深夜労働に関する新たな法的枠組み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

1999年委任立法532号と345号、およびEC指令を国内法化するための1999年法律25号は、深夜労働に関する法的規制の不十分さを補う(これまでは労働協約でこれを補っていた)と同時に、女性に対する深夜労働の禁止をめぐる長年の議論に終止符を打った。新しい法律の改正点について分析をする前に、まず批判が多かった従来の法的規制の枠組みの概要についてみておくこととしよう。

従来の法的規制の枠組み

深夜労働に関する最初の法規定は、1942年の民法典2108条2項である。同項は、1日の労働の休息を深夜にとるということを当然のこととしながらも、深夜における労務の提供を禁止せずに、同条1項の時間外労働に関する規定と同様に、「通常の定期的な労働に含まれていないかぎり」、昼間の労働と比較した割増手当を義務づけるにとどまっている。同条3項では、この割増の額などの決定について、特別法または労働協約に委ねている。

このように、法律上は最小限の規定のみが設けられ、その他の点は、冒頭の法律が制定されるまでは、判例により補充されることとなった。判例は、時間外労働の場合と同様に、深夜労働についても労働者の同意を必要とし、さらに割増手当の権利を否定する条項は、たとえ労働協約上の条項であっても無効であるとした。また、特に女性の深夜労働に関しては、欧州司法裁判所の判決を受けて迅速に介入してきた。

しかし、深夜労働に関する一般的な法律が制定されるまでには約60年間待たなければならなかった。今回、ようやく法律が制定されるに至った背景には、次のような事情がある。第1に、1993年のEC指令104号の影響である。同指令は、労働者の健康と身体的な健全性を保護するという趣旨に基づき、深夜労働を定義し、その限界と保護規定を定めている。イタリア法は、EC指令のこれらの点をすべて受け入れ、さらにそれを拡張している。第2に、イタリア工業連盟とイタリア労働総同盟(CGIL)、イタリア労働組合連盟(CISL)、イタリア労働同盟(UIL)の三大労組も、同指令を受け入れる協定を締結したという点である。

従来の法制度における問題点

深夜労働に関する一般的な規制は少なかったものの、深夜労働に対する制約は少なくなかった。例えば、1967年法律977号は、未成年者の深夜労働に対して制約を設けている(このような制限は、わずかな修正が加えられたとはいえ、最近の1999年委任立法345号によっても確認された)。また、1960年法律105号では、パン職人に対して、21時から4時の間の深夜労働が禁止された。さらに、女性に対しての深夜労働の制限についても存在している。この点は、少し細かく見ておく必要がある。

まず、女性の深夜労働を禁止した最初の法律は、1934年勅令653号である(この法規定は、ILO条約89号<1948年>を批准するための1952年法律13045号により確認されている)。これによると、女性は何歳であっても、またいかなる工業部門の企業においても、夜間に労働することを禁止するものとされていた。このような禁止の内容は、その後、1977年法律903号(男女平等待遇法)により緩和されることになる。ただし、この新しい法律においても、女性の家庭責任(これは深夜労働とは両立不可能と考えられた)に関する特別なニーズを保護する必要性が重視されていた。こうして、男女平等待遇法においても、24時から6時の間の深夜労働の禁止は維持されることとなった。ただし、指揮監督労働および企業の保健業務に従事する女性は、例外的に、この禁止規定の適用除外とされた。さらに、労働協約(企業レベルでの協約も含む)で、法律上の禁止規定を撤廃したり修正したりすることも認められた。

この労働協約による法規制の緩和をめぐり、解釈上の問題が生じた。多数説は、このような法規制を緩和する労働協約について、法的な論拠よりも常識的な判断に依拠して、一般的拘束力を認める見解に立った。これに対して、判例は、労働協約による法規制の緩和は、たとえ当該協約が最も代表的な労働組合により締結された場合であっても、一般的拘束力は認められず、協約締結組合に加入していない労働者に対しても、また協約に反対している組合員に対しても適用されないと述べていた。労働者の同意がない場合には、協約は、深夜の時間帯に働かなくてもよいという法律上の労働者の個別的権利を処分することができないということを、その論拠とする。

国内レベルでは、1977年の男女平等待遇法は、(たとえ適用除外を認めるとはいえ)深夜労働の禁止規定を維持したのに対して、ECレベルでは、就職、職業訓練、労働条件に関する男女間の待遇の平等という原則を保障することを目的とするEC指令(1976年207号)により、このような禁止は姿を消すこととなった。それゆえ、加盟国は、妊娠および母性の保護のための規定は除き、男女の平等待遇原則に反するいかなる規定も削除することが義務づけられることとなった。

こうして、女性の深夜労働をめぐり、国内法とEC指令との抵触が生じ、両者の関係をめぐり学説上、激しい議論が戦わされた。その後、憲法裁判所は、国内の裁判官は、直接的に適用可能なEC法の規定と抵触する国内法の規定を適用しないことができるし、また適用しない義務があるという判断を下した。こうして、EC法の比重が徐々に高まる中で、欧州司法裁判所も、加盟国に対して、前記の指令(1976年207号)の国内法化を強制し始めた。まず、フランスがEC指令に違反していると判断された。同国では、当時、女性に対する深夜労働の一般的な禁止がなされていた(労働法典213-1条。ただし、労働協約に定めがあり、政府が許可をした場合は例外)。イタリアも、同様の立法をもっていることから、欧州司法裁判所からの非難から無傷ではいられず、破毀院の確定判例も、国内の裁判官は、女性の深夜労働を禁止する規定を適用しない義務があると判断するようになった。その後、欧州司法裁判所の判決が1997年12月4日に下され、イタリア共和国は、「女性に対する深夜労働の禁止規定を維持している規定が国内法上効力を有しているので」、EC法に基づく義務に違反していると判断された。こうして、男女平等待遇法の第5条がEC法に違反していることが決定的に確認されたが、ここから、欧州司法裁判所の判決の効力をめぐり議論が生じることとなった。すなわち、EC指令の直接適用を主張する者と、国内法化の必要性を主張する者とが対立することとなった。この議論は1999年法律25号の制定により、すでに過去のものとなっているので、詳細には踏み込まないが、いずれにせよ欧州司法裁判所は、後者の主張を支持して、「確定判例によると、EC法と国内法との抵触は、前者が直接的に適用可能な場合であっても、修正されるべき国内法の規定と同一の価値をもつ、拘束力ある国内法の規定を通して、最終的に解消することができる」と述べている。

1999年法律25号と女性の深夜労働

以上の議論に最終的な決着をつけるべく、EC指令を国内法化することを目的として、1999年2月5日法律25号が制定された。同法の17条は、男女平等待遇法の第5条の規定を改正する新たな規定を定めた。

新法は、女性に対する深夜労働の一般的な禁止を撤廃するにとどまらず、深夜労働に対する無条件の許容に対して二重の例外規定を設けるという形で、深夜労働をめぐる法規制の見直しを行った。

a) 深夜労働の絶対的禁止

深夜労働に関して、より広い母性保護が規定された。すなわち、妊娠が確認されたときから子供が1歳になるまでの間は、24時から6時を含む時間帯における労働は絶対的に禁止される。

以前の法律との違いは、深夜労働からの義務的休業の開始時点と終了時点である。まず開始時点に関しては、新法ではより適切に、「妊娠状態の初期」(これは論理的には、事後的にのみ確認可能である)ではなく、「妊娠が確認された時期」と改められた。次に義務的休業期間の終了時点については、5カ月延長された(従来は、子供が7カ月になるまでであったが、新法では1年までである)。このような改正は、単に女性の健康状態の保護だけを考慮したものではなく、任意的休業期間についてと同様に、母子関係に配慮する必要性も考慮したものである。この点については、このような保護の必要性と男女間の均等待遇との整合性という困難な問題が提起されるのは不可避である。すなわち、加盟国に対して、女性労働者の「安全又は健康」の保護のために、女性労働者に深夜労働を義務づけられてはならない期間を決定するよう委任しているEC法の規定(「妊娠期、産褥期、授乳期の女性労働者の労働場所における安全と健康の改善に関する」1992年のEC指令92号)よりも、イタリア法は、はるかに進んでいるからである。EC法レベルでは、明文で、深夜労働の禁止ではなく、「義務づけられてはならない」と規定している(したがって、任意での就労は禁じていない)だけでなく、女性労働者の健康以外の必要性は考慮していないからである。

b) 深夜における任意的休業の権利

母性保護のための深夜労働の禁止規定に続いて、男女平等待遇法の改正後の5条2項は、深夜労働を義務づけてはならない場合について3つの事由を規定している。これは、任意での就業を排除していないという意味で任意的休業の制度であり、労働者による労働時間の弾力的管理(特に労働時間と家庭責任との調和)という新たな政策と完全に合致するものである。このような傾向は、EC法レベルでも、育児休業に関する1996年の指令34号において見られていた(同指令は、2000年2月22日に、ようやくイタリアでも国内法化された)。

新規定は、一定の事由について女性労働者を深夜労働から免除している。特に指摘すべきは、「3歳未満の子供をもつ母親労働者、または、これに代替して、このような母親労働者と同居している父親」が免除の対象とされている。父親がこの権利を享受するためには、(母子間の特別な関係というあいまいな観点から)母親がこの権利の行使を放棄することが条件となっている。

1999年委任立法345号と未成年労働

労働者の健康と身体的健全性の保護を主たる目的とする未成年者に関する法規定は、1999年委任立法345号により若干の修正を受けた。この場合にも、立法者の出発点は、EC法であった(正確には、1999年のEC指令33号である)。

新しい法制度では、EC法における要請にしたがい、用語の定義に関する変更を行ったうえで、1967年法律977号の第3条を修正し、就労が許される最低年齢を、15歳とするだけではなく、義務教育の終了年齢にもすることとした。

さらに「深夜」の定義について、これまで成年と未成年とで異なっていたのを統一して、「22時から6時、または23時から7時を含む連続12時間」以上の時間を指すものとされた(新法の15条)。したがって、未成年に対しては、この時間帯における深夜労働の絶対的禁止は維持されることとなった。ただし、従来の法律で定められ、EC法でも認められたいくつかの例外は認められている(例えば、16歳以上の者について、企業の正常な運行を妨げる不可抗力が確認された場合で、当該労働が一時的で遅滞を許さず、さらに成年の従業員を利用することができず、3週間以内に代休を付与するという条件が満たされたときには、深夜労働に従事させることができる)。

深夜労働に関する新法

1999年委任立法532号は、1993年のEC指令104号の国内法化を目指した総連合間協定を法律に転換しようとしたものである。ただし、新法は、最低限の規定しか定めていなかったEC指令の規定よりも、はるかに進んだ規制を行っている。EC法は、深夜労働に関して、一般的な原則(「深夜」、「深夜労働者」の定義、労働者保護規定、情報提供義務)を定めるにとどまっており、その具体化は、個々の加盟国に委ねている。もっとも、EC法の「最低保障主義」は、明確なポリシーをもつものと考えるのが妥当であろう。EC法の規定は、その前文から明らかなように、労働者の健康と身体的健全性の保護に関する規制を行うにとどまっている。経営組織に関しては介入することを避け、国内レベルの立法、さらに労働協約に規制権限を付与している。

労働時間に関しては、労働協約の役割はきわめて重視されてきており、この点は、今回の委任立法においても見られた。例えば、労働協約は、「深夜労働者」を具体化する規定、割増手当の額、複数の週にまたがる特別な労働時間の配分(変形制)などを自由に定めることができる。これらの事項は、どれもきわめて重要なものである。

以下、深夜労働に関する新法の内容の詳細を見ていくこととしよう。

a) 適用範囲

1999年委任立法532号の規制は、「公的部門または民間部門の使用者のすべて」に適用される(1条)。この点については、EC指令(1993年104号)の1条3項と違いがある。EC指令では、「あらゆる公的事業または民間事業」というように広い定義が用いられていた。新法の下においては、EC法を根拠として、深夜労働に関する規制を、伝統的な従属労働関係の範囲を越えて拡張していくことを主張しようとする学説は支持できないであろう。

新法では適用除外の範囲についても定めている。特に指摘すべきは、一定の業務(航空部門、船員など)については、特別な制度が存在していることを考慮して、全面的に適用除外とされている点である。これに対して、1923年の法律勅令においてすでに適用除外とされていた者(指揮監督者など)については、深夜労働時間の上限についてのみ適用除外となっている。

b) 「深夜」と「深夜労働者」

新法により、これまでイタリア法には存在していなかった「深夜労働者」という概念が登場することとなった。

まず、同法2条では、「深夜」を、「夜の12時と朝の5時の間を含む継続する7時間以上の時間帯」と定義している。また、新法の適用上は、「深夜労働者」は「1日の労働時間のうちの3時間以上を、例外的にではなく、深夜に遂行する労働者のすべて」としている。さらに、これに加えて、「国内の労働協約により定める規定にしたがい、通常の労働時間の少なくとも一部分について」、例外的にではなく、深夜に遂行する者、労働協約の規定がない場合には、1年間のうち少なくとも80日間(パートタイム労働の場合にはその労働時間に比例した日数)深夜に労働する者も「深夜労働者」に含まれる。

EC法は、パートタイム労働を参考にして2つのタイプの深夜労働者を定めようとしたようである。すなわち、深夜に自己の労働の一部のみを遂行する、いわゆる水平的深夜労働者と、深夜における労働が、特定の時期に集中して行われ、それが一定の時間数を超えている、いわゆる垂直的深夜労働者である。

深夜労働者の定義から除外される要件の設定は、どちらのタイプの深夜労働者についても、労働協約で定められる(2条2項)。

c) 深夜労働の限界

第4条は、深夜労働の長さを定めるうえで、まず「深夜労働者の労働時間は、24時間のうち、8時間を超えてはならない」とし、他方で、労働協約(事業所協約も含む)に対して、当該協約で定める複数週の単位期間の平均で8時間とする変形制を定めることを認めている。

この変形制により、新法は、EC法だけでなく、1997年法律196号(トレウ法)の第13条の規定する一般的な労働時間制とも整合性をもつこととなっている。

新法の弾力的な規制は、24時間のうちの8時間という厳格な制限から逸脱することのできない「特別なリスク、又は、身体的若しくは精神的に相当の緊張」をもたらす特定の作業(具体的には、比較的最も代表的な産業別労働組合および使用者団体と事前に協議をしたうえで、労働省令で定められる)についての規定を設けてしばりをかけているとはいえ、問題があると思われる。すでに昼間労働の変形労働時間制において、24時間の連続労働でさえも、これを不当とすることは困難であるということが明らかにされていた。最低限の休憩時間の保障規定が欠如しているし、週40時間という制限規定も変形制においては無意味であるからである。このようなケースでは、憲法32条で保障されている労働者の健康の尊重と憲法36条2項の規定(「1日の労働時間の最長限は法律で定める」)を根拠に、濫用的な労働時間制を不当とするしかないであろう。

このような問題点は、深夜労働の場合に、いっそうあてはまる。EC法では11時間以上の休息期間が規定されているのに対して、新法はEC法に従って制定されたにもかかわらず、本来なら、ある程度の硬直的な規制が適切である深夜労働に対して、やや行き過ぎた弾力的規制を行っている。もちろん硬直的な規制は、特定の業務に対しては存在している。そこでは、1日8時間という制限は、絶対的な制限となっている。

d) 使用者の義務

新法は、使用者には原則として労働者に深夜労働の遂行を求める権利があるということを前提としたうえで、使用者に対して一連の義務を課している。すなわち、使用者は、深夜労働の遂行方法について労働組合との間で協議をし、同時に、継続的に情報を提供し、深夜労働の特別な性質に適合的な安全確保をすることが義務づけられている。

労働組合との協議義務(第8条)については、「統一組合代表若しくは事業所組合代表、又は、それがない場合には、比較的最も代表的な労働組合の総連合に加盟している地域レベルの産業別労働組合」との間で、当該事業所における深夜労働の導入について事前に協議をしなければならない、と規定されている。この義務に違反した場合の効果については、法律は何も定めていないので明らかでないが、おそらく反組合的行為(労働者憲章法28条)が成立することになろう。

このような協議に続いて、使用者は、深夜労働の遂行のために、労働者および安全代表委員に対して、「深夜労働の遂行から生じるリスクの増大について、それがもし存在している場合には」情報を提供しなければならない(9条1項)。さらに、使用者は、「予防および安全に関するサービスについての情報」を継続的に提供しなければならない。

その他にも、一連の保護規定が設けられている。第1に、使用者は、深夜労働に従事する労働者の選択において、明示的にその深夜労働への従事を申請した者を、経営上の必要性と両立可能な範囲で、優先しなければならない。第2に、深夜労働の特性に適合的で、昼間の労働に規定されているのと同じレベルの予防・保護措置を講じなければならない(第11条)。第3に、第4条2項で危険と定められた業務および特別なカテゴリーの者(薬物中毒者や HIV 感染者)については、特別な措置を講じなければならない。第4に、使用者の費用で、深夜労働に従事する者に一連の健康診断を行うことが義務づけられている(第5条)。深夜労働を行うに耐えうる健康状態ではないと確認された場合には、労働協約の定めにしたがい、当該労働者を別の職務に配置するか、他の昼間の勤務に変更するかをしなければならない(第6条)。

さらに、使用者には、県労働局などに対して、書面で毎年、情報提供を行う義務が課されている(これも、EC指令で明示的に定められていた)。

e) 割増手当

深夜労働に対する割増手当に関しては、旧法とは異なり、労働協約による決定に全面的に委ねられている。

前述のように、民法典2108条2項は、深夜労働に対して割増手当の支払いをすることを義務づけていたが、その額は、特別法または協約に委ねている。この規定をめぐり、判例上、具体的なケースで割増手当の支払義務があるかどうかについて争いが生じていた。ただ、この問題は、今日では、多くの労働協約で割増手当の支払義務を定めていること、さらに憲法裁判所が、いかなる場合であれ、労働が深夜に提供されれば割増手当の支払義務が生じると判断したことにより、すでに解決済みと言うことができる。そして、新法により、労働協約は、割増手当について定めることが義務づけられることとなったのである。

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