大企業の構造調整の進捗状況と現代グループの新たな構造改革案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年10月

金融部門における第2段階構造改革案が初めての労政交渉の末、確定し、同部門における構造改革に加速がつくと見られる。その一方で、現代グループの流動性危機が再び表面化したこともあって、大手企業グループのさらなる構造改革案が、新たな政策課題として急浮上している。

さらに、大企業の経営業績に関する調査結果が相次いで発表され、大企業の構造調整の進捗状況が明らかになるにつれ、政府の大企業に対する圧力はさらに強まっている。

大企業の構造調整の進捗状況

まず、最近相次いで発表されている大企業の経営業績などに関する調査結果を通して、大企業の構造調整の進捗状況を追ってみよう。

第1に、経済危機後、企業経営の透明性を高めるための新たな会計基準として導入された「結合財務諸表」(注1)の分析結果が8月1日に明らかになった。同財務諸表は、16の大手企業グループを対象に、7月31日までに金融監督院に提出されることが義務づけられていた。これにより、韓国特有の財閥経営の全体像が初めて明らかになった。従来のような連結財務諸表との違いを中心に主な財務指標を拾ってみると、次の通りである。

まず4大財閥を含めて16の大手企業グループの「結合財務諸表」上の負債比率はほとんど200%を超え、連結財務諸表上のそれより、のきなみ30~100%ポイント高くなった。「結合財務諸表」には、すべての系列企業間の出資や取引上の貸し借りなどが一つの会社内での内部取引として処理されるため、系列企業間の株式持合い関係や取引関係が複雑になっている財閥ほど、「結合財務諸表」と連結財務諸表両者間の格差は大きくなる。例えば、三星グループの負債比率は166%から194%への上昇にとどまったのに対して、LG グループは、184%から260%へと大幅に上がっている。

特に中堅財閥のうち、構造調整に積極的に取り組み、目に見える形で成果を上げていると評価されていたハンファグループやトゥサングループの場合も、負債比率はそれぞれ139%から228%、197%から252%へと大幅に上昇した。

「結合財務諸表」を作成することによって、系列企業間の出資や取引が通常の取引から内部取引と見なされ、従来重複計上されていた取引が省かれるため、前述のように負債比率が大幅に上昇するだけでなく、売上高や損益も大幅に減少してしまうのである。特に、系列企業間の取引比率が相対的に高い4大財閥の間でその傾向が強い(平均39.2%に対して、三星グループの場合は41.7%)。例えば、三星グループや現代グループの売上高は、それぞれ42%、38%減少し、純利益も20%、50%以上減った。ただし、そういう中でも4大財閥への経済力集中傾向に大きな変化は見られななかった。例えば売上高では、16の大手企業グループ全体の77%、純利益では三星グループと SK グループだけで全体の75%をそれぞれ占めている。

以上のような「結合財務諸表」の結果を受けて、財界は早くも、負債比率や内部取引比率が高くなったことで対外的な信用が低下したり、政府が財閥に対する圧力を強めるのを警戒し、政府に前述のような結果を理由に財閥経営に対する規制の強化にただちに走らないように強く求めている。

これに対して政府は、「結合財務諸表上の負債比率が200%を超えている大手企業グループに対して、第1段階構造改革の際のように、負債比率を200%以下に引き下げるよう強制することはない」と述べている。ただし、金融機関の新しい資産健全性分類基準に結合財務諸表上の負債比率を反映し、負債比率の高い企業向けの与信に対しては引当金の積立率を引き上げることにより、間接的に負債比率の引き下げを誘導するほか、大企業の財務構造に対する評価基準も「負債比率200%以下」から「金融費用負担率、利子償還倍率など未来のキャッシュフロー」を重視するものへと変えていくことにしている。

第2に、韓国銀行が8月9日に発表した「1999年製造業のキャッシュフロー分析」によると、外部監査対象の製造企業3703社のうち、金融費用負担率{(営業活動からの現金収入+金融費用)/金融費用}が100%を下回っている企業が24.8%に達している。金融費用負担率が100%を下回るということは、営業活動を通しては金融費用さえも負担できないほど経営状態が悪いことを意味する。そのような状態にある企業の内訳をみると、4大財閥系企業8社のうち6社が現代グループの系列企業である。それに上位30の大手企業グループの系列企業27社も含まれている。その他に1社当たり有形資産純投資額(48億1900万ウオン<100ウオン=9.75円>)の90.6%が有価証券純投資額で占められており、キャッシュフロー上改善された分が、負債の返済よりは、系列企業間の相互出資や有償増資の方により多く回されたことの表れであると分析されている。

第3に、韓国銀行が製造業の2046社を対象に、有形資産回転率(売上高/有形資産)を調査したところによると、それは1.85%にすぎず、アメリカ企業の3.61%、日本企業の3.16%に比べてかなり低い水準にとどまっている。企業規模別にみると、中小企業のそれは3.13%に達しているのに対して、大企業は1.51%にすぎず、大企業ほど有形資産活用における非効率性が目立っている。これは、大企業の構造調整が資産の効率的な活用という本来の目的を達成するところまでには至っていないことを意味する。

第4に、韓国生産性本部が8月17日に発表した「1999年上場企業の付加価値分析」によると、上場企業全体の付加価値は、1998年に比べて5.26%減ったのに対して、製造業部門のそれは9.70%増えており、製造業部門が景気回復の牽引車になっている点が裏づけられた。特に、1人当たり付加価値でみると、上場企業全体で2.21%増にとどまったのに対して、製造業部門は18.75%も増えた。この背景には、企業の構造調整に伴い、従業員数が上場企業全体では7.31%、製造業部門は7.62%減ったことが大きく影響しているようである。

第5に、韓国証券取引所のまとめによると、12月決算期上場企業446社の上半期の純利益は、10兆3989億ウオンで、1999年同期より34.7%増えた。景気好調に伴う売上高増(21.68%)、低金利及び借入金の減少(負債比率176.9%から135.9%に引き下げ)、半導体・情報通信・自動車部門の利益急増などがその背景にある。特に注目されるのは業種間に明暗が分かれているのみでなく、企業間の収益格差もさらに大きくなっている点である。

例えば大手企業グループ別にみると、三星グループと SK グループの純利益はそれぞれ3兆8908億ウオン、6769億ウオンで、1999年同期より132%、46%増えたのに対して、現代グループと LG グループは、それぞれ688億ウオン、1兆4528億ウオンで、1999年同期より75%、39%減った。

現代グループの改善案

現代グループの流動性危機が主要系列企業社債の格下げ(7月24日)により、再び表面化するなかで、金大中大統領自らが経済関係閣僚を改造(8月7日)するとともに、現代グループの諸問題を早急に処理するよう指示したのを機に、現代グループの構造改革への取り組みが急展開を見せている。

8月10日から政府および債権銀行団と現代グループとの間で財務構造改善案、現代自動車など系列企業の分離案、オーナーおよび側近経営陣の退陣を含めてのコーポレート・ガバナンス改革など3つの争点をめぐって、本格的な交渉が始まった。早くも現代グループ側の大幅な譲歩で、次のような財務構造改善案および系列企業分離案が確定し、8月13日には正式に発表された。

第1に、現代自動車の現代グループからの分離のために、鄭ジュヨン前名誉会長の持株9.1%のうち、6.1%(1270万株)を売却する。売却代金は、現代建設の短期流動性問題を解決するために、3年満期の社債買い入れに当てる。これとともに、現代グループは近日中に現代自動車の分離案を公正取引委員会に提出する方針を明らかにしており、現代自動車など8社による自動車関連小グループは、9月1日に現代グループから完全に分離されることになる。その他に、現代重工業の現代グループからの分離は、当初の計画より1年6カ月繰り上げて、2001年6月末までに実施することも決まった。

第2に、今回の財務構造改善案には、5月31日に現代建設の最初の流動性危機への対策として打ち出していた財務構造改善案のうち、実現可能性が極めて低い案件は外される代わりに、実現可能性が相対的に高い案件が新たに取り入れられている。

例えば、ソサン農場資産担保付債券の発行や工場の跡地・社宅などの売却案などは撤回され、その代わり、現代建設が保有している現代重工業と現代商船の株式を交換社債(EB)の形で発行し、海外に売却する案が新たに取り入れられた。

今回の財務構造改善案の内訳をみると、(1)6231億ウオン相当の有価証券の売却、(2)1394億ウオン相当の不動産売却、(3)964億ウオン相当の海外資産売却、(4)3297億ウオン相当の事業用資産売却、(5)1816億ウオンの海外売掛金の回収、(6)1473億ウオンの住宅開発事業信託など。

現代グループ側は、以上のような案件を通して総計1兆5175億ウオンの資金を確保することにしている。

その他、鄭ジュヨン前名誉会長を含めてのオーナー経営陣と現代グループの経営に深くかかわっている側近の専門経営陣の退陣問題(コーポレート・ガバナンス改革の象徴として債権銀行団が強く求めていた案件)については、具体的な言及を避け、前者の場合「引き続き退陣約束を守る」、後者の場合は「取締役会と株主総会などの公式手続きを経て近いうちに処理する」と、従来の方針を繰り返すのにとどまった。この問題は、債権銀行団と現代グループとの間で見解の相違が著しい争点であるだけに、最終的には市場の判断に委ねるしかないだろう。

今回の財務構造改善案および系列企業分離案に対する政府の受け止め方は、「債権銀行団の要求と市場の期待に沿うように実現可能な案を網羅して、検討し、決定したように見える」という評価に如実に現れている。ただし、同計画の実行可能性を疑問視する声が早くも市場の一部から上がっていることもあって、政府と債権銀行団は、2000年末まで月ごとに同計画の実行状況を点検し、その日程と内容通りに実行されない場合は、与信の中断や回収などの制裁措置をとることにしている。

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