最低賃金問題とメーデーの動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

最低賃金凍結か

最低賃金を決定する機関である中央賃金委員会は、2000年4月20日に開いた会合で、最賃の引き上げは回復し始めたタイ経済に深刻な影響をもたらすとの理由から、最賃の据え置きを決定した。

県別最低賃金も4県(ペチャブリ、クラビ、サラブリ、ナコンパトン)を除いて現行の水準に据え置かれた。サムットプラカン、コンケン、ノコンラチャシマといった地方の大都市で生活費がより必要とされる地域でも、最賃の引き上げは認められなかった。

この決定に対して、使用者側は賛成の意を表している。なぜなら、未だ経済が回復途中であることや、労働コストの増加により、貿易競争力が低下するという危惧、そして、最賃引き上げが労働集約的産業、特に縫製業に大きな影響を及ぼすとの懸念があるためである。

一方労働者側は、労組代表による8点の要求を記載した書類をチュアン首相に提出した。8点の要求とは、(1)失業者に対する社会保障政策、(2)最賃10バーツ(1バーツ=2.74円)の引き上げ、(3)利潤の高い国営企業の民営化反対、(4)解雇者を救済するための基金の設立、(5)現在働いている地域での投票権、(6)すべての職場に環境保護センターを設立、(7)工業地帯すべてに託児所を完備、(8)HIV感染労働者救済のための指標づくり、である。

労組側の要求を受け、労働社会福祉省のウット大臣は、2000年4月28日、5月11日の中央賃金委員会において最低賃金を引き上げたいことを明らかにした。これに対して使用者団体が猛反対している。

2000年のメーデーの動き

このような状況の中、2000年のメーデーで最大の要求項目となったのはやはり、最賃の引き上げであった。労組側は日額180バーツ(現在162バーツ)まで引き上げることを要求している。さらに失業者に対する保障制度の確立、国営企業の株式売却への反対、職場における安全保護と環境制度の整備などである。

また前回の選挙の教訓から、出稼労働者は郷里に戻らなくても、現在働いている地域で投票できるようにするための法律の改正、工業地帯での託児所の設置、エイズに苦しむ労働者への支援なども要求項目として挙がっていた。

メーデーの集会でチュアン首相は、経済危機の衝撃からまだ十分に回復していないうちは、現在の賃金でがまんして欲しいと労働者らに呼びかけ、現行の最低賃金は要求額よりも低いかもしれないが、賃金水準よりもまず経済不況の中で家族を扶養していくために雇用をどう維持していくかを考えるべきではないかと語った。そして、6年前に労働福祉省の業務に関わっていた首相にとって労働問題は常に主要な関心事となっていることも付け加え、経済が回復するにつれて労働問題は段階的に解消し、人員削減もなくなっていくだろうと述べた。

メーデーに見る労働運動の縮小

労組の内部対立やリーダーの欠如から、近年労働運動が弱まってきていることを、労働運動専門家らが明らかにした。国営企業である都市上下水道会社のエカチャイ労組議長は、労働運動が経済政策によって後退してきており、政府と使用者に立ち向かえるカリスマ的なリーダーに率いられていた数十年前の労働者の時代とは全く対照的であると述べた。タイ発電公社(EGAT)労組のアドバイザーであるスビチャーン氏は、労組内で頼りないリーダーに対して信頼感が薄れてきていることや、労働運動のリーダーたちがお互いに不信を持っているために結束力が弱まり、その結果労働運動が弱まったのではないかと述べている。TTUCのプラチェン議長は、過去の政府はメーデーで労働者が要求してきた項目に応えたことはほとんどなく、そのため労働者は、政府が発表した約束を守ってもらうために試行錯誤してきたが、無駄に終わっているとした。そして労働組合はますます分散し、労働運動を起こすような力がなくなってしまっていると語った。LCTのプラサン議長は、サナンルアン地域の1万人の労働者が政府に要求すべき問題で最も重要なものは、最賃の引き上げであるとし、政府は労働者が国家を形成していることを忘れてはならない、と述べた。

アロムポンパガン財団のバンディット研究員は、労働運動の弱体化を次のように説明している。まず第1に、タイの労働運動が、様々な企業からなる小規模の労働組合によって行われているために、労働者の結束力が不足しているということ。第2に、労組メンバーが労働運動に協力するという熱意が欠けていることである。そして、労使関係を「ボスと召使い」と捉えることは、従業員をパートナーとして位置づけるというよりも、生産要素として扱うことにつながる。そのために、使用者が人員削減や賃金カット、福利厚生制度の削減といった合法的な抜け穴を使って生産コストを減らそうとしていることを指摘した。

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