不可欠公共サービス部門におけるスト規制法の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

不可欠公共サービス部門におけるスト規制法(1990年6月12日法律146号)の改正を目的とする2000年4月11日法律83号(「不可欠公共サービスにおけるスト権の行使と憲法上保護された人格権の保護に関する、1990年6月12日法律146号の修正と補充」法)が制定された。

1990年法律146号は、イタリアにおいて初めて、不可欠公共サービス部門におけるストライキ権の行使について立法的規制を行ったものであった。しかし、企業側からみると、同法はストライキ権とサービスの利用者である市民の権利との調整は図っているものの、サービスを提供する企業の利益を無視していたという点に問題があった。もちろん、これはスト規制法が制定された当初は、不可欠公共サービスは、国家が独占的に提供していたという事情にもよる。しかし、現在では状況は大きく変わり、不可欠公共サービス部門においても、企業間競争にさらされるようになっている。そのため、これに応じた法改正を行うことが必要となってきているのである。

また、利用者側の憲法上保護されている権利の保障という観点からも、これまでのスト規制法には不十分な点があったと言える。特に、サービスの提供の確保という点では十分な措置がとられておらず、かえって紛争の発生や激化を促進するという効果をもっていた。例えば、鉄道部門では、スト規制法2条で規定されている「最小限のサービス」に関する協定が締結されなかったり、また保証委員会から、協定の内容が不適切との評価を受けたりしてきており、市民に大きな不便をもたらしていた。

労使も、鉄道部門のこのような状況は、市民全般にネガティブな影響を及ぼすことが不可避であると認識するようになり、立法的介入の必要性が意識されるようになった。そのようななか、議会も、スト規制法の改正作業に取り組むこととなり、1999年7月から2000年4月まで議会で論議されることとなった。こうして、ようやく上記の法律83号が制定されることとなったのである。

新法には、多くの重要な改正点が含まれているが、経営者団体の観点からは、十分な「改革」からは程遠いものである。というのは、これまでのスト規制法の抱える基本的な問題点が未解決のまま残されているからである。具体的には、ストライキの実施をコントロールするシステムやサービス供給企業の利益の保護が定められていないことがあげられる。さらに、最小限保証されるべきサービスについての規定は、むしろ改悪となっているということもできる。

新法のポイント

(1)紛争の減少化

新法では、まず、ストライキを実行してから、次のストライキが宣言されるまでの間に10日以上の間隔を置くことを労働協約の中で定めなければならないとされた(1条4項)。これは、ストライキの理由のいかんを問わないし、どのような主体がストライキを宣言しているかに関係なく義務づけられる。すでに不可欠公共サービス部門でのストライキには10日前の予告が義務づけられているので、新法の制定後は、ストライキが行われた後、少なくとも20日間は正常のサービス提供が確保されることとなる。

ただし、このような義務は、「不可欠公共サービスの継続性が客観的に侵害されることを避けるのに必要な場合」にのみ義務づけられる。不可欠公共サービスにも、様々なタイプのものがあるからである。ただ、鉄道部門では、すでに1998年12月23日に労使協定が締結されて、「ストライキを実行してから、同じサービスや利用者と関係するストライキを次に宣言するまでの間に、少なくとも10日以上をおかなければならない」と定められている(サービスの継続性の客観的侵害という要件は課されていない)ので、この協定が優先されるべきである(ただし、協定は立法ではないので、この協定に署名していない一部の労働組合には拘束力がないという点が問題である)。

(2)紛争の事前抑制

新法では、上記の規定に引き続いて、労働協約の中にストライキを実行する前に踏まなければならない手続として、「冷却」手続と調停手続を置くことを義務づけている。

(3)アナウンス効果について

新法は、適切にも、利用者にストライキの情報提供がされた後のストライキの自発的撤回が、どのような場合に、保証委員会による制裁の対象となる不公正な行為となるかを定めている。ただし、いわゆる「アナウンス効果」についての規制は欠けている。つまり、ストライキが宣言された後にそれが撤回されても、利用者の減少が予想されるため、企業が、それに対応して、サービスの量も減らすことができるような労働組織上の手段をとることができるという規定は設けられていない(具体的には、サービスの減少に応じて、不要となった労働者を休業させるというような措置をとることを認める規定がない)。

(4)利用者団体の権限

新法において、企業が利用者に十分な情報を提供しなかったり、労務の停止中に利用者に対して必要な協同作業をしなかった場合において、利用者が、標準的な質と効率により公共サービスを利用する権利が侵害された場合には、利用者の権利の侵害を確認する判決を、責任者の費用で公開するよう提訴する権限を利用者団体に承認している点(6条)は、行き過ぎのように思われる。

このような規定は、サービスの提供の減少に通常随伴する不都合について、いかなるものであれ企業に責任を負わせるということを利用者団体に認める結果となってしまう。言うまでもなく、ストライキが行われている時に、標準的な質と効率を維持したサービスを確保するのは困難である。

(5)徴用令

ストライキの実行により、憲法上保障されている人格権に対して、重大かつ緊急な危険が生じる場合に、政府または県知事が発することができる、いわゆる「徴用令」に関する規定も見直された。そこでは、徴用令がいっそう迅速に発せられるようにいくつかの修正が盛り込まれたが、徴用令を発する前に当局のイニシアティブにより、「調停の勧試」を行うという手続は、そのまま残されている。そのため、この調停手続に招集されて、認知されるということだけを求めて、ストライキを行う組合が出てくるおそれがある。

(6)制裁制度

ストライキを宣言した主体に対する制裁システムは修正されて、労働者憲章法(1970年5月20日法律300号)が認める有給休暇権(23条)やチェックオフの権利の停止という従来の制裁が適用可能ではない組合に対しては、過料を課すことができることとなった。

ただし、法律違反の行為を行った組合および関係する労働者に対して懲戒処分を行うというきわめて実行が困難な義務は、依然として企業に対して課されたままとなった。

制裁措置をより実効的なものとするためには、法律違反を行った者に対する制裁を、保証委員会が行う行政的制裁のみとすることが必要であったであろう。

(7)保証委員会の新たな権限

新法は、1990年の法律で、ストライキ権の行使と憲法上保障されている人格権の享有との調整を確保する措置の適切性を判断することを目的として創設された保証委員会の権限を拡大した。

まず第1に、当事者間で協定が締結されなかった場合、または、適切と評価できる協定が締結されなかった場合に、暫定的な規制を行う権限が保証委員会に付与された。この暫定的規制は、当事者間で協定が締結しない間は、一般的拘束力をもつこととなる。ただし、この暫定的規制で定められる最低限のサービスは、法定の基準を遵守しなければならないとされている(平均で、通常のサービス量の50%以下で、通常使用している職員の3分の1以下)。このような制約は、保証委員会の権限を限定することを目的としたものであるが、最低限のサービスを労使で合意して決める場合の事実上の上限として機能する危険性もある。

保証委員会の権限の拡大に関する第2のポイントは、保証委員会に紛争の予防とチェックの権限が付与され、しかも紛争調整のために、調停だけでなく、仲裁の権限も与えられた点である。このような改正の方向性は基本的には妥当であるが、ただ別の目的で創設された機関に、紛争調整の権限まで付与することには当惑もおぼえる。新法は、ストライキが現実に頻発しており、それがマスメディアで大きく取り上げられていたという状況の中で制定されたものであるが、そのような事態の緊急性が新法の制定を正当化することにはならない。1990年の法律のときも、同様の状況の中で法律の制定が行われた。

新法は、ストライキの減少や、利用者にとっての状況の改善をもたらすことはないであろう。さらに、公共サービスにおいて真の意味での改革を行う可能性を、長期間凍結することになり、イタリアのシステム全体の効率性と競争力に影響を及ぼすことになろう。

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