MTUC、未決争議の急増にピケで抗議

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

マレーシア労働組合会議(MTUC)は2000年10月11日、労働争議の未決ケースの急増など労働問題への政府の対応に抗議して、当初の予定どおり、人的資源省ビル前でピケを決行した。MTUCがピケを実施するのは13年ぶり。MTUCは8月にもピケを計画していたが、人的資源省が迅速な対応を約束したため中止した経緯がある。

今回の「ランチ・アワー」ピケには、800人以上が参加。「我々は正義を求めている」「労働法を執行せよ」などと書かれた横断幕を掲げ、「なぜ労働者の権利を否定するのか」と連呼した。人的資源省はピケが予告されて以来、中止するよう再三にわたって呼びかけてきたが、結局阻止できなかった。

今回のピケの目的は、労働問題への政府の取り組みに抗議することであるが、具体的には、(1)労使関係局などで解決されていない訴訟件数の増大、(2)労働協約をめぐる争議の解決の遅延、(3)使用者による組合承認の遅延――などが指摘されている。

MTUCが特に問題視しているのは、労使関係局および労使裁判所で未決となっている労使紛争が増大していることで、現在その件数は5000を超えている。係争中に当該企業が社名を変更したり操業を中止すれば、労使裁判所は裁定を下すことさえできないので、労働側にとって係争期間の長期化は泣き寝入りの危険を伴う(解説参照)。

MTUCのランパック委員長は、問題解決へ向けて進展が見られない場合、さらなる行動をおこすことになると警告するとともに、問題解決の一案として、労使関係局職員の増員を提案している。

一方、人的資源省は、MTUCがピケを予告して以来、組合員に参加しないよう呼びかけてきた。フォン人的資源大臣は10月4日、予定されているピケが次の点で違法となることを指摘して、中止を求めた。(1)「労使関係法」がピケの実施を認めているのは、「労働組合法」に登録している労働者および労働組合だけであるから、「結社法」の登録団体である MTUCがピケを実施するのは違法である、(2)同じく「労使関係法」第40条は、ピケの実施場所を当事者の会社敷地内と定めているから、人的資源省ビル周辺での実施は違法である。

こうした観点からフォン大臣は、MTUCが実施しようとしているのは、ピケではなくデモであるとの解釈を示したが、結局阻止するには至らなかった。

解説 ―現行の労使紛争処理システム

労使紛争は、まず、労使の自主的な話し合いや労働協約の手続きにしたがって解決が図られる。これで解決されない場合、労使いずれかが労使関係局長に調整を申し出、局長が調停に必要な措置をとる(申し出がない場合でも労使関係局長は公共の利益を考慮して調停に乗り出すことができる)。それでも解決しない場合、局長は人的資源大臣に調整を申し出、大臣が調停に必要な措置をとる(局長の調停を経なくても大臣は調停に乗り出すことができる)。

以上の調整手続きによっても解決できない場合、人的資源大臣は労使裁判所に争議を付託することができる。大臣は、紛争当事者の付託申請を受けて、あるいはその権限に基づいて、労使裁判所に付託する。

労使裁判所への付託は、人的資源大臣だけができる(ただし、裁定や認証された労働協約の解釈をめぐる争いについては、その当事者自身も労使裁判所に付託することができる)。

労使裁判所は、法律の専門家である長官と、労使の代表それぞれ1名、合計3名で構成される。付託があってから30日以内に、労使裁判所は公益・国の経済・関連産業への影響を考慮したうえで、裁定を下さなければならない。

労使裁判所から出された裁定や命令は最終的であるから、それをさらに争うことはできない。しかし、労使裁判所は法律裁判所ではないため、労使裁判所の手続きにおいて生じた法律問題についてだけは、司法制度上の高等法院に付託することができる。その場合、当事者は裁定が出てから30日以内に、高等法院への付託申請を労使裁判所に提出しなければならない。高等法院の決定は最終的であり、それを争うことはできない。しかし、法律問題に関してはやはり、高等法院に対する上訴を控訴院へ、最終的には連邦裁判所へ行うことができる。

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