労働時間制度の変化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年11月

イタリアの労働時間制は、近年、多くの立法や通達により、かなりの修正を受けてきている。

労働時間は、労務提供の長さを測定するものであると同時に、支払われるべき賃金を定める際の基準となる。さらに、労働時間は、労働者の精神的・身体的健全性を保護するために、労務提供の最大限度を定める機能をもつ。

法規制の対象としての労働時間は、実労働、すなわち「継続的な専念を要する、あらゆる労働」だけであり、その性質や当該ケースの特殊性ゆえ、断続的労働や単なる待機・監視労働は実労働に含まれない(1923年3月15日法律勅令692号[以下、労働時間令]第1条参照)。

さらに、次の時間についても、法律上の労働時間には含まれない(1923年12月10日勅令1955号を参照。この規則は、今日でも妥当している)。

  • 就労場所へ行くための時間。なお、判例上は、異なる事業所で勤務する場合(例えば、出張の場合)に、そこまで移動する時間が労働時間となるかどうかをめぐり争いがある。また、鉱山および採掘場は例外である(労働時間は、坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間である)。
  • 労務提供の準備作業のための時間
  • 不可抗力または技術上の必要性に起因する10分以上の休憩時間で、労務提供が全く求められていないもの。ただし、1日のうちで合計2時間を超えない場合に限る。
  • 食事休憩のための時間
  • 勤務時間内における事前に特定されている午後の休憩のための時間また、次の者は、継続的な労務に従事するものとはされず、それゆえ労働時間の規制を受けない(労働時間令1条などを参照)。
  • 指揮命令者(管理職もこれに含まれる)
  • 監督者
  • セールスマン
  • 断続的労働または単なる待機もしくは監視を行う労働に従事する者(番人、門番など)
  • 家内労働者
  • 家事労働者(同居の家族は、継続して8時間以上の深夜の休憩を請求する権利を有する)
  • 特定のカテゴリーの農業労働者

法的規制

憲法36条2項および民法典2107条は、1日の最長労働時間を法律で決定すると定めている。1997年までは、前記の労働時間令が、1日の最長労働時間を決定する唯一の法律であった。労働時間令では、実労働の上限を1日8時間または1週48時間と定めていた。このような上限は、労働協約により、さらに引き下げられることが多かった。そして、多くの生産部門では、徐々に週休2日制を導入し、週労働時間を38時間から40時間の範囲で定めることが多くなってきた。

1997年6月24日法律196号(いわゆる、トレウ法)の第13条は、労働協約において、法定労働時間よりも短い労働時間を定めることができると明示的に規定しただけでなく、いわゆる変形労働時間制を労働協約で導入できるということも定めた。これにより、全国労働協約の定めがあれば、特定の週において40時間以上の所定労働時間を定めることができるようになり(別の週において所定労働時間を短縮するということが条件となるのであるが)、労務提供に関する弾力性というニーズに応えることができるようになった。もちろん、労働時間令においてもすでに、特定の業種と職種に限定して、変形労働時間制を導入することは認められていた。これらの業種や職種においては、1997年法の制定後、変形労働時間制を認める全国労働協約がない場合であっても、変形労働時間制を採用することは許される。

1997年法では、1日の労働時間の上限について何も定めていない。そのため、労働時間令における8時間という制限がそのまま適用されることになるのかどうかをめぐり学説上論争が起こった。

1つの考え方は、1日の労働時間の上限は法律で定められなければならないという憲法36条の規定を根拠に、1997年法は、労働時間令の8時間労働制を廃止しようとしたものではないと主張する。さもなければ、憲法違反の状況が生じるからである。

これに対して、もう1つの考え方は、憲法36条の文言は決定的な意味をもたず、むしろ1997年法の立法者は、弾力的な労務提供を実現できるようにすべく、労働時間令上の8時間労働制を廃止しようとしたものであると主張する。

おそらく、1日の労働時間の上限規定の欠如は、立法の欠缺と解すべきではないであろう。憲法裁判所が述べるように、労働時間の上限は、特別な法規定がない場合でも、法の一般原則に基づき導き出すことができるのである。

ただ、労働時間に関する1993年の EC 指令(104号)における継続11時間以上の休憩付与規定を、1日の労働時間の制限規定と見ることもできるであろう。このことは、1997年11月12日に締結された、イタリア工業連盟と、CGIL、CISL、UIL との間の「共通見解」にも合致するものである。

また、1997年5月26日委任立法152号が、使用者に対して、1週および1日の労働時間に関して、採用時および採用後の変更時に、従業員に通知し情報を提供する義務を課していることも指摘しておかなければならないであろう。

特別な保護規定

いくつかのカテゴリーの労働者には、労働時間に関して、特別な規制が行われている。第1に、年少者については、1999年の委任立法345号が、1967年10月17日法律977号を修正して、労働時間は、義務教育の対象ではない15歳の年少者に対しては、1日7時間かつ1週35時間、15歳超18歳以下の者に対しては、1日8時間かつ1週40時間と定めている。さらに、年少者の労働は、4時間半以上連続でさせてはならないとされている。このほか、週休日、休憩、深夜労働に関して、特別な規定が設けられている。

第2に、母親労働者、産後期または授乳期にある女性については、1999年委任立法345号で修正された1967年10月17日法律977号、または1996年11月25日委任立法645号が適用される。深夜労働について、特別な保護が定められている。

第3に、見習労働者については、補完的教育または職業訓練の時間も、労働時間に算入される。

第4に、学生でもある労働者については、1970年5月20日法律300号(労働者憲章法)の第10条で、大学以外の正規の修学コースに通学する労働者は、そのコースへの出席や試験の準備が容易になるような勤務番を求める権利を有する。

時間外労働

民法典2108条および労働時間令では、時間外労働の遂行を許容している。時間外労働とは、所定労働時間に関する法律上の制限を超えて行われる労働を指す。

時間外労働は、今日でもなお、労働時間令5条で一般的な規制が行われている。これによると、時間外労働の要件としてまず第1に挙げられるのは、当事者間の合意である。ただし、労使間で時間外労働に関する協定が事前に締結されている場合には、実際に時間外労働を行う場合に改めて同意が必要ということにはならない。第2に、1日2時間および1週12時間という時間外労働の上限を超えないことである。1994年12月19日委任立法758号により、これに違反した場合には、5万リラ(100リラ=4.76円)以上30万リラ以下の過料が課される。第3に、労働協約で規定する範囲を超える割増手当の支払である(割増率は10%を下回ってはならない)。

このような一般的な法規制と並んで、1998年11月27日法律409号により法律に転換された1998年9月29日法律命令335号によって全面的に修正された労働時間令5条の2は、工業部門における時間外労働について特別な規定を設けている。すなわち、1998年法では、時間外労働を、使用者と労働者との間の事前の同意があれば、1年で250時間、3カ月間で80時間を超えない範囲で許容している(労働協約で別段の規定がある場合を除き、この制限を超える場合には、10万リラ以上30万リラ以下の過料が課される。

しかし、このような制限は、比較的代表的な労働組合により締結された労働協約による全国レベルの規制がない場合にのみ適用される。逆に言うと、このような労働協約において、法律上の上限規制とは異なる上限を定めることが認められているのである。労働協約の規定に対する唯一の制限は、「時間外労働の利用は、抑制的でなければならない」という点である。

また、1998年法は、時間外労働を利用することができる事由を定め直して、a)例外的な技術的・生産的要請があり、他の労働者の採用を通してその要請に対処することができない場合、b)不可抗力の場合、または通常の労働時間による労働の中断が人や生産に対して危険や損害をもたらす場合、c)生産事業に関係する博覧会、見本市、催し、これらのための見本・模型その他の準備、を挙げている。労働協約において、これとは別の事由を定めることも許されている。

さらに、改正後の労働時間令5条の2は、1週の労働時間が45時間を超えることになった場合に、そのときから24時間以内に、使用者は、当該地域を所轄する労働監督機関である県労働局に通知をしなければならない、と定めている。つまり、時間外労働自体は週40時間を超える場合に成立するが、通知義務は45時間を超えた時点で生じるのである。

これに対して、変形労働時間が適用されている場合の通知義務については、1999年8月3日の省令において、次のように定められている。すなわち、暦月において、協約で定める所定労働時間を超える労働が全体で20時間を超えた場合に通知義務が生じる(この場合、超過が生じた月の翌月の最初の平日の労働日までに通知が行われなければならない)。また、週レベルでの所定労働時間が45時間を超える時間に設定されている週においては、所定労働時間を超える労働が3時間を超えた場合に通知義務が生じる。

最後の時間外労働のコストに関しては、1995年法律549号の第2条が、時間外労働を行わせた場合には、従業員数が5人を超える企業は、賃金の5%分の拠出を INPS(全国社会保険公社)に払い込まなければならないと定めている。工業部門の企業では、この拠出の割合は、週において労働時間が40時間を超える場合には5%、44時間を超える場合には10%、48時間を超える場合には15%とされている。

割増手当の割合については、労働時間令5条が、通常の労働に対して支払われる賃金の10%以上の割増と定めている。この10%という基準は、労働協約によって下回ることのできない強行的なものである。

割増手当の計算方法に関しては、特別な制約は定められていない。判例によると、法律の定めた最低基準が結果として保障されているならば、法律とは異なる計算方法を採用してもよいとしている。したがって、時間外労働手当を一時金で支払うことも、それが一時金の範囲を超える実労働が行われた場合には、さらに手当が支払われることになっていれば適法と解されている。他方、時間外労働が何時間行われても、定額の一時金しか支払われないとする規定については無効と解されている。このような規定は、まだ発生していない権利の事前の放棄となるからであり、また、憲法36条1項の定める労働の質・量に比例した賃金の保障という原則に反するからである。

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