イタリアにおける企業年金

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

イタリアにおける企業年金制度である年金基金は、それほど一般には普及してこなかった。以前は企業年金制度は、せいぜい、銀行や保険などの業種か、すでに他国を参考にこの制度を導入していたいくつかの企業などにおいて導入されているにすぎなかった。イタリアにおいて年金基金が普及してこなかった理由としてまず第一にあげられるのは、イタリアでは公的年金制度による所得保障が相当満足のいく水準に達していたこと、および、退職手当制度が存在していること、である。しかし、より重要な理由は、長い間、年金基金に対する特別な法的規整が欠如していて、この制度をめぐる法的状況が不確定であったということであった。

しかし、1990年代に入り、公的年金制度に修正が加えられ、さらに補足的年金制度を規整する1993年4月21日法律124号が制定されたことから、イタリアにおいても、年金基金に対する関心が高まることとなった。

この法律の制定をきっかけに、労働協約において年金基金の導入を規定する例が徐々に増えていくこととなる。そして、最近の全国協約の改訂交渉により、補足的年金はまさに爆発的に普及することとなった。具体的には、すべての協約改訂交渉において、年金基金の設置が組合からの要求事項に含まれており、しかも、すでに改訂された協約の多くにおいて、産業別全国年金基金の設置が規定されることとなった(化学、機械、商業、繊維など)。

そこで以下、このような新たに注目の的となってきているイタリアの年金基金について、その制度の概要を紹介しておくこととする。

年金基金の内容

(1)年金基金とは何か

年金基金の唯一の目的は、公的機関が義務的に行う年金給付を補足する年金給付を保障することである。

年金基金は、営利目的をもたず、加入者と使用者双方を代表する機関により運営される。個々の労働者の年金基金への加入は任意である。

(2)年金基金の対象者

年金基金の対象者となることができるのは、公共部門および民間部門における従業員たる労働者、自営業者(独立労働者)、自由職業人、生産労働協同組合の組合員たる労働者(1995年法律335号4条で追加)である。

(3)年金基金の法的構造

年金基金は、企業レベルまたは企業グループレベルで設立された場合には、法的には、「認可されていない結社」(民法典36条。法人格なき社団)となる。また、それが部門別、産業別その他の集団的な基金である場合には、「認可された結社」(民法典12条。法人格を有する社団)となることができる。

年金基金は、このように社団性を有するものであり、規約、その施行規則、(運営・管理機関における、加入者の代表者の選挙のための)選挙規則を備えていなければならない。

運営・管理機関(運営評議会、会計検査団)は、年金基金に拠出を行う使用者の代表者と加入者たる労働者からなる二者構成でなければならない。使用者の代表者については、指名により選出することも認められているが、労働者の代表者については、選挙によって選出しなければならないものとされている。

(4)年金基金の設立方法

年金基金の設立の根拠となりうるのは、次のものである。

  • 労働協約(企業協約も含む)
  • 労使協定(企業レベルのものも含む)
  • 就業規則(労働協約や労使協定が適用されていない事業所に限る)
  • (集団的な約定がない場合において)全国労働協約の署名者たる労働組合の発意に基づき行われる労働者間の合意

(5)年金資産の運用

年金基金に集められた年金資産は、賦課方式をとる公的年金制度とは異なり、積立方式に基づき運用される。その結果、年金基金の内部では、各加入者が、他の加入者と区別された独自の個人勘定の権利者となる。この個人勘定には、企業と労働者により拠出金が払い込まれる。年金基金は、法律により年金資産の運用権限が認められている一または複数の者との間で協定を締結して、そこに資産運用を委ねる。年金資産の運用権限をもつのは、次の主体である。

  • 証券会社(Sim)
  • 保険会社
  • 銀行
  • 投資運用会社

(6)年金基金のタイプ

年金基金には、「閉鎖型」と「開放型」の2つのタイプのものがある。前者は、労働協約や就業規則に基づき設立されるものである。後者は、資産運用機関により設立されるものである。

基金への加入方法は、次のようになる。個人で加入できるのは次の場合である。第1に、基金が存在していないか、機能していない場合。第2に、他の基金での加入要件を喪失した場合。第3に、他の基金において3年間の加入後に異動をした場合。

集団で加入できるのは、集団的な約定による場合である(ただし、年金基金の設立に関して、異なる規定がある場合には、この限りではない)。

(7)年金基金の財政面

年金基金の資産は、労働者と使用者の負担する拠出を通してまかなわれる(この拠出には、税制上の優遇措置がある)。新法の施行日にすでに採用されていた労働者については、労働協約での定めがあれば、退職手当の一部を充当することができる。これに対して、新法の施行後に採用された初回就職の労働者に対しては、各年において発生した退職手当の全額を充当しなければならない。

労働協約では、労働者と使用者の負担する拠出額を定める。これは、退職手当の算定基礎となる報酬額に一定の比率を乗じるという形で決められる。

(8)給付

給付額は、次の2つの変数によって決まる。第1に、払い込まれた拠出額(使用者によるもの、労働者によるもの、退職手当からの充当分)、第2に、年金資産運用機関による運用成果である。

なお、自営労働者には、以上の確定拠出型年金だけではなく、確定給付型年金も認められている。

年金基金は、受給資格者に対して年金給付を支給する。ただ、加入者たる労働者は、規約に規定があれば、積立額の50%以下の額の一時金の支払いを請求することができる。また、年金基金に充当された退職手当については、その繰上支給を受けることもできる。

(9)補足的年金

年金基金は、受給資格者がその所属する義務的公的年金制度における年金支給開始年齢に達している場合に、補足的「老齢」年金の支給を開始する。ただし、当該年金基金に5年以上加入していることが要件となる。

これに対し、補足的「退職」年金の支給要件は、次のようになる。

  • 労働活動を停止すること(要するに、引退すること)
  • 10年以内に老齢年金の支給開始年齢に達すること
  • 年金基金への加入期間が15年以上であること

(10)労働関係の解消

労働関係が転職や失業などの理由で解消された場合には、労働者は、以下の選択肢のうちの1つを選択する権利をもつ。

  • 年金上の地位を清算し、すでに発生している額を直接に一時金で得ること(払戻し)。
  • 新たな職場での年金基金にその年金上の地位を移管させること。
  • 「開放型」年金に、その年金上の地位を移管させること。

(11)年金基金の移管

労働関係の継続中において、労働協約による年金基金に加入している労働者は、「開放型」年金にその年金上の地位を移管させることができる。ただし、年金基金の設立から5年間は、このような移管を請求することはできない。その後は、3年以上加入している者であれば移管を請求することができる。 (12)加入者のための保障と監督  法律は、加入者を保護するための一連の規定を置いている。

第1に、委託された年金資産は、分離された独立の財産とされなければならない。第2に、資産を委託された銀行は、管理機関の行う活動の適正さを監督しなければならない。第3に、管理機関は、イタリア銀行などの監督を受けなければならない。

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