地方公共団体の事業の民営化と労働関係

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

イタリアの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年3月

イタリアにおける公的活動の委譲(いわゆる外部委託)に関する法的枠組はかなり不統一であり、また、過剰に規制されている。この公的活動の委譲は、民営化のもつ矛盾を顕著に示すものであるといわねばならない。イタリアにおける現実の民営化は、行政活動の実効的な簡素化および合理化に資するというよりも、今のところ、経済における国の役割を、所有者から規制者へと変容させたにすぎないのである。

「大きな市場、小さな国家」という定式に着目した場合、公的活動の委譲に関するイタリアの動向は、目的の設定自体が誤っていたとはいえないとしても、戦略的には不成功に終わったと考えることができる。実際、国の存在感は、いっそう強まってきているのである。なぜなら、一方では、事業の事実上の運営者として公的主体が再評価され、他方では、明晰性および統一性に著しく欠ける公的活動の委譲に関する法的枠組において、細部にわたり複雑かつ偏重な規制を置くことにより、公的主体の規制権限が著しく強化されているためである。

公的活動の委譲に関する公的規制が、この10年間なんら調整されることなく広範に拡大したのに対し、公的活動の委譲による市場への解放は全く不十分なものである。それだけではない。この間の経験から明らかなように、伝統的には私法上の活動主体に適用されてきた運営規則や運営条項を広大な公的行政領域へ導入することにより、手続が極めて複雑になっているのである。

こうした公的サービスの委譲に関する断片的な法的枠組を一元的に提示することが、本稿の目的である。

地方公共団体と公的活動の委譲―その法的枠組

地方の公的サービスの運営に関して私法上の形式を利用することは、今日においてようやく一般的になったといえる。一方、行政による市場構造の漸進的な浸食は、今に始まったことではない。そして何よりも、最近議会において議論されているいくつかの改革案が示しているように、こうした行政の浸食は今なお続いているのである。

いまだ進展途上にあるこのような状況の重要な一段階として、公的サービスの運営方式に関する類型を根本的に改めた1990年6月8日法律142号がある。この法律142号は、公的機関による公的サービスの直接運営や第三者への事業委託に加え、全く新しい枠組を採用した。中でも着目されるのは、他の主体(官民を問わない)の技術的経済的援助を受けながら、私法上の会社形式(とくに株式会社や有限責任会社)で事業を運営する権能を、地方公共団体に対し認めたことである。

本法により公的サービスを行う資格を認められたこのような新たに主体については、理論上重要ないくつかの問題が当初から指摘されていたが、その多くは商法上の学説および判例により解決されている。

たとえば、学説は、公的活動の委譲に関する一連の経緯や、その結果として事業運営を引き受けた民間主体に地方公共団体が出資することを、いわゆる「地方公共団体の私法上の能力」に直接関わるものとして再構成した。これに対し判例は、民法典2458条以下(「国または公的機関の出資する社団」に関する規定)に、地方公共団体が会社に出資することを一般に認める規定があることからしても、地方公共団体が株式会社に出資することは全く問題ないと結論づけている。

また、立法者は、1990年以降、多種多様な目的のために、地方公共団体が私法上の会社に出資することを認めてきた。

つまり、法律により規定された市町村営の制度(水道、ごみ収集、交通機関など)に代わる公的サービスの運営形式としてだけでなく、経済発展促進活動のため(地域協定実施のための会社と考えられる)、雇用目的のため(この典型例たる1997年委任立法12月1日468号(注1)において、事業の外部委託は、社会的に有用な労働に従事する者の「定着化」の機能を果たしている)、その他の事業(たとえば、空港や道路関連の事業)の実現や運営について直接指揮を執るため、あるいは、単なる投資目的のために、地方公共団体による出資が認められているのである。

 

とくに非不可欠な公的活動に関していえば、現在のところ、次の会社形式をとる主体に対し、事業の委譲を行うことができる。すなわち、100%民間出資の形式、100%公的主体による出資の形式、民間による出資率が50%未満で、事業を委託する地方公共団体による持株率が50%以上である形式、そして、民間による出資率が50%以上で地方公共団体の持株率が50%未満である形式である。

これらの選択肢は、その後の様々な立法措置を通じて形成された法制度の中で認められているものである。こうした立法措置の中でも、とくに、先に述べた1990年法律142号22条は、公的主体による出資率が高い社団に対し、公的機関が一定の事業運営を外部委託することを初めて認めたものである。こうした当初の規定は、その後、1993年財政法(1992年12月23日法律498号23条)により変更され、「公的主体による持株率が50%以上であること」という要件が廃止された。

1997年12月27日法律449号44条もまた、以上のような規定との関係で捉えられる。この規定は、「公的活動の委譲」に関するものであり、その1項は、非不可欠な活動の委譲について、すべての行政に対し、1993年2月3日委任立法29号62条(「行政機関から民間企業または民間社団への労働者の移転」に関する規定)および1990年12月29日法律428号47条(「企業移転」に関する規定)を拡大することを定めている。一方2項は、地方公共団体に対し、公開の審査手続により選ばれた主体との利益配分制により、混合形態で社団を設立することを認めている。ただし、当該活動を委譲された社団に公的主体が参加する場合、その期間が5年以下であること、最終的に当該社団が完全に民営化されることが要件となる。

また、1993年委任立法29号34条(「事務所の移動および待機に関する規定」)は、公法上の規定に基礎を置くものであったが、1998年3月31日委任立法80号はこれを改正し、次のように規定している。すなわち、「特殊な規定を除き、行政、公的機関あるいはその事業所により遂行される活動が、官民のいかんを問わず、他の主体に対し移転または付与された場合には、こうした主体に従属する者に対し民法典2112条(注2)を適用し、また、1990年12月29日法律428号47条1項ないし4項に定める情報提供および協議に関する手続を遵守するものとする」。この規定は、民間の主体や他の公的主体に対し公的活動の移転が生じうるすべての場合について、1997年法律449号44条の内容を一般化したものである(一方、1997年法は、公的主体から民間への「委譲」に限定していた)。

運営主体における労働関係および運営主体の法的性質に関する規定―その含意

事業を引き受け、公的主体が全面的あるいは部分的に社員となる団体の法的性質に関して、以上に述べた非不可欠な活動の委譲に関する法的制度は全く規定を定めていない。とくに、公益事業を委譲された私法上の会社を、国の行政機関および通常国が関与するその他の機関に固有の会計検査制度や報酬制度の適用を受ける「公的機関」として位置づけうるかについては、法律上の言及がない。こうした極めて重要な問題は、判例上の確固たる基準に基づき解決されている。学説の多数派や主たる判例の指針によれば、ある生産機構あるいは運営機構が「公的機関」としての性質を有するか否かを判断するのに決定的な基準には、次のようなものがあるとされている。すなわち、a)法律あるいは行政命令を通じて、国により設立されたこと、b)当該機関の運営に対して、ある程度強制的な政府の監督および介入に関する公的制度が存在すること、c)当該機関に対し、公法上の特別な権限あるいは特権が付与されていること、d)営利目的がないことである。

これらの要素を総合的に評価して公法上の性質を強く有するということになれば、当該団体は公的機関と判断され、公法上のあらゆる規制を受けることになる。一方、公的機関として評価されない場合、この事業の運営者は、地方公共団体が関わる事業の外部委託および民営化の手続を規制するいくつかの特別な規定を除いて、事業主としての私法上の効果がすべて考慮されることになる。

まず、前述した1997年法律449号44条が、事業を委譲された民間企業に対し、「労働関係の維持」に関する義務を定めている。また、同じく前述の1998年委任立法80号により改正された1993年委任立法29号34条も、労働関係の維持に関する規定である。当然のことながら、民法典2112号が適用されるのは、当該労働関係の条件の方が不利な場合のみである。実際、この規定は、「雇用関係の譲渡」の側面に限り適用される。すなわち、「契約上の」義務、とくに、法律上直接の規定がなく個別契約や労働協約により生じる義務(諸手当、生産奨励金、報酬の支給など)を、企業を所有する使用者に対し移転する側面である。

さらに、1997年法律449号44条2項は、事業を運営する民間の会社について、一定の事業保有形態を奨励している。つまり、立法者は、こうした会社に対し、「委譲された権限を担う者および公開の審査手続に従い選出された者との利益配分制により、混合形態で社団を設立する」権限を付与した上でこれを奨励し、「これらの社団に対する公的主体の参加の期間は、5年を超えることはできず、当該社団は最終的に民営化されねばならない」としている。もちろん、本法は、事業の保有形態を示しているだけで、労働者の参加に関する制限およびその方法を具体的に定めていない。また、保有形態が提示されているといっても、この形態が強制されるわけではない。本法はむしろ、純粋に原則の提示、すなわち、当該社会的主体による事業再編の具体化のための提案としての意義をもつのである。

権限の移動、従業員の移転および労働協約の役割

公的事業の「外部委託」の場合には、公的部門から私的部門への従業員の移転が起こる。これは、民間部門の「営業譲渡」に関する法規や学説・判例の「適用」をめぐる多くの問題を引き起こす。

当然、労働組合の役割は変化しない。むしろ、このような場合には、労働者に対する法的・経済的待遇を維持し、移転を管理するという組合の伝統的な役割が、いっそう重要になってくる。他方、すでに述べたように、立法者も、あらゆる場合について委譲の時点における就業水準を維持するために、こうした再編に巻き込まれた従業員の労働関係を安定化するための法的条項を規定する方向にある。

本稿で取り上げた委譲および「外部委託」に関して最も難しいのは、移転の対象となった者にはどの労働協約が適用されるかという問題である。最近行われた外部委託をみても、こうした問題の解決が容易ではないことが明らかである。

この問題については、判例により2つの異なる解決策が提示されている。第1は、「参入」契約あるいは「調整」契約がある場合にのみ、移転の対象となった労働者の労働条件を修正することができるというものである。こうした契約がない場合には、移転前に適用されていた労働協約がその失効まで効力を有することになる。

一方、第2の解決策は、移転前に適用されていた労働協約が移転の対象となった労働者に適用されるのは、移転先の企業について適用される集団的な規定がない場合に限られるというものである。こうした集団的な規定とは、「参入」契約上の規定や、移転先の企業により適用されるすべての集団的規定である(当然ながら、こうした規定は従前の協約に定められた条件を下回ることもありうる)。

このように異なる解決方法を採ってはいるものの、判例は、いずれの指針においても、公共の利益を追求するためであれば、組合の同意が得られない場合にも公的サービスの委譲が生じうることを明言している(ただし、情報提供義務や、必要な場合には共同検討義務が履行されなければならない)。

しかし、組合の同意があれば、労働条件の調整という微妙な問題の解決が可能になるということは明らかである。

とくに、調整契約が締結されれば、移転前と移動後との労働条件の格差(とくに、賃金の格差)を緩和させ、事業運営者の下において権利の維持形態を定めるという重要な役割を果たすであろう。

関連情報