パートタイム労働の推進のための経済的インセンティブ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

2000年2月25日委任立法61号(以下、2000年法)は、企業によるパートタイム労働の利用の促進を目的として制定された。イタリアでは、パートタイム労働はまだ広く利用されるに至っていないが、パートタイム労働が雇用創出のための有効な手段となりうることは、広く確信されている。すなわち、パートタイム労働は、失業の危険に強くさらされているグループ(若年者、子供のいる女性、高齢者、障害者等)に対して、現存する労働機会の配分を可能にする手段となるだけでなく、市場メカニズムに基づき生じてくる雇用機会に加えた新たな雇用機会を生み出す手段ともなりうるのである。

それだけでなく、「ニュー・エコノミー」、「情報・知識社会」、「新たな労働」をめぐる議論においても、パートタイム労働は、弾力的な契約の典型例として注目されている。というのは、パートタイム労働契約は、現代的な作業組織の追求という緊急の課題に関して、企業のフレキシビリティや効率性の向上という要請と労働者の保護という目的とを連結させることを可能とするからである。さらに、若年者や女性の就業率が極端に低く、失業率が高いという特徴をもつイタリアの労働市場の状況に鑑み、パートタイム労働は、雇用の基盤を拡張し、ヤミ労働や不安定労働に向かわざるをえないような人々に雇用を提供するための有効な手段となることも期待されている。

このような中、2000年法は、パートタイム労働の利用の促進という方向で、規範的な面でのインセンティブを付与しようとしたものである。すなわち、2000年法は、少なくとも立法者の意図によれば、企業にとっての行政手続上の負担を軽減し、関連法規を単純化し、パートタイム労働の利用における硬直性(特に超過労働や弾力化条項に関して)を減少させることを目的としている。

1984年12月19日法律863号の第5条は、当時の立法者の意図によると、労働力の利用における弾力性、とりわけ労働時間の長さの面で一定の弾力性を導入することにより、イタリアの労働市場を近代化しようとしたものであった。パートタイム労働契約は、それまでは、その社会的・経済的重要性の増大に対応できるだけの立法による規整枠組みを欠いていたので、これを法的に公認することは、それ自体、雇用助成のための重要なインセンティブとなるし、これにより、パートタイム労働が、従属労働を利用する際のフルタイムの安定的労働という近代的スタンダードに代替しうる数少ない法的制度の1つとなることも期待されたのである。1984年法の名称が、「雇用水準の維持および向上のための緊急措置」であったのも偶然ではなかったのである。

しかし、規範的レベルのインセンティブは、これまでは、イタリアにおけるパートタイム労働の普及を促進する効果はもたなかった。パートタイム労働の普及は、イタリアの経済界や労働界における文化的・社会的要因に基づく壁に阻まれたのである。

このため立法者は、最近では、規範的インセンティブと並んで、経営者や労働者の具体的な選択に実際に影響を及ぼすことを期待して、「経済的な」タイプのインセンティブを増加させてきた。2000年法の第5条4項も、パートタイム契約の締結に関する経済的インセンティブを定めている。この規定は、最近の雇用促進措置における規範的インセンティブ、経済的インセンティブ、さらに社会保険面でのインセンティブをミックスさせる政策の到達点なのである。

しかし、このような政策についても、パートタイム労働の促進措置としての実効性やその措置の具体的なインパクトを現時点で評価することは容易ではない。パートタイム労働に対する経済的インセンティブは、企業への国家の助成に関する EUレベルの規制に違反するのではないかという問題を抱えているからである。いずれにせよ、一般的に言って、労働時間短縮の促進が、イタリアにおいて雇用面での効果をもったことはこれまでなかった。そのため、パートタイム労働の普及による雇用促進の実効性について、重大な疑問を提起している者がいることも事実である。さらに、労働時間の大幅な短縮により、ヤミ労働を公的に助成することになるのではないかという懸念も一部の者により表明されている。

従来の規定

新しく制定された2000年法の規定内容を検討する前に、最近導入されてきていたパートタイム労働の普及のための経済的なインセンティブの主要なものを概観しておくこととする。

(1)社会保険料の減少

1994年7月19日法律451号7条は、使用者に対して、「現存の従業員数を増加させるために締結された」パートタイム労働契約や「フルタイム労働契約からパートタイム労働契約への転換を定める、余剰人員の調整を目的とする集団協定に基づいて」締結されたパートタイム労働契約に関して、障害、老齢および遺族に関する一般的強制保険の保険料の引き下げを規定していた(7条1項 a 号)。この優遇措置の実施は、その細目について定める省令の制定を条件としていた(7条3項)が、このような省令は制定されなかった。

さらに、1997年6月24日法律196号(雇用促進法)は、1994年法の定めた助成措置を完全に廃止したようにみえる。雇用促進法13条は、1994年法とは異なる助成システムを定めているからである。雇用促進法13条は、労働協約上の労働時間の短縮・再編に対して、社会保険料の減免を行うという方法でのインセンティブを定めていた。この措置は、労働時間の短縮の程度に応じて異なるものとされ、具体的には、労働時間が24時間未満の範囲、24時間以上32時間未満の範囲、32時間以上36時間未満の範囲、36時間以上40時間未満の範囲において、それぞれ異なった保険料率が定められることとされていた。また、法の施行から最初の2年間は、労働協約において、新たな従業員を期間の定めなしに採用し、人員を増加させることを定めている場合、あるいは、余剰人員の整理の段階で、フルタイム労働の契約をパートタイム労働の契約へと転換することを規定している場合について優先して助成を行うこととされていた。

さらに、雇用促進法13条は、次のようなパートタイム契約において、社会保険料の優遇の程度を増加させるとも規定していた。具体的には、a)イタリア南部および産業衰退地域の企業が、現在の人員を増加させながら、当該地域に居住する18歳以上25歳未満の未就業者を雇い入れるパートタイム労働契約を締結した場合、b)当該企業が、3年以内に年金の受給権を得る労働者の契約をフルタイムからパートタイムへと転換した場合(ただし、32歳未満の失業者または未就業者を、パートに転換される労働者の労働時間以上の労働時間でのパートタイムで雇い入れる場合に限る)、c)以前に雇用しており、2年以上の不就労期間を経て労働市場に再参入した女性労働者とパートタイム労働契約を締結した場合、d)環境および地域の保護、都市空間および文化財の修復および改良の部門において、労働者の雇用のためにパートタイム労働契約を締結した場合、e)省エネルギーや代替エネルギー利用のための措置を実施した企業がパートタイム労働契約を締結した場合、である。

しかし、雇用促進法の定めたパートタイム助成モデルは、その実現が徐々に困難となっていった。それは、この制度に十分な財源が与えられることがなかったからである。すなわち、雇用基金の財源は、実際上は、ほぼすべて社会的有用事業に対する財源に吸収されてしまったのである。また、このパートタイム助成モデルは、そもそも費用がかかりすぎるとも考えられていた。こうして、このモデルの施行のために予定されていた省令は、結局、制定されないままとなったのである(ただし、省令案は制定されており、その内容は、2000年法にも多少の修正を受けながら引き継がれている)。

(2)パートタイム労働者の社会保険コストの軽減

1984年法の下では、フルタイム労働と比べてパートタイム労働は、よりコストの高いものとなっていたので、1996年11月28日法律608号は、パートタイム労働に関する使用者の社会保険料の負担をさらに削減することを定めた。すなわち、同法2条10項は、1984年法5条5項で導入された計算方法(パートタイム労働者の社会保険料の算定基礎となる最低時間賃金の計算方法)を、労災保険の保険料にも及ぼすこととした。

(3)高齢者から若年者への雇用リレー

前述のように、雇用促進法13条においては、年金の受給権を得るまで3年以内となっている高齢労働者の労働契約をフルタイムからパートタイムへと転換して、32歳未満の若年者をパートで新規採用するという、高齢者から若年者への雇用リレーが定められていた。老齢年金の繰上げ支給と、パートタイム労働への転換とを連結させるというアイデアは、少なくとも文言上は、1996年12月23日法律662号において見られていた。すなわち、同法の第1条185項ないし187号は、1995年8月8日法律335号付表 b の定める退職年金の受給要件を満たす従属労働者が、自己のフルタイムの労働関係をパートタイム労働関係へと転換する可能性を規定していた。このような転換を選択した労働者は、労働活動を停止することなく、年金の支給を受けることができた(ただし、年金の削減が50%を超えるものであってはならない)。

このような雇用リレーについては、1999年5月17日法律144号において再び定められている。

2000年法の規定

2000年法の5条4項は、「1994年7月19日法律451号により修正付きで転換された1994年5月16日法律命令299号第7条第1項第 a 号の規定する社会保険料に関する便益は、本命令の施行日から30日以内に出される、同条の規定する労働社会保障大臣の命令により、右命令の規定する期限内に、期間の定めのないパートタイム契約での採用を、同契約の締結前12カ月における就労者の平均を基準に算定される現従業員数を増加させるために行う民間の企業および非企業の使用者並びに経済的公共団体に対して、パートタイム労働契約で規定する労働時間の長さに応じて格差をつけて、承認することができる」と定めている。

1994年7月19日法律451号により修正付きで転換された1994年5月16日法律命令299号7条1項 a 号は、前述のように、省令がパートタイム労働の推進のために定めることができる優遇措置として、「現従業員数を増加させるために締結されたパートタイム労働契約、またはフルタイム労働契約からパートタイム労働契約への転換を定める、余剰人員の調整を目的とする集団的協定に基づいて締結されたパートタイム労働契約に関して、障害、老齢および遺族に関する一般的強制保険の保険料の引下げ」を行うと定めていた。これに対して、2000年法では、フルタイムからパートタイムへの転換の場合には、助成の対象としないこととした。

2000年法に基づく社会保険料の減額は、パートタイム労働契約の時間に応じて異なったものとすることができる。この規定は、2000年4月12日の労働省令によって施行されることとなった(施行日は2000年6月3日)。

この省令は、2000年6月3日から同30日までに締結されたパートタイム契約に対する保険料の助成措置を定めるにとどめている。その後の期間における助成措置については、政府は、EU委員会の許可を得たうえで実施しようとしている。

省令によると、社会保険料の減額は、週の労働時間が20時間以上24時間未満の場合には7%、週の労働時間が24時間以上28時間未満の場合には10%、週の労働時間が28時間以上32時間未満の場合には13%となる。

個々の使用者との関係で、2000年法の定める助成措置が認められるパートタイム労働契約の数には上限が定められている。その上限は企業の規模ごとに異なる。

  • a) 従業員数250人以下の場合には20%(ただし、いかなる場合でも最低1つのパートタイム労働契約は助成の対象とされる)
  • b) 従業員数251人以上1000人以下の場合には10%
  • c) 従業員数が1000人を超える場合には2%以下である。

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