EPFの新年金制度、労組内で賛否両論

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

マレーシアの記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年11月

従業員積立基金(EPF)が2000年7月1日に導入した新しい年金制度の利用をめぐって、労組幹部の間で足並みが乱れている。新年金制度の導入を最終決定したEPF理事会のメンバーには、労組のナショナルセンターであるマレーシア労働組合会議(MTUC)のランパック委員長(ほか4名の労組幹部)が含まれているが、同制度に最も激しく反発しているのが同じMTUCのナンバー2であるラジャセカラン書記長。両者の対立がMTUCの内部分裂に発展する可能性まで取りざたされている。

EPFは、日本の厚生年金制度に相当するもので、1951年従業員積立基金法に基づき労使双方に掛金拠出を義務づけている。掛金率は、従業員の月給を基礎に、現在、従業員が11%、使用者が12%となっている。加入者には、(1)退職後年金向け(2)住宅購入・住宅ローン返済資金向け(3)医療費向けの3種類の用途別口座が用意され、毎月の掛金は60、30、10%の割合でそれぞれの口座に積み立てられる。積立金は短期金融市場取引手段、貸付・債券、マレーシア政府債、株式などで運用され、配当率は、その運用状況に主に規定されるが、この10年間は、6.7~8.5%で推移している。

EPFが7月に導入した新年金制度は、「従来型年金制度(SAKK)」と「投資型年金制度(SATK)」の2つ。対象者は、16~70歳までの EPF加入者で、同基金への積立金を利用し、任意で、SAKKとSATKの一方あるいは両方の権利を、それぞれ1ユニットを単位に購入することができる。

SAKK では、1ユニットを購入した場合、55歳で退職して以降、毎月、100リンギ(1米ドル=3.8リンギ)の年金受給が保障される。購入できるユニット数には制限はなく、毎月の年金受給額は購入したユニットの数に比例して大きくなる。ただし、1ユニットの購入手数料は年齢と性別により異なり、たとえば30歳男性の場合は、6775リンギを一括払いしなければならない(手数料は年齢に比例して高くなる)。

他方、SATK は、退職後に受給できる年金額は当該保険会社の運用成績に依存し、最低受給額は保障されていない。SAKKの場合と同様に、1ユニットの購入手数料は年齢と性別により異なり、30歳男性の場合は、4122リンギとなっている。

EPFは、新制度導入の理由について、ほとんどの会員が55歳で退職した時点で積立金を全額引き出し、短期間で使い果たしてしまっているとの調査結果をあげている。

この新しい年金制度が7月1日に導入されて間もなく、MTUCのラジャセカラン書記長は、MTUCが詳細に調査し終えるまで同制度の活用を手控えるよう900万人の EPF加入者に呼びかけた。その理由として、同制度の導入に際してEPFは適切な説明とアドバイスを怠ったこと、ユニット購入手数料が高いこと、利率が通常の EPFのそれよりも低いこと、ペナン州消費者協会の調査結果によれば同制度を利用した場合むしろ損失を被る可能性があること、などを指摘している。また、6つの保険会社を指名してユニットの運用を任せたことも疑問視している。

事態が深刻化しているのは、新制度の導入を決定した EPF理事会に、MTUCのトップ、ランパック委員長が労働側代表の1人として参加していたことである。さらに、同制度についてEPF内では過去4年間にわたって議論されてきたにもかかわらず、MTUCの総会等においては一度も論題にのぼらなかったことも、委員長に対する不信を招く結果となっている。

ラジャセカラン書記長の非難だけにとどまらず、MTUCの傘下組合の間で同制度利用の是非について意見が別れていることを深刻に受けとめ、ランパック委員長は9月8日にMTUC執行委員会を招集し、MTUCの統一見解を示す予定である。

2000年11月 マレーシアの記事一覧

関連情報