外国人労働者の実態と雇用許可制導入の動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年12月

経済危機や労働法改正などにより、労働市場の柔軟性向上への圧力が強まるなかで、政府の失業対策により日雇労働者が急増し、企業の柔軟性向上策および人件費削減策で正社員より非正社員(臨時雇)の割合が増える傾向にあるなど、雇用構造に大きな変化がみられる。特に急速な景気回復に伴い、雇用情勢が大幅に改善されるにつれ、その構造的な変化の流れは定着する気配をみせている。このため、非典型労働者の権利保障問題が政労使間の新たな争点として急浮上している。つまり、労働市場の柔軟性が高まり、非典型労働者の増加傾向に歯止めをかけることが難しくなっているとすれば、非典型労働者の不安定な身分や劣悪な労働条件などを改善し、正規労働者と同等の法的権利を保障する道を模索することが有効な対策づくりにつながるとの声が上がり、その道をめぐる政労使間の攻防が急展開をみせているのである。

「非典型労働者」の権利保護を目指す動き

統計庁によると、7月現在臨時職労働者と日雇労働者の割合は、それぞれ34.5%、18.5%で、合わせて53%に達し、正規労働者のそれを上回っている。その一方で、労働部が上位30の大手企業グループの系列企業487社を対象に「2000年度新規採用実績および計画」を調べたところによると、上半期に採用した3万3773人(1999年同期比で91%増)のうち、臨時・契約職など非典型労働者は8381人(24.8%)、また、下半期に採用予定の2万2481人(99年同期比で130%増)のうちでは2822人(12.6%)で、年間ベースでは約2割を占めている。

このように非典型労働者が過半数を占め、大企業の間で新規採用の増加とともに、非典型労働者の割合が2割に達するなど、非典型労働者の増加傾向が続いている。そういうなかで、非典型労働者の権利保護を目指す動きも広がりをみせている。

まず、注目されるのは、非典型労働者による労組設立が相次ぎ、民主労総が非典型労働者の組織化に力を入れるようになった点である。例えば、民主労総大田忠南地域本部によると、2000年に入って新たに設立された労組23カ所のうち、9カ所が非典型労働者による労組である。1999年の場合、民主労総傘下の新設労組19カ所のうち、非典型労働者による労組は2カ所にすぎなかった。また、重厚長大型産業が密集しているウルサン地域では、社内下請会社の非典型労働者による労組新設が相次いでいる。

もう一つの動きは、26の市民団体で構成されている「非典型労働者の労働基本権の保障と差別撤廃のための共同対策委員会」が、非典型労働者の法的権利保障のための労働基準法改正案を示すなど、非典型労働者の増加傾向を労働者間の貧富の差や社会不安などを助長しかねない社会問題として捉え、法的規制を強化するよう求めている点である。例えば、労働基準法改正案の主な内容をみると、(1)非典型労働者に対しても正規労働者と同等の権利を保障するという原則を明示、(2)出産、疾病、一時的または臨時的雇用の必要性など客観的かつ合理的な事由がある場合を除いては契約期間限定の雇用を禁止する、(3)保険営業社員、ゴルフ場のキャディ、私設の学習教材利用教員など、独立した自営業の形態で働いている人も労働者と認めることなど、である。

政府の対策と労使の対応

政府も重い腰を上げて非典型労働者の権利保護のための対策づくりに乗り出している。労働部は、10月4日の経済政策調整会議を経て、次のような内容を盛り込んだ「非典型労働者保護対策」を発表した。第1に、非典型労働者の労働基準に対する保護を強化する措置として、

  1. 保険営業社員、ゴルフ場のキャディ、私設の学習教材利用教員など、特殊な雇用関係で働いている者に対しては「労働者に準ずる者」という新たな概念を労働基準法に取り入れ、報酬の支払い、正当な理由のない解雇の禁止、労災保険の適用などの権利を保障する。
  2. 慣行のように繰り返される1年未満の短期雇用契約の濫用を防ぎ、退職金や年次有給休暇などが保障されない短期契約職労働者の労働条件の改善を図るために、短期雇用契約の延長・更新の繰り返しで延べ雇用契約期間が1年を超過した場合は、その時点から「正規労働者」と見なし、正当な理由のない解雇に歯止めをかける。
  3. 契約職労働者に対する雇用契約期間を現行の1年から最長3年間へと延長するとともに、時間制労働者や短期契約労働者に対しても書面による雇用契約の締結を義務づける。

第2に、非典型労働者に対するソーシャル・セーフティー・ネットを拡充する措置として、

  1. 1カ月未満の短期雇用労働者に対しても雇用保険を適用するよう行政指導を強化するほか、従業員5人以上の事業所の臨時・日雇労働者を「国民年金事業所加入者」(日本の厚生年金に当たる)に組み入れ、「建設労働者退職共済制度」への加入が義務づけられる公共建設工事規模を現行の100億ウオン(100ウオン=9.67円)から50億ウオンに変更する。
  2. 派遣労働者や建設部門の日雇労働者など非典型労働者の能力開発訓練に対する支援(雇用保険)を拡大するとともに、臨時・日雇職労働者のニーズに合った訓練プログラムを開発する。

その他に、非典型労働者が相対的に多い金触、流通、建設部門などの労務管理に対する監督を強化するとともに、派遣労働者を利用する事業所に対しても健康診断、休憩時間、時間外勤務など関連条項の順守について四半期ごとの監督を行うなど、非典型労働者が相対的に多く働いている事業所に対する労働監督を強化することにしている。

例えば、銀行の間では、人件費削減策の一環として、多くの非典型労働者を対象に短期雇用契約を繰り返すことで事実上正規労働者のように利用するのが一つの慣行になっているといわれる。また、与党民主党のハンミョンスク議員によると、1999年末現在、派遣労働者4万8364人のうち、4万607人(84.1%)が事実上単純労務職として派遣され、2年間の派遣期間が満了した派遣労働者5839人のうち、正規職として採用されたのは395人(6.8%)にすぎないうえ、派遣先と派遣元事業所どちらからでも職が得られなかったのは814人(13.9%)に上り、残りは再契約により契約職または臨時・日雇職として継続雇用されているのが実情のようである。

以上のような政府の「非典型労働者保護対策」をめぐっては早くも、労使の間で反対の声が上がっている。労働界は、「契約職労働者の雇用契約期間を現行の1年から最長3年に延長する」案に対して、「これは3年以内で多様な短期雇用契約の締結を容認することになり、使用者側は、現在の正規労働者さえも非正規職に切り替えようとするため、むしろ非正規労働者の量産につながる」と主張し、政府に対して「非正規労働者の正規職への切り替えおよび差別撤廃案を設ける」よう求めている。特に民主労総の関係者は、「非正規労働者問題に効果的に対処するためには、出産休暇や季節雇用など合理的な事由が認められる場合に限って契約労働者の雇用が許されるようにしなければならないのに、このような本質的な項目が完全に抜けている」と指摘しており、前述したような市民団体グループの法改正案と同様な立場をとっている。

これに対して、財界は「短期契約を繰り返すことで延べ1年以上雇用している場合正規労働者と見なし、正当な理由なしに(例えば契約期間の満了を理由に)解雇することができないようにする」案に対して「これは経営権を侵害することになるので受け入れられない。むしろ雇用不安を解消するためには、雇用契約期間を現行の1年から最長3年に延長すべきである」と反論している。そして「非正規労働者の利用を制限したり、過度に保護義務を課すような法改正は、その対象になる部門における労働需要を減少させる結果を招くだろう。企業活動に規制をかけるような対策は、経済改革そのものを台なしにする恐れがある」と主張している。

いずれにせよ、非典型労働者問題は、経済危機後の構造改革、労働市場の柔軟性向上を促す労働法改正、急速な景気回復に伴う労働需要急増への企業側の弾力的な対応、参加と連帯を基本理念(経済発展と民主主義<社会正義>の両立)とする市民社会への転換などが凝縮されて表れた新たな課題として位置づけられる点で、今日の韓国経済社会問題の縮図ともいえる。それだけにまず、非典型労働者に対するより詳細な実態調査の積み重ねが不可欠であろう。そして非典型労働者問題とその対策をめぐって、政労使間の政策協議の場である労使政委員会で話し合いに基づいた社会的合意を試みることも必要であろう。

そのうえで、政府与党の雇用および社会政府における舵取り(例えば労働部門における規制の在り方――柔軟性向上と非典型労働者の権益保護との調整、またはいわゆる生産的福祉の在り方――、雇用の質とソーシャル・セーフティー・ネット、福祉との調整など)が厳しく問われることになるだろう。

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