ハンガリー/先進諸国より少ない賃金で多く働くハンガリーの労働者

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

最新の統計調査によると、ハンガリーの労働者は、西ヨーロッパの最先進諸国とほぼ同程度の規律と生産性で働くことを習得した。例えば、ドイツ企業(Audi、Opelなど)のハンガリー進出工場では、カーエンジンの部品組立に2.1時間要するのに対し、ドイツにある親会社の工場では、同じ組立作業に2.4時間要する。組み立てられたエンジンについて、ハンガリーとドイツに品質の差はない。しかし、ハンガリーの労働者は、賃金水準がドイツの労働者に比較してかなり低く、労働時間も長い。

これらの事実にもかかわらず、労働時間の現実性については、ハンガリーの労働組合連合の間においてさえ意見の対立がある。労働時間短縮の方針を支持するにしても、その方法について多くの議論が交わされている。例えば、2年前、金属労働組合連合(ハンガリー語での略:VASAS)が、既存の休日数に1日を追加することにより、休日数を増やそうと試みた。この試みは成功し、同年より、11月2日が「亡き人の日(Day of Dead People)」として休日になった。VASASはまた、クリスマスの時期にも祝日を増やすよう勧告を行った。具体的には、12月24日を祝日にすることを求める勧告である。しかし、これまでのところ、この提案は、ハンガリーの労使関係における社会的パートナーから必要なだけの支持を得ていない。

しかし、VASASの加盟組合間においてさえ、労働時間短縮の問題に関しては意見が分かれる。例えば、すべての加盟組合が、「休憩時間」を労働時間に組み入れる案を拒否した。1日の労働時間が6時間以上の職場において、1日当たりわずか20分にしかならないにもかかわらずである。ただし、使用者の中には、休憩時間を労働時間に組み入れることに乗り気の者もいる。こうした変更により、週40時間労働で、1週当たり1時間40分の短縮が見込めるからである。この変更を実現するには、再度の団体交渉が必要である。しかし、昨年のVASAS大会において加盟組合は、第1段階は多国籍企業、第2段階は中小企業において、週労働時間を40時間から38時間に短縮することを受諾した(VASASは、健康上の危険がある職場の場合については、週労働時間の40時間から36時間への短縮を提案した)。

EU加盟国の大半は、法定労働時間がハンガリーより短い。法定労働時間の長さは、時間外労働時間と併せても、週48時間を超えてはならないとしている。ハンガリーでは、時間外労働時間が非常に長い。

西ヨーロッパの先進資本主義国においては、従業員の労働時間が短い。例えば、ベルギーでは、フランスのモデルにならい、賃金を下げずに週35時間労働を導入しようと計画している。フランスとベルギーでは、政府が急進的な労働時間短縮を発案し、使用者は、税および社会保障の負担額を減らしてもらう形で政府の支援を受けることができる。一方、ハンガリーの現政権が、労働者のために労働時間を短縮する兆しはないし、労働時間短縮を行う義務もない。ハンガリーは、「欧州社会憲章(European Social Charter)」の多くの条項を批准しているが、ハンガリーの現在の労働時間の範囲で、条項の要件は満たすことができる。しかし、使用者は、助成金がないのであまり労働時間を短縮したがらない。特に、労働時間短縮による業績の下落に対し、同じ水準の所得を支払いたくはないのである。

ハンガリーでは、使用者は主に、労働時間の再編若しくは労働時間の柔軟化に関心を示している。現在、主に大企業が、国内での労働時間の柔軟化について、限度を6カ月より伸ばすことに関心を示している。これはつまり、注文が減った場合は、使用者は従業員に休日を取らせ、逆に製品やサービスへの需要が増えた場合は、時間外労働という手段を使うことができることを意味する。VASASは、労働時間の柔軟な運用ができる期間を現在の6カ月から1年に伸ばすために使用者と手を組みたいと考えているが、これには条件をつけている。つまり社会的パートナー(使用者及び従業員)は、労働条件の柔軟な運用ができる期間を延長(6カ月から1年に)する場合、労働者の賃金を上げ休日数を増やすか、若しくは労働時間を短縮せざるをえないことを労働協約に入れようとしているのである。

労使関係の専門家によれば、失業率の低下や労働力の労働市場における地位の向上により、こういった種類の労働組合の発言権が強まっている。例えば、ハンガリーでは熟練労働力が不足しており、国内で活動する多国籍企業は、熟練労働者を別の多国籍企業からしか雇い入れできないような状況にある。労働市場におけるこうした変化に助けられ、労働組合は、賃金をより高く、労働時間をより短縮する方針を追求することができる。

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