制を遵守するには、ベトナム民間企業の技術水準は低すぎ、規制が効果をあげていない。

労働災害被災者や職業病を持つ労働者に対する補償が低水準であるにもかかわらず、その水準の支払いさえ行われていない。その結果、労働者が犠牲となっており、失業するよりは、危険な状況の中で働くことを余儀なくされている。 現行法では、少人数の労働監察官のみが監察を行うことができ、監察が手薄になっている。特に、OSHに関し最も問題の多いベトナム民間企業の監察を強化する必要がある。また、労働組合による地域レベルでの監察を促進する必要がある。

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