総選挙、タクシン氏率いる愛国党圧勝、労働政策はどう変わるか

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年3月

2001年の幕開けとともに行われた1月6日のタイの総選挙は、通信事業を手がけるチナワット・グループのオーナー、タクシン氏率いる愛国党(タイ・ラック・タイ)が議席の約半数を獲得し、圧勝した。

今回の総選挙は、1997年の人民憲法制定後初めてのもので、同年の経済危機以降、一向に回復しない景気に対する不満が、現職のチュアン首相率いる民主党の議席数獲得を阻んだと見られている。

愛国党が公約した労働関係のトピックは、(1)失業者のための社会保障制度導入、(2)労働者のための健康・安全施設の設立、(3)労働関係法の改定、の3つである。

  1. は、経済危機以降の失業率の増加に伴って、労働団体からの切実な要請が繰り返しされている事項である。しかし、失業保険の導入は、景気の回復状況から、暫くの間見送られることが決定している(本誌2001年2月号)。厳しい財政状況の中で、社会保障部門を拡大できるかどうか、見通しは明るいとは言えないであろう。
  2. に関しては、近年の工場廃水の汚染や化学物質の被害がILOやNGOなどから指摘されており(本誌1999年10月号参照)、2月に入ってから、この公約を守るべく、労働安全衛生に関する法案が国会で承認された。労働者側は作業中の安全器具の装着が、使用者側は安全器具、安全指導、訓練の提供が義務づけられた。違反者には、労使ともに罰則が与えられることになった。
  3. に関しては、現在の労働関係法が、雇用関係の仲裁過程において、労働者よりも使用者に優先権を与えていることや、海外投資家の利益が反映されるような内容になっていることが、以前から指摘されている(本誌1999年12月号参照)。これらの点を改定することが、新しい政府に求められている。

また、タイの労働力人口はいまだ半数近くが農業に従事しているため、総選挙での勝利のためには農民票の獲得は必須条件だったといえよう。愛国党は、タクシン氏の地元北部および東北部で多くの農民票を獲得したと見られている。そして選挙公約で、農家の債務返済に3年間の猶予を給え、全国7万の村に100万バーツ(1バーツ=2.74円)の基金を設立すると約束している。しかし、タイの逼迫した財政状況を考慮に入れると、実現はほぼ不可能との批判も上がっている。

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