解雇コスト引き下げに対する労使の意見

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

労組側:引き下げに反対

労組、使用者団体および政府は、前政権時代と同じ交渉の枠組みを維持することになる見込みである。労働法制の新たな改正に関しても、政府は労組・使用者団体に二者間会談を行うよう呼びかけ、その結果何らかの合意が見られればこれを官報に掲載すると約し、逆に合意がなければ「進展を見守りたい」としている。以上の方式は、ホセ・マリア・アスナル首相とアントニオ・グテイエレス労働者委員会(CC.OO.)書記長の間で2000年3月22日合意されたもので、近日中にもカンディド・メンデス労働者総同盟(UGT)書記長およびホセ・マリア・クエバス経団連(CEOE)会長も承認するものと見られている。

ピケー政府報道官は、首相(今のところまだ首相代行)と最初に会談を行うのが労組・使用者団体であるという事実の意味を指摘、政府が労組・使用者団体との合意なしに労働法改正を行うつもりはないことを強調した。ピケー氏はまた、首相官邸筋から「解雇コストを引き下げた無期限雇用契約」を提示しているという情報を、明確に否定した。

グテイエレス CC.OO.書記長は、政府が解雇コスト引き下げによって雇用の質を悪化させるなら、労組は賃金引き上げ要求に打って出るつもりであると述べており、過去4年間で180万の雇用創出を可能にした最大の要因は賃金抑制だった点を指摘した。

しかし、CC.OO.は政府に対して戦闘的な姿勢を示しているわけではない。グテイエレス書記長自身、首相が最初の会談相手として労組代表を選んだことを評価している。

経営側:引き下げを要求

スペイン経団連(CEOE)のクエバス会長およびピケー政府報道官は、2000年3月27日、解雇コストの引き下げというデリケートな問題を政府・労組・使用者団体の対話の爼上にのせることをきわめて慎重に避けた。これに対しては、すでに労組 UGT および CC.OO.が拒否を示している。今すぐにも対話を始めたい意図から、解雇コスト問題はいったん保留し、準備段階で決裂することがないようテーマも事前に調整されたかに見えるほどである。

CEOE会長は会談後、CEOEおよび企業の優先事項を具体的に示した。その第1は労働時間・労働編成に関する企業内での柔軟化の追求(転勤、配置転換、賃金設定、インセンティブなど)である。

第2は、賃金以外のコストの軽減である。具体的には現在選別的に行われている社会保障負担の軽減の一般化で、それによって労働市場の細分化を防ごうという意図である。

第3点目は、市場および企業の変化に合わせより質の高い人員を確保するため、労働者の職業訓練の改善を図っていくことである。

クエバス氏はこれら優先事項の中に解雇コストの軽減を含めなかったが、「高いコストのかかる人員整理をどうやって行うかで悩む企業も多い」と付け加えている。

クエバス氏はまた、1997年の労働改革において、解雇コストの軽減が社会保障負担額の減額と並んで安定雇用創出につながる要因となったことを強調(注1)、今後もこの方向で改革を進めるべきとしている。クエバス氏のデータによると解雇コストの欧州平均は「賃金20日分×勤続年数」であるが、スペインはこれよりも高く、また集団解雇に際しての行政介入による煩雑さも加わる。「欧州平均に近づくほどよい」と、彼は述べる。

ピケー報道官もまた、解雇コスト軽減の問題はより適切な時期まであえて触れないとの立場を示した。今後取り上げられるテーマについて、ピケー報道官は、労働時間の柔軟化に関しては労使それぞれのニュアンスはあるものの次第に接近してきているとの考えを示した。労組側は労働時間の短縮を求めているが、雇用者側はこれに対して労働時間の再編を主張している。ピケー報道官はまた、職業訓練、および賃金の改革(固定給部分と企業の生産状況に合わせて変動する部分との区別)についても、話し合いを進める可能性があると見ている。

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