三菱自動車の再編計画をめぐって
―南オーストラリア州の動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

労働党政権時代に着手された自動車産業政策の主眼は、関税を引き下げ、輸出を通じ規模の経済を追求する点にあった。この政策は、豪州国内の自動車製造業者の淘汰をもたらすと捉えられており、国内で操業する自動車製造業者は、3社程度が適当であると見られている。現在、豪州で操業している自動車製造業者は4社――GM、フォード、トヨタ、三菱の各社――である。このうち、豪州三菱自動車の販売実績は芳しくなく、1999年にはかなりの落ち込みを記録した。

最近になって三菱自動車は、ダイムラー・クライスラー社からの資本受け入れを決断し、これをきっかけに豪州工場を含めた包括的な業務の再編が検討されるようになっている。三菱自動車は、包括的なコスト削減策の実行を表明し、その一環として、ダイムラー・クライスラー社との部品の共同購入により、コストを削減する計画を示した。同時に、同社は、豪州を含むアジア地区の業務の再編の必要性にも言及した。

豪州の三菱自動車をめぐって

アデレードにある三菱自動車工場をめぐって、複雑な動きが見られる。三菱自動車は、同工場に対し、約5億豪ドル(1豪ドル=64.05円)の投資を決定している。しかしその一方で、同工場は、2000年末までに黒字を回復しなければ、閉鎖されるとの見解が同社幹部により示されたため、大きな波紋を呼んでいる。

このように南オーストラリア州における同社の将来性が読めない中、南オーストラリア州政府は、事態を深刻に受けとめ、戦略を練るための特別委員会を設置した。特別委員会が表明した懸念の1つは、技能形成の基礎が失われる可能性についてであった。現在同州は、GM 社の新工場をめぐり他州と誘致合戦を繰り広げている。もし三菱自動車がかなりの規模で事業の縮小を行えば、同州は、新工場の立ち上げに必要な技能労働者の多くを失うことになってしまうのである。

豪州三菱自動車は、2000年4月27日にコスト削減策を公表し、同社の従業員数を600人減らし、最終的に3500人とする方針を打ち出した。人員整理の対象は、主にホワイトカラー部門とされている。これに対しオーストラリア製造業合同労組(AMWU)は、人員削減やアウトソーシングには抵抗する姿勢を示している。AMWUは、特に同社が労働条件を切り下げる目的で、アウトソーシングを利用しようとしているのではないかと警戒感を強めている。

アウトソーシングに伴う労働条件変更については、いくつかの判決が示されている。連邦裁判所は、以前事業所内で行われていた業務をアウトソーシングした事例について、新しい使用者の業務・サービス内容と従前の使用者のそれとが実質的に同一であれば、従前のアワードや協定が引き継がれるとの判断を示した。労組は、この判決が賃金切り下げを目的としたアウトソーシングの利用を阻止すると主張しているが、この問題は、現在最高裁で審理されている。

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