失業率の低下と政府の新たな雇用対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

創業ブームや政府の冬季雇用対策の効果等による失業率の低下

統計庁によると、2月の失業者数は112万1000人で、1月より6000人減り、失業率は1月と同じ5.3%を記録した。ただ、季節的要因を調整した失業率は4.4%で、1月より0.2%下がった。2月に失業者数が減少に転じたのは、1983年の雇用統計作成以来初めてである。

この背景について統計庁の関係者は、「例年、卒業シーズンに建設及び農業部門での日雇労働需要の減少により、失業者が増加するが、今年は景気回復に伴い、情報通信サービス業部門における創業ブームに政府の冬期特別雇用対策も手伝って就業者数が増加したためである」と述べている。

就業者は2014万9000人で1月より1万8000人(0.1%)増えたが、特に「企業向けサービス・個人向けサービス・公共サービス業」部門と「農林水産業」部門での増加が目立っている。まず農業部門では、本格的な農作業に備えての仕事が増えたこともあって、就業者数は1月より4万6000人(2.6%)増えた。

次にサービス業部門では、情報通信分野でのベンチャー企業の急増や、経営・技術関連コンサルティングなど企業向けサービス部門での就業増加の他に、インターン社員制度や情報関連部門での失業対策事業の拡大などにより、就業者数は1月より11万9000人(2.5%)増えた。後者のような政府の雇用対策の効果もあって、10代、20代など若年層の失業率はそれぞれ4.7%ポイント、0.7%ポイント下がり、14.2%、9.1%を記録した。

特に、新卒未就業者向け雇用対策としてその効果が著しいインターン社員制度の場合、1999年末の第3次募集には、4万2000人の募集に対し、それを大幅に上回る7万4770人が応募した。そのうち、4万2000人は契約職社員として就職できたものの(そのうち83.2%は300人未満の中小企業に、8.0%は1000人以上の大企業に)、残りの3万2000人余りは依然として就職できずにいたため、急きょ1万2000人を追加選抜した。

労働部は「このようなインターン社員制度には失業率を0.3%ポイント下げる効果がある」とみている。その他に、労働部はインターン社員の正社員への転換を促すために、企業のインターン社員の採用枠を常用労働者数の20%以内に制限していた規定を緩和し、インターン社員を正社員として採用した人数分だけ追加でインターン社員を採ることができるようにした。また正社員としての採用を約束した企業に優先的にインターン社員を斡旋し、正社員としての採用が難しい業種は後に回すことにした。

ちなみに、財政経済部によると、1月と2月の倒産件数は平均235件にとどまっているのに対して、新設企業数は平均3500社に達するなど、創業ブームが続いている。業種別開業状況をみると、情報通信関連サービス業が34.0%で最も多く、次いで卸小売業(24.4%)、建設業(24.4%)、製造業(22.1%)の順となっている。

そして賃金労働者の雇用形態別推移をみると、卸小売・宿泊飲食業、製造業、建設業部門における日雇労働者の減少で、2月の日雇労働者の割合は0.2%低下し、17.4%を記録したのに対し、臨時雇労働者は0.2%上昇し、34.9%を記録した。常用労働者は47.7%で横這いである。日雇労働者は1999年2月の14.9%から9月には19.7%に上昇した後、10月から減少に転じていたのに対して、臨時雇労働者と常用労働者はそれぞれ1999年2月の33.7%、51.4%から9月には33.4%、46.9%に減少した後、10月から上昇に転じていた。

労働部は3月27日、サービス業を中心に時間制労働者(週15時間以上44時間未満)が急増しているにもかかわらず、時間制労働者に対する法的保護措置の運用があいまいになっていることを重くみて、次のような「時間制労働者に対する労働基準法の適用指針」を各地方労働官庁に発出した。

まず5人以上の事業所は、週15時間以上働いた労働者が皆勤した場合は有給の週休、年次・月次休暇を与えなければならない。第2に、時間制労働者が1年以上働いた場合は退職金を支給しなければならない。これに違反した事業主には2~3年以下の懲役または1000~2000万ウオン(100ウオン=9.45円)以下の罰金刑が科される。ただし、週15時間未満の労働者は労働基準法上の保護は受けられるものの、有給の週休、年次・月次休暇、退職金の規定は適用されない。

派遣労働者の雇用期限をめぐる動き

1998年に労働市場の柔軟性向上策の一環として法制化された労働者派遣法に定められている派遣労働者の雇用期限(2年)をめぐって、財界や派遣労働者等から期限延長を求める声が上がっている。

1998年7月1日に労働者派遣法が施行されて以来、派遣労働者数は1998年末の4万1545人から1999年末には5万3218人に増え、派遣先企業数も1998年末の4302社から1999年末には6488社に急増した。そのうち、60%は20代の女性で占められている。

労働者派遣法では派遣労働者の雇用期限は2年で、2年以上雇用しながらも正社員として採用しない場合は、派遣先事業主に対して2年以下の懲役または3000万ウオン以下の罰金刑を科すると定められている。2000年7月1日には、法施行に合わせて最初に契約した派遣労働者の雇用期限が満了するため、派遣先企業は正社員としての採用かそれとも派遣労働者の入れ替えかの選択を迫られている。

大半の派遣先企業は既存の正社員の雇用調整を視野に入れていることもあって、秘書や事務補助職、運転手などの派遣社員を正社員として採用することには及び腰で、実際には業務に慣れてきた既存の派遣社員を新たな派遣社員に入れ替えるしかないようである。

これに関連して労働部雇用政策課長は、「派遣労働者の派遣期限を定めないと、むしろ雇用不安が広がる恐れがある。派遣先企業は派遣労働者を正社員として採用するのが難しければ、契約職や日雇いとして雇用するよう努めるべきである」と述べている。

その一方で、大韓商工会議所は4月5日、「派遣労働者の雇用期限をさらに1年延長するよう」政府に建議した。具体的には「今後失業率が下がり、労働市場の柔軟性が高まる時まで、時限付きで派遣期限を延長するよう」求めるとともに、「7月以降派遣労働者の入れ替えが順次行われれば、派遣先企業は業務上の支障や新しい派遣社員の教育訓練の負担を強いられることになる。それに、派遣期限の満了に伴い、派遣社員を正社員として採用するかどうかは企業側の自主的な決定事項であるだけに、それを規制するのは不合理な制度である」と主張している。

政府の新たな雇用対策

政府は4月1日、「経済政策調整会議」を開いて、新たな「就業促進及び雇用安定対策」をまとめた。政府は、「今後も製造業部門での開業増加(1年以内の新規雇用創出効果は平均9.4人と推計)や建設工事の増加などにより就業者数は1999年より100万人以上増え、失業率は当初の年間目標である4%を上半期に繰り上げ達成、10月頃には3%台前半まで下がる」との見通しを示したうえで、各省庁別に次のような「就業促進及び雇用安定対策」を推進することにしている。

第1に、新規雇用創出効果が大きい中小・ベンチャー企業の育成と健全な発展を促すための環境づくり(中小企業庁)。

  • イ)1兆ウオン規模のベンチャーファンドを作って、民間のベンチャーキャピタルが投資先として忌避する部品・素材関連製造業と創業期の企業等に投資する(製造業部門のベンチャー企業数は全体の70%を占めているが、ベンチャーキャピタル投資額は全体の30%にすぎない)。
  • ロ)ベンチャーキャピタルが大株主である系列企業への投資を禁止し、経営上問題のあるベンチャーキャピタルを市場から退出させるなど、ベンチャーキャピタルの健全性を図る。
  • ハ)コスダック市場の健全性と安定的な発展のために、公開企業に対する公示機能と管理監督を強化し、ベンチャー企業に対しては認定後の管理体制を強化する。
  • ニ)地方におけるベンチャー企業の育成・活性化のために「ベンチャー企業育成促進地区」を指定し、超高速の情報通信網を優先的に構築し、地方中小企業資金を優先的に配分する。

第2に、40~50代の中年層を対象に情報関連教育などの能力開発プログラムの実施(労働部)。

  • イ)雇用保険の職業能力開発事業や情報化促進基金を活用し、2003年まで1000万人を対象に情報関連教育訓練を実施する。
  • ロ)転職予備軍15万人を対象に各自の職業経験やキャリアプランに合わせた転職・再就職・創業を支援するためのプログラムを新設する。
  • ハ)大企業で長期勤続した退職者の中小企業等への再就職を支援するため、教育及び就職斡旋プログラムを強化する。
  • ニ)労働者の能力開発を支援するため有給休暇訓練の支援要件を緩和し、有給休暇訓練制度や年次・月次休暇の活用を促進する。
  • ホ)中小・ベンチャー企業の創業資金の支援、技術集約型中小ベンチャー企業のインキュベーション、長期失業者の自営業開業支援、生計支援型創業向け信用保証など創業支援制度を拡大実施する。

第3に、3K 業種における作業環境改善のために資金や技術面での支援の強化(労働部。3K 業種では劣悪な作業環境や高い労働災害率を理由に就業を忌避する傾向が根強く、約14万人の人手不足が予想されている)。

第4に、女性の就業を促進するための支援の拡大(労働部)。

  • イ)出産前後の有給休暇期間を現行の60日から90日に延長する。
  • ロ)育児休職期間中(1年未満、無給、事業主への奨励金)、賃金の一定額を雇用保険から支援する。
  • ハ)家族介護休職制度(事業主への奨励金)を新設する。

第5に、専門人材の不足が予想される情報通信産業や国際貿易分野における人材育成(情報通信部、産業資源部。情報通信産業においては2004年まで約21万人が不足するが、特に修士・博士レベルの専門人材の不足がより深刻化すると予想されている。国際貿易分野では中小ベンチャー企業を中心に貿易専門人材1万人以上の不足が予想されている)。

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