野党労働党が労使関係政策を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

政策の内容と経緯

野党労働党のキム・ビーズリー(Kim Beazley)党首は、2000年5月末に同党の労使関係政策の骨子を発表した。総選挙が2001年に予定されているため、これらの政策が重要性を増してきている。今回公表された政策の最大の主眼は、労組が要求していたオーストラリア職場合意(AWAs)とそれを管轄する雇用援護局(OEA)の廃止を承認している点であろう。個別雇用契約の一種であるAWAsの問題は、野党労働党指導部と労働組合との間に緊張関係をもたらしてきた。労組は、AWAsの廃止については結束しており、他方労働党は、既存の労使関係制度の枠内で規制される AWAs(望ましいあり方としてクィンズランド州の例に言及)を支持する姿勢を示していた。

クィンズランド州の制度では、個別雇用契約は、労働者と使用者との間で締結することができる。しかし、これらの契約は、クィンズランド州労使関係委員会により監督され、さらに労組による審査と不利益審査(個別雇用契約がアワードに比べ不利益になっていないかを審査する)を受けることになっている。

しかし、ビーズリー党首と野党労働党指導部は、AWAs問題が労組にとって非常に象徴的な意味を持っていること、そして労組が2000年7月に開催される労働党全国大会で約6割の議席を保有していることを認識するようになった。全国大会は、労働党の最高政策決定機関であり、指導部はこのような公開の場でこの問題ばかりでなく他の政策も却けられるような危険を冒すことはできなかった。そのため党首は、予想されていたよりもかなり早期に労使関係政策の骨子を公表する道を選んだのである。

今回公表された政策の中でこれ以外に重要なものは、労使関係委員会の権限強化と交渉に誠実交渉要件を課すことである。党首は、労使関係が対立的アプローチを超え「知識社会」に対応した合意形成の方向に向かうべきであり、それが団体交渉により強力に支持される体制の下で可能であると主張していた。

政策に対する反応と評価

政府は、労働党の政策を労組への降伏であると強く非難している。リース職場関係省長官は、党首の政策声明がオーストラリア労働組合評議会(ACTU)により作成されたとさえ主張している。

AWAsについては、AWAs締結労働者数の少なさが批判の対象となってきた。現時点でもAWAsを締結している労働者は、全労働者の1%に満たない。ここで疑問が生じる。これほど浸透していないAWAsに対し、なぜ労組はその廃止を求めるほど懸念しているのだろうか。これについての見方は様々であるが、一つ言えることは、BHP 社などの大手企業がAWAsを「進歩的」そして生産的な職場関係の形成に役立つと捉えていることである。そのため労組は、その廃止を強く願っているのである。

その他の懸念材料

労使関係政策以外に、労働党が取り組まねばならない課題としては貿易政策やアコード(所得・物価合意)が挙げられる。労働党政権下で労組との間で締結されたアコードが今後復活する可能性はほとんどない。というのは、アコードは労組組織率の低下を招き、ひいては総選挙での労働党敗北をもたらしたと非難されているためである。ここでの問題は、労組が労働党内で大きな影響力を保持している現在、労組と指導部との緊張関係をどのように処理することができるのかということである。労働党内部には、労組組織率低下に対応し、党内での労組の影響力低減を求める者もいる。

明白なのは、労働党と労組の運命が複雑に絡み合っていることであり、両者の関係が、様々な政策上の緊張をもたらすようになっている。

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