職場関係省長官、労使関係制度の一元化を提案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

リース雇用職場関係小規模事業省長官は、オーストラリアの労使関係システムを根本から変革し、個別的な契約を強調する制度の導入を押し進めてきたことで知られている。彼の改革の努力はしばしば頓挫してきたが、それにもかかわらず改革案が継続的に示されてきた。

また、彼は自由党の大物政治家であり、将来は首相になる可能性もあった。ところが最近になって、長官をめぐるスキャンダルが発覚し、労使関係改革の指導者としての資質に水を差しかねない状況になってきた。

長官をめぐるスキャンダルは、2000年10月に、ある新聞が長官の「テレカード」誤用を伝えたことで発覚した。テレカードは各長官に発行され、電話による通話に利用される。その支払いは、財務省が行う。個人識別番号等を示すことで利用が可能となるが、リース長官がこの識別番号を息子に漏らしたとの報道がなされた。さらに、その息子がある女性にそれを伝えた結果、何らかの形で大勢の人物に利用されることになり、その利用料は5万豪ドルを超えてしまった。長官の行為は、明らかにカード利用に関する指針に反し、彼は息子の利用分約950豪ドル(1豪ドル=64.7円)を支払った。彼が残りの料金については自分の責任を否定したことから、怒ったジャーナリスト等は、長官がなぜ辞任しないのか、あるいは首相がなぜ彼を辞めさせないのかと非難した。後に、長官は残りの料金の支払いに合意し、公訴局長官も、リース長官や息子の犯罪行為を示す証拠がないと報告したが、世論の怒りは和らぐことがなかった。長官は、その倫理観の欠如や偽善性により、総選挙において労働党や労組の格好の標的にされると考えられている。

労使関係改革案

スキャンダル報道のただ中にあっても、リース長官は、労使関係改革案の公表を中断することはなかった。2000年10月23日に職場関係省は、労使関係制度の一元化を内容とする改革案を公表した。改革案の骨子は、連邦憲法の「法人権限(Corporations' Power)」に基づき単一の労使関係制度を構築するというものである。現在のオーストラリアの労使関係制度は、連邦と州の権限に関する連邦憲法上の配分を反映し、各々の州が独自の労使関係制度をもち、それが連邦の制度と重複している状況にある。連邦憲法は、州際労使紛争の予防と解決のための調停・仲裁について、連邦政府に立法権限を認めており、これを根拠に、現在の連邦労使関係制度が構築されている。このように、連邦政府の立法権限は、連邦憲法の大きな制約を受けているのである。

改革案によると、現時点では連邦労使関係制度は、労働者の約半数にしか適用されておらず、残りは、州の制度の適用を受けているか、まったく何も適用されていないという。そのため、改革案は、連邦法の適用を受ける労働者がおよそ85%となるような準一元的制度の構築を提案している。憲法に定められた「法人権限」を利用することで、連邦政府は、労使関係分野で多くの法律を制定することが可能となると考えられている(たとえば、賃金や労働条件など)。

しかし、改革案には大きな問題がある。つまり、そもそも「法人権限」の法人とは何か、ということが明確でないのである。対象となる法人の範囲いかんによっては、改革案のいうような85%という数値が達成できない可能性もある。また、労働党政権であるいくつかの州の支持を得ることは困難と思われる。というのも、労働党支持者の間では、連邦制度への移行で労働条件が低下することに懸念が示されているためである。

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