欧州裁判所、助産婦の賃金格差ありと判断

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

男女機会均等オンブズマン(JAMO)が、助産婦の賃金差別問題でエレブル県評議会を相手取り欧州裁判所に提訴した先駆的な訴訟で勝訴した。JAMOが、同じ医療施設で働く、経験豊富な助産婦2人の賃金と若い男性技術者2人の賃金を比較したところ、助産婦の方が1カ月当たり2250~3000クローネ(1クローネ=12.39円)低かった。この2つの職種は同等の技能と責任を要するものであり、助産婦は女性ということで差別されているとJAMOは主張している。使用者は欧州裁判所で賃金格差について抗弁し、助産婦の賃金は、快適でない時間の勤務などに対する特別給の支給を含めると男性技術者と同水準に達し、しかも3交代制の導入で労働時間が短くなっていると述べた。すなわち、時間外手当や交代勤務手当を追加「給付」とみなすべきだと主張した。しかし裁判所は、賃金の比較は基本給について行うべきだという判断を示した。

この訴訟は現在、スウェーデン労働裁判所に差し戻されている。典型的な女性職である助産婦と、典型的な男性職である臨床技術者を比較するのが妥当なのか、妥当なら賃金格差が差別の例証になるのか、あるいは賃金格差はあって当然なのか、労働裁判所は判断を示さなければならない。スウェーデン経営者連盟(SAF)は欧州裁判所の判決について、「性別による賃金格差はなくても、短い労働時間が男女間の賃金格差を生む要因になりうる」というのが裁判所の見解だと解釈している。

この訴訟は先駆的なものである。三者構成の労働裁判所はこれまでのところ、賃金差別について、例えばこの場合には技術者と助産婦という、かなり異なる2つの職種を同程度の難易度を持つ職と見なせるのか、また、そう見なせないのならば賃金格差があって当然なのか、判断を下そうとはしていないからである。JAMOは訴訟の裏づけとして、職務評価を研究してきたが、2つの異なる職種に適用できる職務評価制度を見出したわけではない。

数年前に、この問題をJAMOに持ち込んだのは看護婦組合で、当時、組合は看護婦の賃金が低すぎると感じていた。一般に労働組合は、賃金格差などの賃金問題は団体交渉で解決すべきだと考えており、賃金問題を労働裁判所に持ち込もうとはしない。看護婦組合も現在では、JAMOや裁判所に訴えると、賃金問題の解決に時間がかかりすぎるという事実を認めているようである。この5年間で同組合員の賃金は平均して25%上昇し、この伸び率は、他のほとんどの組合に比べて10ポイント高い。言い換えれば、看護婦不足が賃金交渉をこのうえなく有利にしたのであり、そうした状況では市場が賃金格差の最良の調整役を果たすと組合は理解している。

男女機会均等法の強化

2000年3月16日、スウェーデン労働省は覚書を発表して、男女機会均等法を強化する意向を示した。現行法では、賃金格差の分析を職場ごとに行うよう定めているが、この規定は全く成果を上げていない。現在、労相は、賃金格差の分析を各職場で使用者と組合が共同で行うよう提言している。現行法では、従業員数が10人を超える職場では賃金格差是正策を労使で策定することになっているが、今後は従業員数にかかわりなく、すべての職場にこれが求められる。また改正案によれば、組合が「男女機会均等計画」に実質的に参加できる場合には、個人の賃金統計を入手できなければならない。さらに合同男女機会均等審議会は、男女機会均等に関する分析がルールに従って行われるよう配慮し、実施されない場合には罰金を科すことができる。

スウェーデン労働組合総同盟(LO)と職員労働組合連合(TCO)は、法律を厳しく改正することを歓迎している。一方、経営側はSAFを通じ、改正案が、賃金決定と団体交渉制度(きわめて高い費用のかかる職務評価手続きを含む)に不当に介入するものだと抗議している。個人の給与情報を公表すれば、従業員の個人情報の侵害になるとSAFは主張している。

新オンブズマン

刑事事件の被告側弁護士として、また訴訟専門家として有名なクラーシュ・ボルグストローム氏が新たに男女機会均等オンブズマン(JAMO)に任命された。男性の任命は初めてである。SAF 機関誌のインタビューで、ボルグストローム氏は、助産婦訴訟は「私の担当ではない」として発言を拒否している。とはいえ、男女機会均等法の改正には賛成で、ともかく市場だけに答を求めるとすれば、どのような給与・賃金格差も必ず正当化されてしまうことになろう、とする。また同氏は、使用者が職場ごとの男女機会均等計画作成に協力すべきだと考えている。ボルグストローム氏も、男女機会均等に関する意識を高め、現在広く見られる差別的な態度を早期に改めるために、教育制度がさらに積極的な役割を果たすべきだと主張するであろう。

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